Overdose

@rurosan

第1話


研究所中に走る足音が響き渡る。


「その道を左だ」


耳に付けた無線機から声が聴こえる。


「本当にこっちで合ってるの?」

「あぁ、研究所内の見取図、内装は全て把握した。監視カメラの場所、カメラの死角、部屋の場所や寸法までな」

「時々あなたが怖くなるわ」


走り続けている彼女は腰にブレード、ホルスターにハンドガンを携えていた。機敏に敵を退けながら走り続ける。


「この部屋よね」

「その部屋だ、その中に依頼人の赤子がいる」


依頼の内容は組織に攫われた娘を取り返して来て欲しいとの事。依頼人はまだ2歳にも満たない娘を攫われていた。彼女は先程従業員を倒し手に入れたカードを使って

部屋の扉を開ける。部屋の奥に進むと赤子の声が聞こえてきた。


「中の状況はどうだ?」

「見つけたわ」


彼女の目の前には揺り籠で揺られている赤子がいた。揺り籠の横側に依頼人から聞いた娘の名前が書かれているタグがあったおかげで見つけることが出来た。だが揺られているのは目の前の子だけではなかった。周りにも何人もの赤子がいたのだ。


「ただ、依頼人の子以外にも他にも沢山赤子がいるわ」

「何だと?そこの組織は依頼人以外の赤子も攫っていたのか?……分かった、1人で沢山の子を連れていくのは無理だ。応援を要請するから依頼人の子だけ連れて戻れ」


彼女は目の前にいる赤子を抱き抱えた。

そしてホルスターに手をかけた時


「オッフェンバックを聴いたことはあるか?」


その声に驚き声のする方へ銃を向ける。

先程入ってきた入口に男が壁に寄りかかっていた。黒い上着を着ていて仮面で目元を隠している。


「ないか?ビゼーのカルメンは?」


男は彼女に問いかけ続ける。


「この子達をどうするつもり?」


返答をはぐらかされ、男は少しガッカリした様子を見せた。


「ないのか……お勧めだぞ」


男は彼女に向かって指を縦に振り、音楽の話を続ける。


「お前モーツァルトのファンか、俺も好きだ。だが俺はもう少し重い感じの曲を奏でたいなぁ」


男は音楽の指揮をしているように手を振り始めた。


「くだらない茶番は遠慮するわ。そこをどきなさい」


そう言われると男は眉を寄せた。男は自分の指を立て指先に小さい赤色の剣が現れた。


「赤ん坊を撃つの?悪い野郎ね」

「赤ん坊より、自分の心配をしたらどうだ?」


ドアの両端に隠れていた兵士がぞろぞろと出てきて彼女に銃口を向けた。

兵士達は完全武装されていて簡単に貫けそうなものではない。流石に彼女もこの人数では太刀打ち出来ないと察した。戦うことより

逃亡を優先することにした彼女はホルスターに銃を収め腰に装備していたスモークグレネードのピンを抜き、敵の方へ投げた。


「うっ……」

「クソっ」


兵士達が手で目をおさえてる中、男は目を開けたままだった。

頬に風が流れていくのを感じ、彼女の方向を目で追っていた。彼女は男の真横を通り過ぎ走り去っていった。自分の真横にいたことは分かっていた。だが男はわざと手を出さないでいた。男は彼女が走り去っていった方向を眺めていた。


「……また遊ぼう」





「冗談じゃないわ!あの施設、ただの研究所なんかじゃない!赤子が何人もいたのよ!?」

「はい……はい、確かに受け取りました。いえ本当に良かったです」

「それにあの男は誰なの!音楽の話ばかり振ってきて!」

「はい、有難う御座いました。それでは失礼いたします。」

「ねぇシア!」

「うるっせぇんじゃボケェ!!電話してんの見えねぇのかよ!!」


シアはシリルに向かって怒鳴った。シアは依頼人と取引の電話をしていた。依頼人の赤子を取り戻してきたので報酬を受け取ったのだ。


「俺はオペレーターであの部屋で何があったのか見てねぇの!赤子が沢山いることくらいしか理解してねぇの!」


任務中シリルから報告されたこと、あの施設には何人もの赤子がいる。人身売買か臓器を使うのか養子か使用用途は定かではないが、ろくなものではないということだけ理解出来る。シアはずっとそのことが気がかりだった。


「ごめんってぇ……でも今までこんなことなかったじゃん」


確かに今まで数多の依頼をこなしてきたが、赤子を何人も集めている組織は初めてだ。こうなれば徹底的にあの組織を調べあげ、赤子達を救ってみせる。


「シアァ……あの組織どうするの?放っておくの?」

「……ホークアイとアイネを呼べ」


我等職員総出で丸裸にしてみせる。どれ程大きな組織だろうと国が絡んでたとしても真実を暴き、報いを受けさせる。


「捻り潰すぞ」

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