第14話 9年ぶりの剣道
翌朝、わたしは父上と一緒に目を覚まし、朝食を取っていた。
「紀子、昨日の話覚えてるな?」
父上が急に家族のいる前でそう発した。
「…え?昨日のこと、、でしょうか、、?」
え、みんなに言う感じ?
「長正、寛四郎、虎彦、よく聞きなさい。実は紀子な、昔からわたしと剣道の稽古を隠れて行ってたんだ。」
「え?!ほんとですか?!」
早速食いついたのは寛四郎だった。
「あぁ、そろそろ話してもいいかと思ってな。虎彦、お前はこれから紀子に稽古を受けなさい」
「姉さまに教えていただけるのですか!?嬉しいです!!」
「通りで父上が紀子を気にかけるわけですよ、、、」
長正兄さまは若干呆れるように言った。
「ところで、どれくらいの技術があるんです?」
「それがなぁ長正、俺の見立てだと寛四郎にも勝てるんじゃないかと思うくらいの実力があるんだ」
「え!!わたしですか?!紀子!ほんとかよ!」
「た、体調を崩してからしばらくやってませんのでわかりませんが、、、」
「紀子の胴着は全部千代に頼んでおいたから、後でもらいなさい」
「父上、ありがとうございます」
「姉さま!今日から稽古できますか?!」
「そうね、虎彦に教えるくらいだったらできるわよ」
「やったー!じゃあ今日からお願いします!」
「えぇ笑わかったわ^^」
「……紀子!」
「…はい」
真剣な顔をした寛四郎がわたしを呼んだ。
「今日帰ってきたら俺とも稽古しろ!どっちが強い長正兄さまに判断してもらう!」
「えぇ、わかりました笑」
「寛四郎、女相手にむきになるな。紀子だって久しぶりなわけだし、、、」
「いいえ兄さま!これでは兄の威厳が無くなってしまいます!」
「もともと勉学でも紀子の方が賢いだろwww」
「なっ!だからですよ!剣道くらいは俺が勝たないと!!」
「では本日お帰りをお待ちしてます」
「学舎が終わったらすぐ帰ってくるからな!」
「はい笑」
「まぁまぁ、紀子に向かってそんな必死に笑」
わたしたちの様子を見て母上は微笑んでいた。
朝食を食べ終え、父上は城に、兄さま2人は日新館に、母上は虎彦の裁縫をやりに自室へ向かった。
「姉さま!いつ稽古しますか!?」
わたしは朝食後しばらく自室で本を読んでいたのだが、元気よく廊下を走って来た虎彦がキラキラした目で声をかけてきた。
「そうねぇ、、まずは胴着と防具と竹刀をもらわないと、、、あっ!千代さん!」
どうしようか悩んでいると、ちょうど洗濯をやっている千代さんがいた。
「はい、なんでございましょ」
「お忙しいところすみません。わたしの胴着とか防具ってありますか?」
「あぁ!剣道の!旦那様がらお預かりしでます、いま持ってぎますね!」
「ありがとうございます!…虎彦、ちょっと待っててね」
「わかりました!僕も胴着に着替えてきますね!」
そういうと虎彦はまた走って自分の部屋に戻った。
「紀子様、しずれいします」
虎彦の様子に少し呆れていると、千代さんが諸々準備してくれた。
「着付けは大丈夫ですか?」
「えぇ、これは大丈夫です、ありがとうございます」
「まさか紀子様が剣道をやってたなんて全然気付かなかったっす」
「み、みんなには隠れてやってましたから...」
「そうだったんですね、何かあればまだ呼んでくだせぇ」
「わかりました、ありがとうございます」
千代さんが部屋から出てから、わたしは胴着や防具を見ていた。
ほんと、懐かしいなぁ
この時代の胴着は現代のとは比べ物にならないくらいダサい。
そして胴も竹でできたものだった。
あぁ、ホントにださいwww
竹刀は、、、37くらいかな?(中学生が使用する竹刀のサイズ)
虎彦に教えるくらいはできるだろうけど寛四郎兄さまとか、、、
そう考えながらわたしは胴着と袴に着替え、防具を着けて髪を結っていた。
すると、また廊下から騒がしい音がした。
「姉さまー!」
勢いよく襖があき、そちらを見るとやはり着替えが終わった虎彦だった。
「姉さま!準備でき…」
「虎彦どうしたの?」
「あ!えっと、その、姉さまがカッコよくて素敵だなって思って…その…」
普段は着物しか着ない、お淑やかなお姉さんだと思っていた私が急にこんな格好するんだもん驚くよね笑
「あら?照れてるの?笑 素敵だなんて、ありがとう」
そう言うと虎彦はうつ向いてもじもじしていた。
「そんなうじうじ君には稽古厳しくしちゃおっかな!」
「えぇ、そんなぁ、、、」
「フフッ冗談よ笑 さ、稽古しましょっか!」
「はい!よろしくお願いします!」
わたしたちは外の稽古場へ向かった。
道場じゃなくて外ってのがね、、笑
「じゃあ虎彦、素振りからやりましょうか」
それから素振りをする意味、素振りの際の竹刀の軌道、力を入れるポイント、そして、、、
「いい?虎彦。剣っていうのは誰かを守るために使うのよ。やみくもに使っては行けないの。この意味が分かる??」
「母上や姉さまが危険なときに剣で守るんですよね?」
「そうね、あとは将来のお嫁さんとかね♪やみくもにただ切っていたらただの人殺しになってしまうからね」
「わかりました!僕は母上と姉さまを守るために剣を使います!!」
「姉さまと約束できる?」
「はい!約束します!」
この子にはこのまままっすぐ育ってほしい。
そしてできるならば、この剣を使わないでほしい。
わたしは指切りをしながらそんなことを考えていた。
それからしばらく稽古をしていると夕暮れの時間になった。
「紀子ーー!!!」
…あ、寛四郎兄さまね、、、
「私はここです」
「紀子!よし、準備はできてるな。待ってろ!俺も着替えてくる!」
すると走って自分の部屋へ着替えに向かった。
「紀子、ホントに大丈夫か?無理してないか?」
そう心配してくれるのはやはり長正兄さま。
「えぇ、父上とたくさん稽古しましたから笑」
「そうか、、でも…」
「大丈夫です!これまで兄さま達の稽古を見ていて、長正兄さまの剣道は隙が無かったですが、寛四郎兄さまは隙だらけだったので笑 楽しみにしててください♪」
「お前がそういうなら...」
「紀子!よし!やろうか!」
長正兄さまが折れたとき、ちょうど寛四郎兄さまも着替えて戻ってきた。
わたしは竹刀を握る。
「紀子、一本勝負だ。手加減はしないからな」
「えぇ、結構です」
「はぁ...」
呆れてため息をついた長正兄さまが審判として立った。
「虎彦、そこの縁側に座ってみてなさい」
「はい!長正兄さま!」
「じゃあ2人とも、怪我しないように。。はじめ!」
すると暴走したバイクのような勢いで寛四郎兄さまが向かってきた。
あぁ、やっぱりこのタイプか。
わたしはそんな寛四郎兄さまを軽くいなしながら隙を狙っていた。
そして寛四郎兄さまがおおきく振りかぶって来たとき、わたしにチャンスは訪れた。
「ドー!」
「胴あり!勝負あり!」
そう。おおきく振りかぶって来た寛四郎兄さまに対し、わたしは抜き胴という技を出した。
「お、俺が、、紀子に負けたの、、?」
「あぁ、お前の敗けだ寛四郎。紀子、さすが父上と稽古してただけあるな」
「寛四郎兄さま、感覚が戻るまでいなすことで精一杯でした、、また稽古してくださいますか?」
「次はぜっっったいに負けないからな!」
寛四郎兄さまは悔しいのか、顔を真っ赤にしながらそう言うと自室に戻ってしまった。
「あらら、どうしたものでしょう…」
「紀子、あいつは俺に任せろ。お前はもう休みなさい」
「はい、そうします」
「…今度は俺とも稽古しような。勝負とか無しで」
「いいのですか!是非お願いします!」
長正兄さまは寛四郎兄さまを追って部屋へ上がった。
はぁ、やりすぎたかな、、、
「姉さま!すごいです!すごくかっこよかったです!」
虎彦がパタパタと走って駆け寄ってきた。
「あ、虎彦、、ありがとう。でも寛四郎兄さまには嫌われちゃったかしら、、、」
あっちはまだ数年。わたしは現代で12年剣道をやっていたのだ。いま思うと大人げなかったかな、、、
「嫌われてはないと思います!きっと大丈夫ですよ!」
虎彦がわたしの手を繋ぎ、慰めてくれていた。
謝るのも逆に神経逆撫でしそうだしな、、
どうしようか、、、
「そうね、長正兄さまにあとで相談してみるわ」
「それがいいですね!」
わたしと虎彦は私の部屋に戻り、着替えた後、夕飯まで休むことにし、横になりながら本を読んでいるといつの間にか気を失ってしまっていた。
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