第5話 高利貸し Usury

 ――某繁華街の雑居ビル


 ソファに座るあつしと、ガラステーブルを挟んでその向かいのソファに座る強面のスーツの男。その脇には、アタッシュケースを持っているスーツの男がひとり立っている。


「急な用立て依頼、申し訳ございません」

「申し訳ないも何も怪しすぎだぜ。しかも五千万もの金を」

「今、かなりいいネタを掴んでいまして」

「オレを詐欺ペテンにかけようってんじゃねぇだろうな」


 敦に睨みを利かす強面の男。


「こちらをご覧ください」


 敦は、ストックオプションの書類を見せた。


「……なるほどな。それで高利貸しのオレのところに来たと」

「はい。今や株価は五万五千円を超える勢いです。かなりの差益が見込めます」


 強面の男は手を顎にあてて悩む素振りを見せる。


「……いいだろう。ただし、トイチ(十日で一割の利子)だ」

「はい、承知しております」


 真剣な眼差しを強面の男に向ける敦。


「……おい」


 強面の男の隣に立っていた男がアタッシュケースをガラステーブルの上に置いた。強面の男はアタッシュケースを開き、ノートパソコンを取り出すと、電源を入れてカタカタとキーボードを叩き出した。

 そして、ノートパソコンのディスプレイを敦の方へと向けた。


「振込金額、振込先の金融機関と口座、振込人の名義。全部確認しろ」


 明らかに日本の金融機関のものではないWEBサイト。だが、細かな詮索などできない。言われた通りのことを確認していく。


「はい、書類の指示通りですので問題ありません」

「明日には入金されるはずだ。借用書は取らねぇが、オレ自身が借用書だ。約束をたがえたら……わかってるな?」


 敦の呼吸は止まり、身震いする。


「は、はい。大丈夫です」

「じゃあ、もう用はねぇ。十日後を楽しみに待ってるぜ」

「すみません、ありがとうございました」


 強面の男に深々と頭を下げて、敦は部屋を出ていった。

 もうすぐ俺の空腹が満たされる。そんな希望に満ちた思いを胸に秘めながら。



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