第15話 便り
寛四郎兄さまと稽古をした日から数日。
千代からわたし宛に便りが届いたと部屋に持ってきてくれた。
送り主は…儀三郎様か、、、
急に便りなんて何事だろう。
『紀子さま
秋風が心地よい時節となりました。萱野家の皆様、紀子様、風邪などひかれておりませんでしょうか。
此度は紀子様をお誘いさせていただきたく、筆を取った次第でございます。
直接お伺いすることもできましたが、紀子様のご意向やご準備もあると思いまして控えさせていただきました。
紀子様、先日散歩にお誘いしたことを覚えてらっしゃいますでしょうか。
3日後、日新館も休みとなるため、是非近くの丘へ上がり、会津を観ながら紀子様と会話をし、より紀子様を知りたいと思っております。
もし、ご一緒してくださるとのことでしたら3日後の巳の刻頃、紀子様のご自宅へお迎えに上がります。
是非ご検討頂けますようお願い申し上げます。
篠田儀三郎』
で、デートの誘い?
手紙で誘うなんてイキな方。。
そんなことよりわたしも返事をしなきゃ!
「千代さん!千代さん!」
わたしは急いで大声で呼んだ。
「へぇ!何事でございましょう!」
「筆と炭、それと便りを書くものを準備していただけますか?なるべく早くで!!」
「紀子様、そんなに急がなくても篠田ぼっちゃまは待ってくださいますよ笑」
「あ…///と、とにかく、準備していただけますか?!」
「へぇ、かしごまりました、すぐ準備してぎます笑」
とりあえず、行きますっては返事をしなきゃだよね。
入りはどうしよう。あーー!季節の言葉なんて覚えてないよ、、、
「紀子様、しずれいします、お返事用の書き物をおもぢしました」
頭を抱えていると千代さんが必要な道具や紙を持ってきてくれた。
「ありがとうございます!」
わたしがお礼を言うと千代さんはにこっとして部屋から出ていった。
……よし。
『儀三郎様
紅葉色付き、会津が一番美しい季節となりました。
儀三郎様、お便りを頂き感謝申し上げます。
先日お誘いいただいたこと、勿論覚えております。
3日後、わたくしも用事はございませんので是非ご一緒させていただきたく存じます。
わたくしの家にいらっしゃる際は道中お気をつけくださいませ。
儀三郎様と同じ時を過ごせますこと、楽しみにしております。
萱野紀子』
こんなものかな、、、
少し乾かしてから手紙を綴じ、わたしはスギさんを探した。
スギさんはうちの使用人のなかで一番足が早いからだ。
家のなかをうろうろしていると、廊下に母上がいらっしゃった。
「あら紀子、どうしたの?」
「あ、、便りを出したくてスギさんを探してまして、、」
「もしかして儀三郎様へ?」
「そ、そうですね…///」
「いいわね笑 スギなら玄関の外を掃除してたわよ」
「本当ですか!ありがとうございます!」
わたしは母上にお辞儀をし、玄関に向かって着物が崩れないように走り出した。
そして玄関のそとに行くと母上の言う通り、スギさんがいた。
「スギさん!!」
「へぇ!紀子様どうなさいました??」
「これを篠田家に届けていただけませんか、、?」
「篠田邸ですね!ではここの掃除が終わりましたらすぐに出て参ります」
「ありがとうございます!」
よし、これで返事は問題ない。
お昼になにか持っていった方がいいだろうか、、、
台所に何があるか見てみよう。
わたしはそう考え、台所へ向かった。
蔵を見てみると野菜や白米、魚やこの時代では貴重な卵まである。
さすが萱野家、、、
すると食事担当をしてる使用人の女性が蔵に入ってきた。
「これは紀子様、どうかなさいましたか?」
「あの、3日後の巳の刻からでかけるのですが、それまでに鮭を調達していただくことは可能でしょうか?」
「鮭ですか!ちょうど秋に取れる魚ですので、可能だと思いますよ」
「よかった!ではお願いできますか?調理はわたしがしますので、切り身を少し頂きたいのです」
「え!紀子様が?!そんな、私どもがお作りします!」
「実は儀三郎様と散歩に行くので私が作りたいんです、、、」
「なるほど笑 かしこまりました、ではわたくしもお手伝いさせてくださいませ」
「えぇ、ありがとう」
「鮭の他には必要ありませんか?」
「えーっと、、卵と鰹節はありますよね?」
「えぇ、卵と鰹節は常に常備しております」
「なら大丈夫かと!」
「では鮭だけですね、お任せください!」
「ありがとうございます、助かります^^」
「2日後には準備できると思いますので、できましたらお声がけさせていただきますね」
「えぇ、ありがとうございます」
本当は唐揚げとか作りたいのだが、そんなものはこの時代作れない。
とりあえず卵焼きとほうれん草の煮浸しとおにぎりを当日作ることにした。
頭のなかで献立をたてながら部屋に戻る途中、長正兄さまがいた。
「なんだ紀子、今日は忙しそうだな」
「えぇ、3日後に出掛けるのでその準備がありまして、、」
「あぁ、儀三郎とか?」
「え?なんでご存知なんですか?」
「儀三郎から聞かれたんだ。3日後お前になにか用事かあるかってな」
「そうだったんですね…///」
「楽しんでこいよ。あと寛四郎のことだが、、、」
「寛四郎兄さま、まだ怒ってらっしゃいますか?」
「ん?あれは怒ってるんじゃないぞ?」
「え?違うのですか?」
「あぁ、自分が恥ずかしいと言っていてな。この頃帰り遅いだろ」
「えぇ」
「日新館の先生に特別に稽古つけてもらってる笑」
「あ…そうでしたか、、、」
「別にお前を憎んでもないし、ただ自分が情けないそうだ。あいつが自信を持つまで少し今の距離でいてくれないか」
「わかりました、、とりあえず今はそっとしておきます、、、」
「あぁ、頼むな」
長正兄さまはそう言うと自室へ戻られた。
寛四郎兄さま、、、
頑張ってるんだな。
私もわたしにできることを少しずつやっていかないと。
でもまずは3日後の準備!
わたしは久しぶりのデートで誰が見ても浮かれてると言われるだろう。
人の目も気にせず、わたしは色々準備をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます