第10話 弟からの誘い
ある日、わたしが家で本を読んでいると、虎彦が勢いよく走ってきた。
「姉さま!!お散歩にいきませんか!!」
「どうしたの急に、、、」
「実は昨日の晩、父上から色々教えていただいていたのですが、西洋では好きな女性のことを考え、常に女性のことを気遣って行動するそうなんです。姉さま、家にいるだけではまた悪い虫が来てしまいますから、一緒にお散歩に行きましょう!」
父上、5歳に何を教えてるんだか、、笑
「んー、確かにそれもそうね、、外行き用に支度をするからちょっと待ってもらえる?」
わたしがそう言うと、パァっという効果音が聞こえるくらいの笑顔で虎彦が答えた。
「わかりました!僕は母上の部屋におりますのでゆっくり準備なさってください!」
「うん、ありがとう」
まったく、本当に血が繋がってないの?ってくらい父上にそっくりな行動力ね、、、
とにかく着物を着替えなきゃかな、、、
だれか近くに使用人の人いないかなと庭をみていると、千代がいた。
「千代さん!これから虎彦と散歩に出かけるんですが、外行き用に着替えたくて、、手伝っていただけませんか?」
「もぢろんでございます!少し暑いので薄めのお着物はいかがですか?」
「そうですね、それでお願いします^^」
「すぐお部屋におもぢしますのでお待ちくだせぇ」
「えぇ、ありがとうございます」
千代さんが着物を持ってきてくれるまで、わたしは少し化粧をしていた。
とはいっても、この時代にファンデーションとか下地とかそんなものはないので、お粉と紅だけ薄く塗っていた。
「しずれいします」
化粧がちょうど終わる頃、千代さんが着物をもって来てくれた。
「まぁ!紀子様は今日もべっぴんさんですね」
「そんなこと言っても、何もあげられないですよ笑」
「そんなのいらねぇっす!本音で言ってるんですから」
「フフッありがとうございます^^」
「紀子さま、お着物は青と桃色、どぢらになさいますか?」
「んー、虎彦、今日は青の着物でしたよね?」
「そうですね!」
「じゃあ青の着物でお願いします^^」
わたしは白地に青のグラデーションがかかってる綺麗な着物を選んだ。
「わがりました!ではお手伝いいだします」
わたしが着物を選ぶと、千代さんが綺麗に着物を着せてくれ、髪も綺麗に結い直してくれた。
「紀子さまはお慕えされてる殿方はいらっしゃらないのですか?」
「えぇ、いないわね、、」
「そうですか、、今日の紀子さまを見たらどんな殿方も魅了されるど思いますよ」
「今日はどうしたの?笑 すごい褒めてくださりますね笑」
「本音ですがら笑 篠田様のこと、伺いました。突然のこどだと思いますが、わだすは紀子さまが幸せになるご選択をされるのであれば何でも応援いだします」
急に何を言うのかと思えば、、笑
「、、そうですね。後悔しない選択ができるようによく考えます笑」
恐らく、使用人のなかで最近話題になっているんだろう。千代さんはわたしの乳母でもあるため、中でも色々考えてくださったんだろうな。
「さ、準備でぎました!虎彦坊ちゃんとお気をつげでいってらっしゃいませ」
「ありがとう、行ってきます!」
わたしは虎彦が待つ母上の部屋へ向かった。
「失礼します」
中に入ると虎彦と母上がいた。
「うわぁ、、、姉さま、今日は一段と綺麗ですね!」
「あら、そう?ありがとう」
「夏用の着物を出したのね」
「えぇ、今日はちょっと暑いので、、、」
「そうね、9月に入って最近涼しかったのに、今日は暑いものね、、、」
「千代さんに言って勝手に出しちゃいましたが、よかったのでしょうか」
わたしは目を覚ました時点で9月になっており、1度も倉庫にしまってある着物を着ることがなかったので恐る恐る母上に確認した。
「何言ってるの。千代は誰の着物がどこにあるか全部わかってるはずよ。あなたの着物だもの、好きに着なさい。今年は紀子の夏のお着物見れないと思ってたから嬉しいわ♪」
気を失ったのが6月だったから紀子は夏用の着物を出してなかったのか。
今度千代さんと一緒に夏用の着物を見てみようかな、、、
「姉さま!早く行きましょう!」
母上と話をしてるとキラキラした目をして着物の裾を少し引っ張っていた。
「あら、今日は紀子のことを考えて行動するんじゃなかったかしら?笑」
「あ、、そうでした、、姉さま、お話してて大丈夫です、、」
母上が笑いながら虎彦に聞くと、虎彦は子犬が尻尾を下げてるかのようにしょんぼりしてしまった。
「フフッ、虎彦、ごめんなさいね、楽しみ過ぎて母上とお話しすぎてしまったみたい笑」
「姉さまも楽しみにしてくれてるんですか?」
「あら、当たり前じゃない笑 そろそろ行きましょうか」
「はい!では母上、行って参ります!」
「えぇ、虎彦も紀子も気を付けてね」
「はい、行って参ります」
母上に挨拶をし、2人で手を繋ぎながら散歩に出かけた。
「虎彦、どこか行きたいところはある?」
「んー、、日新館を見てみたいです!兄さまたちいるかなぁ、、、」
「授業を受けているから見れないと思うけど、少し行ってみましょうか!でも私、日新館への道を覚えてないのだけれど、虎彦わかるの?」
「えぇ!僕が案内致します!」
「そう、、ありがとう^^」
今日は一段と頑張ってて可愛らしい、、
そういえば、わたし目を覚ましてから街に出るのはじめてかもしれない。
視界に壮大な存在感を感じ、ふと左をみると鶴ケ城が見えた。
この時代の鶴ケ城、、、
今は若松城かな。すごい存在感。
「お城を見ているのですか?」
「えぇ、目を覚ましてから初めて外に出るから、、、」
「お城、すごいですよね!僕も大きくなったら父上のように立派になってお城でお勤めできるように沢山学んで稽古するって父上と約束したんです!」
「そう、、凄いわね、、、」
そんな未来が来るのか。
わたしが知っている会津はあと3年で終わってしまう。
目の前でキラキラ目を輝かし、前を向いて話している虎彦をみて、すごく複雑な気持ちになった。
「姉さま!このままここで話していては日が暮れてしまいます、早く行きましょう!」
「あ、えぇ、そうね、行きましょうか」
2024年の5歳でこんなしっかりしてる子はいないだろう。
家柄なのか、時代のせいなのか、虎彦は確実に他の5歳よりは賢く、ハキハキしていて頼もしかった。
泣き虫と甘えん坊はまだまだなんだけどね笑
虎彦と話をしながらしばらく歩くと大きい敷地が見えてきた。
「姉さま、あれが日新館です!」
「あれが、、、」
とてつもなく大きな敷地に道場や学び処、校庭のような敷地には稽古用の道具が沢山置かれていた。
中には白虎隊のドラマで見ていた、高い塀を越えるための訓練の道具も。
「本当にあったんだ、あれ、、、」
「あ!姉さま!長正兄さまがあそこで稽古してます!」
虎彦が指す指の先を見てみると、長正兄さまが仲間と稽古していた。
カーン…カーン…カーン…
その時ちょうど鐘が鳴り、長正兄さまたちが稽古を終えた。
あの鐘はチャイムのようなものなのかな?
すると、学舎に戻ろうとする長正兄さまがこちらに気づき、走って向かってきた。
「紀子!虎彦!どうしたんだ!」
すごい汗をかきながら長正兄さまが声をかけてきた。
「申し訳ありません、虎彦と散歩をしていたところお見受けしまして、、、」
「僕が日新館見たいって話したんです!」
「そうか、そんな謝ることではない笑 それにしても今日は2人揃いの着物なんだな、似合ってるぞ」
「ありがとうございます。あっ、兄さま、汗が、、、」
わたしは持っていた手拭いで兄さまの汗をぬぐった。
「あぁ、ありがとう。わたしは次の授業があるから戻る。2人も気を付けて帰るんだぞ!」
「はい、お戻りお待ちしてます」
「兄さま頑張ってー!」
長正兄さまは手を上げて挨拶をし、走って学舎に戻られた。
その時、次に外で稽古をする子達が準備をしていることに気付き、中でも視線を感じた方を見ると篠田儀三郎がいた。
どーせ外では話せないもんね。
とりあえず篠田儀三郎へ向けてお辞儀をし、虎彦の手を取って私は家へ向かった。
「姉さま、長正兄さまかっこよかったですね!」
「そうね笑 やっぱり自慢のお兄様ね^^」
「ですね!明日からも家での稽古頑張らなきゃ!」
「怪我はしないように気を付けるんですよ?」
「はい!」
話をしながら歩いていると、気持ちの良さそうな丘を見つけた。
「虎彦、あそこの日陰で少し休みましょうか」
「はい!」
わたしは持参していた竹筒から飲み物を出した。
「はい、虎彦、飲みな」
「ありがとうございます!」
虎彦と飲み物を飲みながら休んでいると、気持ちのいい風が吹き、虎彦が眠そうに目を擦っていた。
「少しお昼寝してもいいのよ?」
「じゃあ少しだけ、、、」
そう言って虎彦はいつものようにわたしの膝に頭をのせて眠りについた。
わたしは子守唄を歌いながら虎彦の頭を撫でていた。
ふと顔をあげると鶴ケ城がまた見えた。
この辺りは城下町だからどこからみても城が見えるのね。。。
3年後、この会津が、この城下町が火の海になる。
それまでわたしができることは何なのか、家族を守る方法はあるのか、色んなことを考えていた。
そもそも、わたしがこの時代に来た理由はなんだろう。
鶴ケ城の3階でわたしは過呼吸になり、篠田儀三郎の写真をみて気を失った。
そしてあの声。。。
「寝てはいけませんよ、約束したんですから…」
約束とはいったいなんだろう。
これから儀三郎と仲を深めても3年後には自刃してしまう。それを止められれば歴史は変わっちゃうのかな。
会津は守れるかな。
家族を守れるかな。
父上を守れるかな。。。
目が覚めたあと、すごく良くしてくれて家族と認識できた今、この時代の家族への愛情が生まれていた。
わたしがこの時代に来た意味はまだわかっていない。
久しぶりにゆっくりした時間をすごし、本当に色々考えてると、辺りが夕焼けになっていた。
そろそろ帰んなきゃ、、、
「虎彦、虎彦起きれる?おうちに帰りますよ」
「んー、、姉さまおんぶ、、、」
「もう、、、おいで」
わたしが屈むと寝ぼけた虎彦が背中に乗ってきた。
そして背中で寝息をたてている。
わたしがゆっくり歩いていたとき、後ろから声がした。
「紀子殿」
聞き覚えのある声に振り替えると、篠田儀三郎がいた。
「儀三郎殿、、、今日は邪魔をしてしまい申し訳ありません。虎彦が日新館を見たいと言ってまして、、、」
「とんでもない。邪魔などはございませんでした」
「ありがとうございます、、、」
しばらく沈黙が続き、ただ歩いていると急に儀三郎殿が屈んだ。
「虎彦殿をわたしに移してください。わたしがおぶります」
「あ、いえ、そんなこと、、」
わたしがそう言うと立ち上がり、虎彦を抱えた。
「あ、、すみません。」
「いえ、僕がしたくてしてることですので」
「ありがとうございます。。」
「……あの、祝言の件は聞きましたか?」
「はい、父上から聞きました。。」
「わたしは高い身分ではありません。母が田中家の養女でしたが篠田家に嫁いでからは父上の身分でございます。今回、私にとってはありがたいお話でしたが、紀子殿にとっては不愉快でしょうか」
「不愉快だなんてとんでもない。それに、儀三郎様の父上も立派な藩士様だと父上から聞いております」
「ありがたきお言葉です」
「ただ、わたしが目を覚ましてから色々なことがあり少々戸惑っているだけです」
「そうですよね。私はまだ日新館の生徒の身分ではありますが、紀子殿が後悔しないように精進するつもりです。もし、祝言をあげるまでにわたしが頼りないと感じましたら、断っていただいて結構でございます。それまで、わたしに時間をいただけませんでしょうか」
正直、わたしは驚いていた。
これまで全然会話をしなかった人が、ここまで考えていたとは。
ここで断り、許嫁自体拒否することはできる。
ただ、会って間もないのにここまで考えてくれて、ここまでまっすぐに伝えてくれる人なんて現世にいるだろうか。
未来がわかっているにも関わらず私は断れず、無言になってしまった。
「紀子殿、、?」
「……どんなことがあっても、自分の命を大事にし、どんなことがあっても諦めず、どんなことがあっても、そばにいてくださるとお約束してくださいますか、、?」
わたしは何言ってるんだろう。
現世では仕事ばかりでまともに恋愛してなかった私。
自分で発した言葉だったが、言った直後に顔に熱を持つのが感じられた。
「あ、何言ってるんだろう、すいません、忘れてください」
すると、儀三郎殿が立ち止まりわたしをまっすぐな目で見てきた。
「いえ、忘れません。お約束します。ただ1点だけ考えさせてください。わたしは紀子殿を守るためであれば自分の命は捨てるでしょう。ですのでそのような状況にならぬよう、精進します」
「……はい。」
わたしはなんて答えればいいのかわからず、とりあえず返事をし、うつむいてしまった。
「紀子殿、顔が赤いですよ?笑」
すると突然顔を覗き込まれて急に顔が近くなった。
「…///夕日のせいです!」
「あはは!そうでしたか、失礼しました笑」
そう言うと、今まで見たこともない笑顔で笑っていた。
そして儀三郎殿の背後には夕日に照らされた鶴ケ城。
ふとわたしは気づいてしまった。
あぁ、わたし多分この人のこと好きなんだ。
好きになってもハッピーエンドで終われない結末が見えてるのに、ここまでの覚悟を見せつけられ、気持ちが揺れない女性はいないと思う。
とてつもない気まずさのなか、また後ろから声が聞こえた。
「「紀子ー!」」
「長正兄さま!寬四郎兄さま!」
「お、儀三郎もいたのか!」
「なんだ、邪魔したか?笑」
「とんでもございません」
「十の掟はいいのか?笑」
「もう許嫁となりましたので…///」
「俺の妹だ!そんな簡単には渡さんからな!笑」
「精進します笑」
合流してからずっと寬四郎兄さまが儀三郎を茶化しており、長正兄さまはいつの間にか虎彦を預かり、虎彦を抱っこしていた。
「紀子はこの時間まで散歩していたのか?」
寬四郎兄さまと儀三郎殿が話しているなか、長正兄さまが話しかけてきた。
「お城が見える丘で休んでいたんですが虎彦が寝てしまって…色々考え事をしてたら夕方になってしまったんです。虎彦をおぶって帰っているところに儀三郎殿がいらっしゃって代わっていただいて、、、」
「そうだったのか。邪魔したか?笑」
「まだそんなでは…///」
「ハハッ笑 悪い悪いwww」
「もう……」
「でも、儀三郎はいいやつだし、日新館でも期待されてる男だ。きっと後悔はしないだろう。お前も目覚めてあまり時間がたたないうちに祝言だ許嫁だと言われ戸惑うと思うが、前向きに考えてみろ」
「そうですね、これから少しずつお互いを知れたらと考えております」
「そうか、よかった笑」
長正兄さま、きっと沢山考えてくれてたのだろう。
家では誰も儀三郎殿の話しはしてこない。今日の千代さんが本当に初めてだった。
「紀子!兄さま!儀三郎はこっちだって!」
寬四郎兄さまが、2人の後ろを歩いていたわたしと長正兄さまへ向けて話しかけてきた。
「そうか、儀三郎、今日は虎彦ありがとな」
「とんでもございません」
「非常に助かりました、ありがとうございました」
「紀子殿、今度都合が合えばわたしとも散歩に行きませんか」
「あ...、はい、是非///」
「長正兄さま、俺らやっぱり邪魔でしたね、、、笑」
「そうかもな笑」
「じゃあ儀三郎、また明日な!」
「はい、お気をつけてお帰りください」
「あぁ、儀三郎もな。紀子、帰るぞ」
「あ、はい。本日は本当にありがとうございました、お気をつけてお帰りくださいませ」
「はい。ではまた」
そう言うと儀三郎殿はお辞儀をして帰路についた。
「寬四郎、紀子、俺らも帰るぞ」
「「はい」」
そして私達も家に向かった。
家に帰ると母上と父上が玄関に一番近い客間で私達を待っていた。
「「「ただいま戻りました」」」
「紀子!よかった!遅かったわね?」
「城が見える丘で休んでいたんですが虎彦が寝てしまって、、、
わたしも色々考え事をしてしまったのですが、おぶって帰っている途中で儀三郎殿に会いまして、途中まで虎彦をおぶってくださいました」
「そのあと俺たちが合流したのですが、話しながらきたので少々時間がかかってしまいました、すみません」
わたしに続いて長正兄さまが状況を説明してくれ、一緒に頭を下げてくださった。
「な、大丈夫だって言っただろ笑」
父上は笑いながら母上の肩を抱いていた。
「昼過ぎに出たのになかなか戻らないから心配して当たり前です!」
「すみません、今後はきちんと戻る時間をお伝えします」
「無事に戻ってくれただけで大丈夫よ、さて!ご飯にしましょう!虎彦は私が預かるから、3人は支度してきなさい」
「「「はい」」」
長正兄さまは虎彦を母上に預け、3人で自室に戻り、各自食事の準備をした。
着物を家用の軽装に着替えながらわたしは儀三郎殿のまっすぐな目を忘れることができなかった。
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