第16話 ふたりの時間

とうとうその3日後になった。

わたしは朝からバタバタとしていた。


厨房に向かうと先日厨房で会話をした使用人がいた。


「紀子様、ご指示いただいていた材料は揃っております」

「ありがとうございます!じゃあご飯炊いていただけますか?わたしお魚調理しちゃいますね」

「かしこまりました」


もちろん、この時代に炊飯器なんてものはない。

だからおいしいご飯を炊くには付きっきりで人をつけるのが一番だと思ってる。

…まぁ、この時代で料理したことはほとんど無いからそれしか方法がわかんないだけなんだけどね。


その間にわたしは鮭を焼き、厚焼き玉子を作っていた。


「紀子様、、どちらでお料理を、、?」

「あ、、えっと…ほ!本で!」

「…本で?」

「あはは…あ!盛り付けしなきゃっ」


逃げるように盛り付けを始めたわたしはきっと怪しまれてるだろう。


簡単なものしか作ってないがそれすらやることを許されてなかった箱入り娘だったんだからそうなるよな…


「紀子様、ご飯が炊けましたよ!」

「あっそしたら蒸らしておいていただけますか?」

実はご飯を炊くとき塩とちょっとだけだし汁を混ぜて炊いている。


これでおむすびは間違いないだろう。

…そんなこんなで鮭と梅のおむすび、厚焼き玉子とほうれん草の煮浸しを作った。

それを二重箱に入れて風呂敷につめた。


巳の刻が近づいてしまい、わたしは慌てて支度をした。

お気に入りの黄色の着物と赤のかんざしを刺し、少し紅を付けた。


そこにちょうどよく千代が部屋に来た。

「紀子様、篠田坊ちゃんがいらっしゃいました」

「あっ!わかりました、すぐ行きます!台所にある風呂敷持ってきてくださいますか?」

「へぇ、わがりました」


わたしは小さい物入れをもち玄関に向かった。

玄関にはいつもとは違う着物を着ている儀三郎殿がいらっしゃった。


「紀子様、お返事ありがとうございます。また、お誘いも承諾頂き感謝申し上げます」

「いえ!私こそ、お誘いいただきありがとうございます」


わたしがそう言うと儀三郎様は少しうつむいてしまった。

……どーするよこの雰囲気、、

甘酸っぱすぎる…


「紀子様、こぢらを」

「あ、千代さん、ありがとうございます!

儀三郎様、本日は山に行くと聞いたので、お粗末ながらお弁当を作らせていただきました、後程一緒にいかがでしょう?」

「紀子様が…?!是非いただきます!では風呂敷は私がお持ちします」

「ありがとうございます^^」

儀三郎様は千代さんから風呂敷を受け取り、手をさしのべてくれた。

「では、行きましょうか」

「…はい^^」

わたしは手を取り下駄を履いた。

「では行って参ります、千代さん」

「へぇ、篠田坊ちゃん、紀子様をよろしくお願いします」

「はい、しっかりお守りいたします」


わたしは儀三郎様と手を繋ぎながら家を出た。

紳士だしカッコいいなぁ。。。


屋敷を出ると若松城が見える。

こないだ虎彦と散歩した時とは少し景色が違って見えた。


少し歩くと、道の邪魔にならない場所に駕籠が置いてあった。

「ここまで歩かせてしまって申し訳ありません。他の人の邪魔にならない場所を選んだらここになってしまって、、、」


バツ悪そうに儀三郎様が謝った。


「あ、いえ、儀三郎様と歩けるなんてわたしは嬉しく思ってるのでお気になさらないでください」


この時代、儀三郎様の身分だと徒歩で移動するとばっかり思っていたが、きっとわたしの身分を配慮してくださったのだろう。


私と儀三郎様で駕籠に乗り込み、駕籠を運ぶ使用人へ儀三郎様が行き先を告げたのを聞いてわたしは心臓が跳び跳ねた。


「飯盛山の麓までお願いします」


い、飯盛山…?


そこは2024年にも受け継がれている白虎隊の自害場所。

そして、儀三郎殿の自害場所。


現代に残る飯盛山には何度か行ったことがある。

会津を一望できる高台があり、鶴ケ城も見える場所。

思ったより鶴ケ城ちっちゃいなぁなんて思ったこともある。


そんな場所に儀三郎様と行く事になるなんて…


「紀子様?顔色が優れませんが…」

「あ、いえ、何でもありません!儀三郎殿と2人なので緊張してるのかも…」


わたしはうつ向きながらずっと握ってくれてる儀三郎殿の手を強く握り返した。


「そ、そうですか…///気分が悪くなったらすぐおっしゃって下さいね」

「えぇ、ありがとうございます」

わたしはふと籠から見える街並みを見ていた。

「紀子様はよく街並みを見てらっしゃいますね。先日の虎彦様とのお散歩の時も…」

「えぇ、わたしが一度生死をさ迷い、目覚めてから会津の景色が違って見えるようになったんです。それからはよく街並みを見ることが増えました」

「わたしも会津が好きです。人も良い、食べ物も美味しい、そして景色も。何より、、、」

「何より…?」

「あ、いえ、何でもありません///とにかく、わたしも会津が好きです」

「きっと、後世でも同じですよ。食べ物も景色も自然も多い。それが会津です」

「後世ですかぁ、、、私も名前を残せるくらい立派な藩士になれますかね」


名前は残るでしょう。

悲劇の主人公として…


「そうですね、きっと残ると思います」


ふと儀三郎様の顔を見ると目が合ってしまい、恥ずかしくなった私たちはお互いにまたうつ向いてしまった。


そのまま沈黙が続き、しばらくすると籠が止まった。

外を見てみるとさっきまで街並みだった景色も紅葉の景色に変わっていた。


「儀三郎坊ちゃん、萱野お嬢様、到着いたしました」


使用人の1人がそういい、籠の簾を上げてくれた。


儀三郎様が先に降り、またわたしに手を差しのべてくれた。


「紀子様、どうぞ」

「はい、ありがとうございます」


お礼を言いながらわたしは籠から降りる。


「ここが飯盛山…」

「えぇ、紀子様は初めてですか?」

「え、えぇ、初めて参りました…」

「ここは日新館の学友たちとたまに来るんです。稽古で疲れたとき、誰かが落ち込んでるとき。そして1人でもたまに考え事をするときに来ています」

「きっと、素敵なご学友がいらっしゃるんですね」

「えぇ、みな支え合いながら立派な藩士になるために稽古を頑張ってます。いつか紀子様もご紹介できたら嬉しいです!もちろん、紀子様からお許しをいただければですが、、、」

「ええ、是非ご挨拶させていただきます^^」

「あちらに休憩できる場所があります、そちらで休みましょう。お手を…」

「あ、はい…///」


また手を繋ぎながら少し歩いた。


ほんとに5分くらい歩いたところで四阿が見えた。


辺りは紅葉も相まって風も心地いい。

ピクニックには最適な日だなぁ…


「紀子様、あちらの四阿で休みましょう。あそこから会津が一望できるんですよ!」

「はい」


四阿に到着し、景色を見るとわたしは息が止まった。

……ここ、多分白虎隊が自害したところから近い場所だ…

何より鶴ケ城の位置が類似している。


そしてもう1点驚いた点がある。

現代で、白虎隊が自害した場所と言われているところから鶴ケ城をみたことがある。

あんな小さい鶴ケ城だもん、勘違いもしちゃうよね。

そう思っていたが実際は違ったのだ。


現代ではビルや建物が多かったからそう思っていたが今は違う。

本当に鶴ケ城だけが偉大に位置していて、辺りは屋敷や家があるものの、みな1階建てだから見え方が全然違っていた。


「ここからの城は少し見え方が変わりますよね」


景色をみていると儀三郎様が話しかけてきた。


「そうですね、離れてみても偉大に見えます。あそこで父上はお務めをされてるのですね…」


「萱野様は、私の憧れなんです」

「え?父上がですか?」


身内に西郷頼母がいるのに父上が憧れ…?


「はい。わたしの叔父は西郷頼母殿です。その関係で小さな頃から重臣の方々と親交がありました。わたしが10歳の頃、西郷家で重臣達が集まり宴会があり、わたしも参加してたんです。周りに迷惑をかけないよう、父上の隣で静かに座ってたところに萱野様が来てくださいました」


「父上が…」


「そしてこう言ったんです。『儀三郎、お前は10歳だと聞いた。そんな大人しくてどうする。大人になったら嫌でも静かにしなきゃいけないんだ。今は思いっきり遊び、騒ぎ、そして学べ!それが今のお前に一番大切なことだ』と…」

「フフッ父上らしいですね笑」

「そして私を連れて、色んな席に混ぜていただき、本当にいろいろな話を聞かせていただきました。それから萱野様と交流が始まったのですが、一度、日新館にいらっしゃったんです。恐らく長正様と寛四郎様がいらっしゃるからだと思いますが、生徒はもちろん、日新館の先生方もその威圧感に圧倒されてたんです」

「父上の真顔はちょっと怖いですからね笑」

「いえ、じゃないと今の地位にはいないと思います。戦では頭を使い、素晴らしい作戦でいつも会津を勝利に導いていると他の藩士の方々から聞いています。そして傲らず、常に正しいと、藩士の方々も萱野様を尊敬してらっしゃいました」

「そうですか、自慢の父を持ったんですね、私は」

「そうですね。なのでわたしも思ったんです。萱野様のような正しく、自分の意見を持ち、みなを導く力を持っている素晴らしい藩士になりたいと」

「そうだったんですね…」

「今も変わらずその夢は持ってますが、新たに持った夢もあります」

「新たな夢…?」

「家庭を持ち、自分の家族を守り抜くことです」


儀三郎様はまっすぐな目でわたしを見ていた。


「わたしはその家庭を、紀子様と作りたいと考えてます」


そんなまっすぐな目で言われちゃったらもう逃げられないじゃない…

時代の違いなのか、本当にストレートに言葉を伝えてくれる。


「前に、紀子様から尋ねられたことがありましたね。『どんなことがあっても、自分の命を大事にし、どんなことがあっても諦めず、どんなことがあっても、そばにいてくださるとお約束してくださいますか』と」


「えぇ」


「私の夢は今伝えた通り、立派な藩士になることと自分の家族を守り抜くことです。その為にはどんなことがあっても諦めず、どんな形であれ側にいるとお約束します」


「……」


「ですから紀子様、わたしが立派な藩士になれたと思っていただけたら是非祝言をあげることを許していただけませんか」


「フフッ以前も少し似たようなことを仰ってましたね笑」


「その、以前はお答えを頂けてなかったので…」


そっか、あの時はまだわたしの気持ちも固まってなかったもんね


「では次は私の夢のお話をさせていただきます。

わたしが以前、生死をさ迷ってたことはご存じですよね?」

「えぇ、存じております」

「その時、わたしはそのとき、夢の中で先の江戸にあたる場所におりました。そこでは侍や藩士などおらず、女も平等に仕事ができる時代だったのでわたしも勤めておりました。」


「…?」


「でも、その夢の中に残っている会津の歴史には悲しい出来事が沢山ありました。その出来事が事実なら、私はそれを阻止したい。そして、会津は同じ運命を辿ったとしてもわたしの大切な人だけでも運命を変えたい。そう思っています」


「…そうなんですね」

「その大切な人とは家族やうちの使用人。そして儀三郎様、あなた様です」

「…」

「儀三郎様が先ほどのお約束をお守りいただけるのであれば私は是非、儀三郎殿と祝言をあげたいと考えております」


「……紀子様」


「儀三郎様が日新館で剣の道を学ばれてる間、わたしも家庭を守れるよう、母上から家のことや藩士の妻としての覚悟を学ぶつもりです。儀三郎様が立派な藩士様になられた際に安心して留守を預けることができると思っていただけるのであれば、人生をお供したいです」


「ありがとうございます…///」


あまり自信が無かったのか、儀三郎様は安心した様子で顔を真っ赤にしていた。


ぐぅ…


「…///」

そんなとき、わたしのお腹がなってしまい、わたしも顔に熱を持ってしまった。


「その、、すみません、お恥ずかしい///」

「アハハ‼かわいらしい音が聞こえましたね!

わたしも腹が減りました、紀子様が作ってくださった弁当を頂いてもよろしいでしょうか?」

「はい、是非///」


お弁当箱を広げると、儀三郎様が驚いていた。


「これは紀子様がお作りになられたのですか…?」

「はい、お口に合えばいいですが、、」

「わたし、玉子が好きなんです!頂きます!」


すると儀三郎様はまず厚焼き玉子を手に取り、口に運んだ。

「……お味はいかがですか?」

「すごく美味しいです!こちらはおむすびですね!」

「よかった笑 おむすびは鮭と梅の2種類作らせていただきました」

「うわぁ、全部私の好物です、、、さすが紀子様です!」


そう言うと儀三郎様がすごい勢いで食べ始めた。

自分が作ったお弁当をここまで嬉しそうに食べてくれるなんて現代では無かったなぁ

まず作る機会なんて家族にしかなかったから…


見てるだけで満たされていたが、またお腹がなると恥ずかしい思いをしてしまうので鮭のおむすびを1つ手に取り、食べ始めた。


そしてあっという間にお弁当が空になってしまった。

わたしはお茶を手に取り、儀三郎様に渡した。


「すごく美味しかったです!紀子様は料理がお上手なんですね!!」

「実は兄達にもまだ作ったことがなくて全然自信は無かったんです…///」

「おや、では寛四郎様には言わない方が良さそうですね笑」

「そうしていただけるとありがたいです笑」

「そういえば、紀子様は剣道をやられるとか?」

「え!なぜそれを…?」

「先日、寛四郎様と長正様とお話をしてたんですが寛四郎様の様子がおかしかったので理由を伺ったんです」

「あ...」


儀三郎様とのお出掛けが楽しみすぎてここしばらく忘れてた…笑


「寛四郎様、すごく悔しそうにされてましたよ笑 でも紀子様が嫌いになったとかではなく、純粋に自分の実力に落胆してしまったそうで…」

「そうだったんですね…」

「でもそれからずっと、日新館の稽古が終わってから先生と個別で稽古してましたよ」

「えぇ、つい昨日長正兄さまからも伺いました…」

「萱野様直々に稽古を受けてた紀子様ですから、実力が素晴らしいのは納得でした笑 いつか私とも是非稽古をお願いしたいです笑」

「いえ、わたしなんか…」


そう言うと、さっきまで笑顔だった儀三郎様が少し怒った顔をしていた。

あれ、なんか変なこと言ったかな?


「紀子様、紀子様は素晴らしい人です。『わたしなんか』なんて今後絶対に言わないでください。僕はその言葉、嫌いです。そして、わたしがお慕えしている方を悪く言わないでください」


そう。わたしは現代の頃から「わたしなんて/わたしなんか」これが口癖だった。

その方が世渡りしやすかったこともあり言っていたことだったが、いつの間にか口癖になってしまい、自分自身を過小評価して生きずらくなっていた。


そんな中、不意に出た言葉で儀三郎様から注意されてはっとした。

こんなこと言ってくれるくらい思ってくれる人なんて現代にはいなかった。

家族や友達はいたものの、一番長くいる会社には気を許せる人なんていなかった。

いい人になろう、いい上司になろう。そんなことばかり思って自分を押し殺していた。


この人は本当にわたしを思ってくれてるんだ。。


気が付くとわたしの頬には涙が伝っていた。


「あっ...紀子様、申し訳ありません、そんなつもりで言ったのではなく、えっと…」


泣いたわたしをみて焦ったように儀三郎様が弁明していた


「フフッ儀三郎様、すみません、嬉しくて泣いてるので謝らないでください。そしてわたしをそこまで思ってくださってありがとうございます^^」


涙目ながらわたしは嬉しくて、精一杯の笑顔を見せた。


「…///紀子様、すみません、失礼します」


そう聞こえた途端、わたしは儀三郎様に抱き締められていた。


「ぎ、儀三郎様…?///」

「すみません、嬉しさと愛しさのあまりに、情けない顔になりそうだったので…///」

「い、いえ///」

わたしは静かに儀三郎様の背中に手をまわした。


どれくらい経っただろう。

しばらく抱き合ってると儀三郎様が話し始めた。


「すみません紀子様、ありがとうございます。。

そ、そろそろお送りします!」


気が付くと日が傾き始めていた。


「そ、そうですね」


飯盛山


こんな素敵な場所になるなんて思ってもいなかった。


「儀三郎様、また2人でここに来たいです」

「そうですね、必ずまた来ましょう」

手を繋ぎながら籠に向かい、そんなことを2人で話していた。


籠に着くとまた使用人の方が籠の簾を上げてくれた。


「萱野邸までお願いします」


「「へぇ」」


儀三郎殿がそう言うと、籠が動き出した。


「そういえば儀三郎様、わざわざ籠を用意してくださったんですか?」

「あっ、これは萱野様がご用意してくださったんです」

「え、父上が、、?」

「はい、紀子様に便りを書く前に、萱野様に外出のお許しを頂きに参りました。その際に籠を用意してくださったんです」

「そうだったんですね…」

「素敵な父上ですよね。本当に、全てにおいて尊敬しています」

「わたしも、わたしの父が父上ですごく誇らしいです」


責任感があってリーダーシップがあって、家族思いな父上は本当にわたしの憧れで大好きな父上。。


自分の大好きな人をそこまで慕ってくださってるだけでもすごく嬉しい。


「紀子様は普段何をなさってるんですか?」


突然、儀三郎殿からそんな質問が投げられた。


「普段ですか、、?虎彦と遊んだり母上から学んだり書物を読んだり…ですかね」

「じゃあ、紀子様がお好きな時間って何をしてるときです??」

わたしの好きな時間かぁ、、、


「わたしが好きな時間はそうですね、、、

父上と色々話してるときも好きですし、剣道をやってるときも好きです。あとは虎彦の寝顔を見てるのも」


「虎彦様、すごくかわいらしいですもんね!わたしは下に兄弟がいないのですごく羨ましいです」

「あら、祝言をあげたら儀三郎様の弟にもなるんですよ?笑」

「そうですね!今度は虎彦様も一緒にどこか行きましょうか!」

「そうしていただけるとありがたいです笑 実を言うと昨日も一緒に行きたいって迫られたんです笑」

「そうだったんですか!」

「恐らく、母上は父上から聞かされてたんでしょう、虎彦を預かってくれました笑」

「それは申し訳ないことをしたな、、、次は虎彦様も一緒に行きましょう!」

「わたしの家族までご配慮いただきありがとうございます」

「いえ、大切な紀子様の、大切なご家族ですから…」

「……///」


ほんと、このストレートな表現に慣れるのはいつになるかな…


「儀三郎様、今度は私からお手紙を書いてもよろしいでしょうか?」

「え!はい、是非!」

「その日がどんな日だったか、どんなことがあったか、お伝えします。もちろん、お疲れで面倒になったら仰ってください!ご負担にはなりたくないですから...」

「そんなことはないと思いますが、とりあえずわかりました笑」

「ありがとうございます^^」

「必ず、お返事書きますね」


そんな話をしていると籠が今朝あった場所に止まり、手を繋ぎながら萱野家に向かった。


「紀子様とこうやって出掛けられるなんて、わたしは幸せ者ですね」

「そんな、わたしだって儀三郎様のような立派な方と外に出れるなんて思っても見ませんでした」

「これから沢山、同じ時間を過ごしましょう」

「えぇ、そうですね」


ようやく、家の門が見えてきた。

そこには小さな影があるのが見え、わたしはすぐに虎彦だとわかった。


「あれは、、虎彦様ではないですか?」

「気付かれましたか?その様です笑」

「虎彦ー!!」

わたしが少し離れたところからそう声をかけると虎彦は走ってこちらへ向かってきた。

「姉様ー!!」

「虎彦!走ったら転んじゃっ…」

わたしがそう言った矢先、虎彦が転びそうになった。

「おっと…」

そして転びそうになった虎彦を儀三郎様が受け止めてくれた。

「すみません儀三郎様…こら虎彦!危ないでしょう…」

「ごめんなさい姉様、、」

「儀三郎様にお礼したの??」

「あっ...儀三郎様、助けてくださりありがとうございます」

「すみません、ありがとうございます」

「いえいえそんな大したことは!虎彦様、今日は大切なお姉さまとのお時間を頂いてしまい、私こそ申し訳ありません」


儀三郎様は虎彦と話すためにしゃがんで目線を合わせながら話しかけた。


「姉さまと楽しい時間を過ごせましたか?」

「えぇ、すごく楽しかったです!次は虎彦様もご一緒にいかがですか?」

「え!僕もいいんですか!」

「えぇ、人が多い方が楽しいですから^^」

儀三郎様にそう言われるとすごく嬉しそうな顔をして笑っていた。

きっと今日は寂しい思いさせちゃったな、、、


玄関まで3人で中に入り、そろそろ別れる時となってしまった。


「ではお二人とも、お部屋にお入りください」

「儀三郎様、今日は本当に楽しい時間をありがとうございました」

「いえ!私こそ、楽しい時間とお弁当、ありがとうございました。では失礼します」

そう言うとお辞儀をして儀三郎様は萱野家を出た。

玄関からみえなくなるまでわたしはお見送りをし、虎彦の手を取り、部屋に戻った。


わたしが簪を外していると、虎彦から質問が飛んできた。


「ねえ様、ねえ様は篠田様と結婚なさるんですか?」


い、いきなり…?笑


「そ、そうねぇ、もう少し大人になったらそうする予定よ」

「そうですか…結婚したらねえ様は家を出るんですよね…?」

「えぇ、そうなるわね」

「篠田様もすごく優しい方なので、ねえ様は幸せになれると思います!でも、ねえ様が家にいないなんて寂しいです…」

「虎彦…」


恐らく、今日わたしが不在の間、虎彦なりに色々考えたんだろう。


「大丈夫よ、まだまだ先だし、その頃には虎彦だって大きくなってるわ笑 さ、虎彦、一緒にお昼寝しない?ねえ様疲れちゃって笑」

「…はい」

わたしは涙目の虎彦を布団に呼び、虎彦が寝たことを確認してから眠りについた。


今日は本当に楽しい時間だった。

まさか飯盛山に行くとは思わなかったが、【悲しい場所】ではなくわたしの中では【思い出の場所】になろうとしていた。


それが、さらに大きな悲しみを生む場所になるとは知らずに……










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