#24 - 強欲
アタシの思考はどんどんずれ出した。大人だしモテるだろうし、もちろんあるだろう。
それを思うとアタシの中に
相手が誰かも知らないし、そんな人がいるかどうかすらわからない。目撃したわけでもない。妄想が勝手に作り出した
アタシにも小野と同じように独占欲があることに気づいた。小野の場合何とかそれが満たされたのかもしれないが、アタシの欲望が満たされる時は訪れない。
誠と小野はアタシに現実を突き付けた。
あれから誠とはほとんど話していない。
夏の炎天下で屋上に行くのをやめてから話す機会はなくなり、気を抜くと誠が教室内でも話しかけてきそうで、アタシは以前のようにイヤフォンを耳にして窓の外を眺め『話しかけるな』というオーラを放った。
たまにメールが来たが当たり障りのない返信をしただけだった。
あいかわらず小野もそれ以外の女の子も前の席の誠の元を訪れる。これまでは誰が誠の彼女になるのかというレースの行方を観察し、独自に考察していたがそれももうやめた。
誠と小野の何らかの関係に関わりたくなかった。
アタシに勝利宣言し勝ったことになっている小野の独占欲を刺激したくなったからだ。
もしこのレースから小野が敗退する時が来たとしても、また別の誰かが小野にとって代わり、またアタシを敵視し始める。後わずかの高校生活をそんなループに巻き込まれて過ごしたくはなかった。
だから誠とは距離を置いた。
数週間前に黒いワンピ―スを“
駅から店まで歩いて5分くらいだが、太陽が照り付けていてその距離でも体力がどんどん奪われていくのがわかった。
店の前に着きとりあえず持っていたペットボトルの水を一気に飲んだ。
ドアを開けると奥のカウンターにミサがいて、手前のスツールに2人座っていた。
「いらっしゃい、待ってたよー」
と、ミサが声を出した時アタシは気が付いた。
大きくて少し猫背で腰かけている後ろ姿に見覚えがあった。
となりには
アタシは突然訪れた偶然に身がすくみ動けずにいると
「アンタらのファンの子だよ」
と、ミサがアタシに手招きをしながら2人に言った。
「
と、軽い感じでアタシに向かって話した。
「高校生なんだね」
「はい、3年で」
と、返事するのが精一杯だった。
「あの高校の近くの海岸でさ、フラれてなかった?」
と、ミサが笑いながら言い、彼女の目線の先には
「うるせぇよ。いつの話だよ」
と返答し、3人は笑っていた。
「オレ、恋愛関係ダメよ」と、彼はアタシに返答してくれた。
「
ミサが
「そ、
と、
アタシはそういうちょっと影のあるあまり派手ではない
「わざわざ海岸に呼び出されてフラれたの?」
ミサはしつこく
「そうだよ、っていうかさ、この辺のヤツらって何でも海を舞台にしすぎだよな」
おもしろい言い回しで彼は答えて
「だからオレ、海嫌いなんだよ」
と、付け加えた。
やはり共通点があった。とたんに海を嫌うことがかっこいいことに思えた。
そんなたわいもない話をして3人は笑っていた。アタシもなんとなくそこ混ぜてもらっていたが、アタシの中で覚えたての感情が見え隠れしていた。
しかしそれは早々に消し飛んだ。
「コイツら私の恩人なのよ」
と、ミサは2人を指しながら続けた。
「ウチの旦那のバンドからヴォーカル引き抜いてくれたお陰で、今平和な生活送ってるからさ」
当時ミサと付き合っていた今のパートナーも、
「もし、旦那がバンド続けてたら私はお金の為に働いて、今みたいに好きな事を仕事にできなかったと思うんだよね」
ミサはしみじみ言った。
バンド・音楽の世界はそう甘くはないことを物語っていたのと同時に、メジャーデビューまでいった
サイズ直しを頼んでいたワンピースを受け取って帰ろうとした時、ミサに高校卒業後の事を聞かれたので大学に行く事を伝え
「でも、今日も塾サボっちゃったんで、どこも入れないかも」
と、笑いながら言うと
右側に座っていた
「がんばれよ」
と、言った。
それ以降アタシの記憶はない。
彼にどんな返事をしたのか、どうやってウチまで帰ったのか、まったく記憶がない。今自分の部屋でベッドに横たわって天井を見ているがその実感さえない。彼に触れられて感極まったアタシは天に
だけど彼のぬくもりだけはハッキリと頭に残っている。
それでまだ生きていることはわかった。
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