#16 - 溺没
アタシは
肩から掛けたベースを腰より下に構える。テレビなどでギターやベースをこんなに下で弾いてるのを見たことがない。
これはきっと
アタシは無心に彼のプレイに見入って、瞬きする間も惜しんで彼を目に焼き付けた。
1音も漏らすことなくベース音に聴き入って、息をすることを忘れなそうなほど彼の音に溺れた。この瞬間がずっと続けばいいのにと願った。
メンバーがステージから去っても興奮が冷めないアタシ達は、まわりの観客たちが出口に向かって歩きだしたがその場で立ち尽くし一息ついていた。アタシは右肩をトントンと叩かれたのでそちらを向くと
アタシたちは壁際の方へ連れていかれ小声で話し出した。
「打ち上げ連れて行きたかったんだけどさ、未成年はダメって言われちゃって……連れていけなくなっちゃった。厳しくてさ、最近、ごめんね」
と、
「代わりにさ、楽屋行こ、今!」
と、
想像よりも狭く汚い部屋に何人もの人がいて騒がしかった。
「最近ライブ来てくれてる子、私の高校の後輩なんだよ」
と、
「おまえ、後輩って。どんだけ後輩よ」と、声がして笑いが起こった。
声の主はギターの
「
ヴォーカル・
「いつもありがとうね」
と、
アタシにもそんな瞬間がやってきた。
サイン入りの色紙をもらったアタシ達は今さっき起きた重大な出来事について話しながら駅に向かって歩いた。
「私、手、一生洗わないよ!」
「アタシも!」
抑えきれない気持ちを発散するようにアタシ達のおしゃべりは止まらなかった。
すると歩道の真ん中で急に立ち止まった
「生きててよかった」
1歩先に進めていたアタシは振り返って彼女を見ると、自分の涙で溺れ死にそうな程の沢山の涙を流し始めた。
アタシもそれにつられて
「ね、生きててよかったね」
と、言って
年若き女の子が2人手を握り合いながら歩道の真ん中で泣いている光景は通行人にはどのように映っただろう。
でもアタシ達にそんなことは関係なかった。
ただただ喜びに身を任せ歩道の真ん中でむせび泣いた。
家に着いたアタシは早速ノートに今日のことを
なんでアタシは
今思い返してみればメンバーの中で
それらを思い出す度、心臓をグッと掴まれたように痛くなる。息も苦しくなる。
彼のベースを弾く姿を見たい。早くまた彼に会いたい。彼の声をもっと聞きたい。彼にもっと触れたい。
アタシは実感した、やっぱり、これは恋だ。
一般的な恋愛と違うかもしれないが、アタシは彼に恋をしている。
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