#11 - 使徒
昨晩だいぶ夜更かししたのに、寝坊することなく起きられた。
今までは眉毛を少し書き足し、色のつかないグロスを塗るくらいでほとんどメイクはしないで学校へ行っていた。髪もドライヤーで簡単にブローするだけだった。
生まれ変わったアタシはそれにプラスしてビューラーで睫毛を上げることにした。学校でも大丈夫な程度のほんのりと色のつくリップが欲しくなって帰りに買おうと思った。今日は帰りにCDショップに寄る予定なので髪も念入りにアイロンでストレートにした。
学校の誰もアタシの外見の微妙な変化には気づいていない。生まれ変わったかのように中身まで変わったことなんてなおさら気づかれない。
存在すら気づかれていない。誰とも話さない、目も合わない。
アタシはそれでも大丈夫だ。常に
あれだけ苦痛だった学校は
アタシは“青の時代”を乗り越え“バラ色の時代”に突入した。
学校が終わり主要駅に行き、ドラッグストアに直行した。薄っすらとピンクの色が付くリップグロスを買いそのまま化粧室へ行ってそれを塗った。またお気に入りが増えた。
そしてCDショップに行った。
どんな店に行っても今までは店員に話しかけるなんて恥ずかしくて戸惑っていたアタシ。結局欲しいものを見つけ出すことができず手ぶらで帰ることさえあった。
新しくなったアタシは
「この人たちのCD1枚ずつ欲しいんですが、お勧めなんですか?」
メモしておいたリストを見せた。
店員は
「んー、ロック、パンク、グランジ、かなぁ……。ボク、ヒップホップ担当なんで強い人呼んできますね。」
と、言ってその場を立ち去った。確かに言われてみればそこはヒップホップコーナーだった。
そして名札に中田と書かれた店員が現れて、それらがあるコーナーに案内された。
「多分アフロパンクも入ってますね、ボク、メタルなんでいまいちその辺はわからないんですが。今日、パンク強い人休みで。あとは超有名どころなんで、ボクの感じでご案内しますね。」
メガネをかけて短髪で猫背で、おおよそヘビーメタル要素の感じられない中田は
「はい、とりあえずお願いします」と、返事をすると、中田はまず“
「ボクは、3枚目が1番好きですけど、売れたのは2枚目ですね」
「なるほど……」
「あ、彼ら3枚しかアルバムありません」
「そうなんですね」
「あ、でもライブ盤で、“MTV U
中田は低い声でボソボソと話し続けた。
「4枚買っちゃうのもアリだけど……高校生にはキツいですよね、他にも買いたいしね、やっぱ2枚目かな……絶対聞いたことある曲が入ってるから」
と、推されたのでその2枚目“
「話早いのはコレですね」
と、言って黄色いジャケットを指さした。
「
その1枚も手に取った。そんな調子で中田の案内で次々とCDを6枚確保した。
「パンクとか……アフロパンクは、もっと詳しい人に聞いた方がいいと思うんで、よかったらまた来てください」
と、言われ
「なんで
「映画観たんです。デトロイト……」
「ロック・シティですね!」
「そうです、そうです!」
「あれ面白いですよね」
今日初めて会った店員とこんなに会話が弾んだことなどない。中田がメタル好きと言いつつ
アタシはどうしても知りたいことがあってついでに聞いてみることにした。
「関係ないことなんですけど、コレってどういう意味かわかりますか?」
と、言って
「それはキツネですね。もしくは武藤。これじゃないですか?」
と、中田は手をぐっと握って人差し指と小指だけを立てるハンドサインをした。
「あ、それです」
恥ずかしくて笑ったアタシに中田がつられて笑った。
「メロイックサインとかコルナとか言われてるヤツです。ライブで使われるときはイエーイとかサイコーとかを示してますね。メタルでよくやってたんですけど、最近はロック系ではおなじみなかんじで」
「なるほど。ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとございました」
挨拶をしてCDショップを後にした。
音楽や映画は人を繋ぐのだと思った。
今日1日でいろいろな事を知った。アタシは急いで家に帰りノートに今日中田から学んだことを書きながらCDを聴いた。
「10代の精神のような匂い?」
思わず独り言を言う。アタシは英語の成績はいい方だが歌詞カードを見て英語の辞書を引いてもさっぱり意味が分からない。でも曲の感じは好きだった。
そして“
また“ネバーマインド”だ。『気にしない、心配するな、大丈夫、どうでも』という意味で多分、『どうでも』という投げやりな意味がしっくりくるのだろうと思った。
そんな妄想を膨らませたりした。彼はこの曲をどんな気持ちで聴いているのだろう。少年の
曲を聴き感想をノートに書きを繰り返し、また今日も夜更かししてしまった。
寝る前にはやっぱり
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