#10 - 黙示
※ 映画“アリスの恋”(1974年)のネタバレがあります。
◆◆◆
家に着いて早速DVDを観始めた。
途中で邪魔が入った。父からのメールだ。
<夕飯、お弁当買って帰るけど何にする?>
日曜は父が夕飯担当なので確認のメールが来た。駅から延びる商店街にあるお弁当屋に寄って帰ってくるのだ。
<ハムカツとアジフライ入れて>
と、返信した。20種類くらいのフライと焼き魚の中から選んだ好きなものを詰めてお弁当にしてくれて飽きないので、家事をしていた祖母が亡くなってからはよくお世話になっている。
平日はアタシが夕飯を作る。日曜は父が担当で、土曜は各自自由にということになっている。だからといって父が家で料理することはなく、今日のようにお弁当だったり一緒に外食したりして済ませることが多い。
アタシは3日に1度くらい学校帰りにスーパーに寄って食材を買う。米など重いものなどは父にメールしておくと買ってきてくれる。食器棚の引き出しの中に入っている食費用の財布から支払いをして、減ってくると父が補充してくれる。
どうしても食事を作るのが面倒な時は父にメールをして休ませてもらい、カップラーメンなどで適当に済ますこともある。父も父で必ず食事時に帰ってくるわけではないので、<遅くなるから夕飯いらないよ>などと夫婦の様なメールのやり取りをする。
たいていアタシが先に独りで夕飯を済ませて、遅く帰って来た父が独りで食べていたり、翌朝の朝ごはんにしていたりする。
結局、父と一緒に夕飯を食べるのは週に1、2度で、アタシが作るのも自分の分だけの日が多かった。
以前父が連れてきた母代わりのような振る舞いをする女の人たちが食事の世話をしてくれた時もあって、それはそれでラクではあったものの気を使うので面倒くさかった。それより今父と2人で気ままにやっている方が性には合っていた。
DVDを2本見終わった頃に父が帰ってきて、階下から呼ぶ声がする。
ダイニングテーブルにお弁当を広げ
「これ、デザートな。」
と、言ってアタシの好きなプリン見せて冷蔵庫に入れた。
2人でたいした会話もなくお弁当を食べる。それほど興味もないテレビ番組が無意味に流れていて賑やかな雰囲気ではある。
「お父さん、お小遣い欲しいんだけど」
と、アタシはCDを買うために唐突にお願いしてみた。
「珍しいな。お小遣いなくなったのか?」
「うん、友達と食事したり洋服買ったりしちゃって……」
多分父はアタシから“友達”という言葉を聞いたのは久しぶりではないだろうか。
「そっか、友達とか……。女の子はおしゃれしたり大変だもんな」
「おしゃれっていうか、CD欲しくて」
「音楽好きなのか?誰だ?」
と、父は珍しくよく話すアタシに興味深げだった。
アタシはポケットに入っていた欲しいCDリストを見せた。
「Led Zeppelinなんて聴くのか?!お父さんの子供頃のバンドだぞ」
「そうなの?まだ聴いたことないけど」
「まだ聴いたことないのか。もはや歴史上の人物だぞ」
父も珍しくよく話した。そして気前よく追加のお小遣いをくれた。
夕飯を食べ終えてまた自室でDVDを観た。
4本全部見終えたが、もう明日のために寝ないといけない時間だった。
この4本、
アタシは“アリスの恋”が1番好きだった。
アリスは横暴な旦那におびえながら暮らしていたが、その旦那を事故で亡くしたことをきっかけに歌手になる夢を思い出して、子供と一緒に住み慣れた街を出て夢に向かって歩みだす。しかしそう簡単にはいかず、ダイナーでバイトしたり男に裏切られたり奮闘する。最後はまた別の男性と結ばれ、再び夢を追いかける。ハッピーエンドだ。他の3作品に比べてとても暖かいキモチになった。
“
“NIGH
“カジノ”は映画を観ている感覚が1番強かった。ゴージャスだったし、あまりにも自分から遠い世界の話でとても興味深かった。暴力描写がリアルで少し怖かった。
映画もまた別の世界に連れて行ってくれる装置だと知った。
今までテレビでやっている映画しか観たことのないアタシは、さらに面白い世界が無数にあるのだと思うと興奮した。また別の映画が観たいという欲求にかられた。
アタシは今日観た映画の感想をまだ使っていないノートに書き綴った。
書くことで熱を発散し思考を整理している気がする。
まだ熱を帯びているアタシは、続けて
書いても書いてもとめどなく思いが溢れる。アタシのペンは止まらなかった。
そしてアタシは1つ思いついた。
今度はペンを置いてパソコンにむかった。あの芸人の深夜番組はネタコーナーで職人たちのメールが沢山読まれるが、普通のメールは読まれない。
それでもいい、ただ
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