#22 - 高邁󠄀
夕方になり3週間ぶりに
彼女はやはりファミリーレストランのバイトは辞めて、キャバクラでバイトを始めていた。
「バイトしないとライブ行けないし。でも学校大変でバイトそんなに入れないんだよね……」
少し疲れ気味な彼女は言った。
火曜日と金曜日の夜だけ働くだけで、以前の週4日働いていたファミリーレストランを優に超える給料をもらえるらしい。
「大変だね」と、返すと
「でもライブで元気もらえるから」
いつもと変わらない無邪気な笑顔で言った。
「
と、聞かれたが子猫を拾って保護してもらったことは話したが、何故か誠のことは話さなかった。学校で友達ができたという事は大ニュースなはずだけれど、誠と仲良くなってから
特に誠とは何かあったわけでもないし、恋愛に至っているわけでもないが、男の子と仲良くしてることが何か後ろめたいことのように思えていた。ヴォーカルの
アタシは去年から、彼を真似て彼ほどではないが髪を明るめに染めていた。それで彼の黒髪にまた憧れて次のバイトのお給料で黒色に変えようと決めていた。
今日も
彼が大きくてしなやかな手で作り出すリズムに身を揺らす。
あっという間に時は過ぎる。
最近完成した曲を初披露すると言って耳慣れないイントロが始まった。スローテンポでゆったりとしたベース音が心地よかった。とてもロマンチックで壮大なラブソングを
アタシと
その新曲が終わると歓声と拍手が鳴り響いた。アタシと
「今日、どうしても地元のココで報告したいことがあります」
観客は静まり注目した。
「メジャーデビューが決まりました!」
大歓声が巻き起こった。
アタシと
彼らの夢が現実となった。
デビューは翌年の初めで、それまでにアルバムを完成させる為に今は曲作りに心血を 注いでいるということだった。
そして最後に1曲演奏し、いつも以上に興奮している観客と一緒に盛り上がった。
帰り際、
新しく所属するレコード会社にファンクラブが移行し
「やっとアイツらから解放されるよ」
と、笑顔で言った。
「でも、寂しくないですか? 好きな人の手伝いできなくなって……」
「もしかして、私が付き合ってるってウワサ信じてるの?」
「あ、はい」
「付き合ってないんだよぉ。っていうか高校時代付き合ってたの。今はもう」
余計なことを言ってしまったアタシに対して嫌な顔せずに、彼女はヴォーカル以外は子供の頃からの知り合いだから腐れ縁だと話していた。
彼女は悟ったように言った。
「バンドマンと付き合う程、
「そういうものなんですね……」
「私、こう見えて意外と
彼女は笑っていた。
いつものようにライブが終わって終電までの間ファミリーレストランで
まずはドリンクバーで取って来たプラスティックのカップで乾杯して、やはり今日の話題はメジャーデビューについてだ。自分たちが応援してきた日々が報われたような気がして嬉しかった。
「ドームツアーとかやったりするのかなぁ」
と、
「やっぱり、人気出たらやるんじゃない?」
「その時も一緒に行こうね」
「うん、お互い何してても一緒に行こうね」
多分近い将来
「それも楽しみだけど、でも……。少し寂しいね……」
と、
「どんどん人気出て、どんどん遠い存在になっちゃうね」
「そっか……」
「私達の事なんか忘れちゃうよ」
「そうだよね」
だけどその反面、この先もアタシや
実際2年前、救われたアタシはこれでまた生きる目的が1つ増えた。デビューを見守り新しいアルバムを聞かなくてはならい。アタシはまた彼らに感謝しなくてはならない。その為に彼らを応援し続けることを改めて誓うのだった。
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