第2話
施設内に歌声が響き渡る。
「Ba de ya - say do you remember
Ba de ya - dancing in September
Ba de ya - never was a cloudy day!
Ba duda, ba duda, ba duda, badu」
廊下を歩いてる男が口ずさんでいた。男はカードを出し扉の認証を解除した。扉が開き男は研究室の中に入る。
「やぁ!前にお勧めしたSeptemberは聴いてくれたかな?」
男は両手を開きながら研究室の中にズカズカ入っていく。部屋の奥には青い髪をして白衣を着た男がいた。デジタル化されたキーボードを操作し続け空中に浮いた様々なタブを開いている。
研究室の机の上に置いてある瓶が目に止まった。蓋は緩く閉じられ中は赤い液体が少し入ってるだけでほぼ空だった。
「おいおい、空っぽじゃんか。それだけ研究に没頭してたの?」
「補給しに行く時間なんて無い」
「身体持たないよ、ちゃんと飲んでおかなきゃ。」
「この程度の時間……」
青髪の男は余裕そうに振舞っていたが手は
痙攣し始め息切れしていた。そして目眩がしたように頭がフラフラしてその場で崩れた。
「はぁ……はぁ……」
両手を床について必死に呼吸している。
「ほら、俺の分けてあげるから」
そういうと懐から小さい瓶を取り出し蓋を開ける。瓶を口元につけゆっくり飲ませる。
「げほっ……」
吐き戻す事があっても飲ませ続けた。そのおかげか少し経つと大分落ち着いていた。呼吸は安定したし痙攣も無くなっていた。
「研究に没頭し過ぎも良くないよ」
「すまなかった、別ので代用出来ると思ってたんだ」
この男は自分の身なんて少しも考えていない。ビタミン剤にエナジードリンク、鎮痛剤、ステロイド。他の薬剤も合わせ何日何回も摂取し続けていた。
「貴方のことだから眠ってすらいないでしょ」
「もう3日になるかな……」
「無理し過ぎだ」
「アメリカの男子高校生は11日寝なかった人もいたんだ、もう少し……」
「はいはいクラシックかけてあげるから寝ましょうね」
青髪の男をベッドに運んだらすぐに寝てしまった。意外と子供っぽい一面を見て頬が緩んだ。布団をかけてベッドから離れていく。
机の上にある資料を見ていると扉が開いた。
「やっほー、将来のお嫁さんが会いに来たよ!」
扉を開けたのは白髪に赤いメッシュが入った女。入室して早々大声をあげてくる。
「げっ……何であんたがいんのよ」
「げっとは何だ、げっとは。シューベルトの魔王を見た様な目して。今寝てるからそっとしていてあげてよ」
「えぇ……残念。やっと仕事終わったのに」
2人はベッドに近寄り青髪の男が寝てる様子を見る。いつもはかっこよくて冷徹な顔をしているのに落ち着いた表情ですやすや眠っている。
「……夜這いも悪くないなぁ」
「おい、やめてあげろ。3日寝ないで調べ物してたんだから」
「じゃあ起床時?」
「そういう問題じゃねぇ」
彼女は彼が寝てると知るとつまらなそうな顔して研究室から出ていってしまった。
「寝てるならいいや、ばいばい!」
また静かになるなと思ってたのだが彼女は研究室の入口で立ち止まった。
「ねぇ」
「どうした」
そう返すと彼女は赤く光る眼をこちらに向け睨んできた。そして低い声で言葉を吐いた。
「……鼠が迷い込んで来たなら私に任せてくれればよかったのに」
一瞬心臓が跳ね上がった様な気がした。普段笑っている彼女が強ばった表情になった。見られていたのか。
「君が出る幕じゃなかった」
「そっか!」
彼女は笑顔で頷き研究室から小走りで去っていった。襲ってきた緊張が抜けていく。
あの眼差しは普段の彼女とは違う、明らかな殺意を見せていた。居場所を取られたくない、その一心故の表情だったのだろうがその決意を示すには充分過ぎた。
ベッドの横にある小さい机の上にクラシックの再生リストを選択した端末を置いて研究室を後にした。
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