第4話 取らぬ狸の皮算用 Count Your Chickens Before They Hatch
「
株価五万円換算のざっくり皮算用で、ストックオプションの権利をフルに行使したとして、一株あたり差益四万円、それが五千株だから……に、二億円! おいおい、とんでもない大当たりの女を引いたんだな! 呼吸がどんどん激しくなっていく。ついに俺の空腹を満たす時が来たんだ!
「お金持ちにはなれないよ〜」
一瞬、部屋の中の時間が止まる。
「へ? 何で?」
「お金がないから」
「いや、だから、権利を行使すれば……」
「権利を行使するには、一旦幹事の証券会社でその株を買わなければいけないの……遺産と貯金の一千万円は、そのための運用資金のつもりだったんだけど、
そういうことか! つまり、一株一万円で株を買って、それを売却しなければいけないのか!
「海外の会社とかだと、差益だけ得たりすることができるけど、ウチの会社はそれができないのぉ〜……」
マジかよ……
「でも……私、幸せだよ。敦さんの会社で一緒に頑張れば、もっともっとたくさん儲かるもの。敦さんとだったら、私たくさん頑張れる!」
「美沙稀……ありがとな」
俺は、微笑みながら美沙稀を優しく抱き締めた。
『二億円を諦められるか、クソボケ女!』と思いながら。
「あっ! そうだ!」
「敦さん、どうしたの?」
「銀行マンの知り合いに、一時的な融資が可能か聞いてみるよ!」
「えぇ〜……大丈夫なのかなぁ……」
「とりあえず、五千万あれば権利を全部行使できるだろ?」
「うん……」
何だか不安そうな美沙稀。
「なぁ、美沙稀。俺の会社だけじゃなくてさ、俺たちの新居だってほしいだろ?」
「私たちの……?」
「あぁ、そうさ。俺と美沙稀、そして俺たちの子ども。俺たちの家族が住む大きな家だ」
「わぁ……」
美沙稀の頬が赤らみ、瞳が潤んでいく。
「うん、ほしい!」
「じゃあ、まずは銀行マンに相談してみるよ」
「うん!」
「何かストックオプションの証拠になるようなモノってある?」
「これでいいかな……?」
戸棚から取り出した一枚の書類。
ストックオプションの権利を与えるという会社からの書類だ。会社の角印も押されているから、これで問題ないな。
「えーと……ここに書かれている口座に振り込めばいいのか?」
「うん。その後、私の方で証券会社に入金の連絡……だったかな?」
書類を覗き込む美沙稀。
まぁ、やったことがないから分からないのだろう。
「うん、美沙稀の言う通りみたいだな。売却は五営業日目安って書いてある」
「そうだね。木曜に入金して連絡、すぐに購入と売却をしてもらうとして……翌週木曜くらいに差益が入金される感じかな?」
「じゃあ、来週後半にモデルルームでも見に行くかい?」
「うん、行く! 敦さんと一緒に行く!」
「ふふふっ、分かったよ。一緒に行こう」
俺との未来に目を輝かせる美沙稀。
まぁ、家と土地の名義は俺にして、適当に売却だな。
「じゃあ、今夜はもう帰るよ。明日にでも銀行マンと会ってくる」
「寂しいなぁ……でも、わかった! 頑張ってきてね!」
「あぁ、じゃあな、俺の未来の奥さん」
「♪」
俺は美沙稀の部屋を出て、スマホを取り出した。
俺の詐欺師人生、最後の花道を飾ってやる!
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