第9話 歯車
篠田親子が帰宅すると私たちも解散となった。
わたしが小広間で虎彦と母上とお話していると、父上が来た。
「紀子、ちょっといいか」
「...はい」
なんだろう。
現世に伝わる会津の話かな、、、
このタイミングってなにか戦あったっけ、、、
叱られるようなことはしてないしな、、、
そんなことを考えながら父上のあとに着いていった。
そして父上の部屋に着いて座ったとき、父上から話し始めた。
「紀子、もしかして儀三郎のことを知っていたか?」
「...いえ、存じ上げません」
正確には、この会津では面識がありません。なんだけどね、、、
「そうか。儀三郎が来たときに紀子の顔色が悪かったから夢の中で何かみたのかと思ってな。違うならよかった」
いえ、大正解です父上、、、
「篠田と少し話をしたんだが、儀三郎が16になったらお前と儀三郎で祝言をあげるのはどうかと思ってな」
「祝言、、、ですか、、?」
祝言。それはいわゆる結婚である。
そもそも、篠田儀三郎は17歳で飯盛山で自害する。
となるとわたしは18で未亡人になるってこと?
それ以前に、これが決定したら私たち許嫁になるってこと?
「父上、私たちは本日初めて顔を合わせたばかりです、、祝言などまだ早いのでは、、、」
「そうか?今日の儀三郎の詩を聞いただろ。あれはお前のことだぞ?」
「え?なにか綺麗な桜を思い出していたのでは、、?」
「違うだろ。
一目みて
思い出すのは朝桜
ざわめく訳は
他生之縁か
つまり、朝にみる桜のように素敵な女性と出会ったが、気持ちがざわつくのは前世から繋がりがある人なのか、と詠っていたんだ。一言で言うと一目惚れしたってことだな笑」
そんなこと言ってたの?!
真面目そうに見えて思うことはしっかり言うタイプなのね、、、
「でも、それが私だとは限らないのでは、、、」
「篠田にも帰りに確認したが、恐らくお前のことだそうだ」
「はぁ、、、」
「今すぐ決めろということではない。これから何度か篠田と儀三郎がうちに来ることがあるだろう。少しずつ知っていきなさい」
「、、、かしこまりました」
「篠田の妹は西郷殿の奥方だし、将来も安泰だろう。しっかり考えなさい」
「はい。。。」
「話は以上だ、戻っていいぞ」
「はい、では失礼いたします」
まずい。
篠田儀三郎と許嫁になってしまった。
祝言を上げて1年もしないで旦那が死ぬなんて絶対に嫌だ。
どうすればいいだろう。
どうするのが最善だろう。
しばらく自室で1人で考えていると、母上が部屋に来た。
「紀子、入ってもいいかしら?」
「はい」
わたしが返答すると母上が部屋に入ってきた。
「祝言のことで悩んでるの?」
「母上も聞かれましたか」
「えぇ、ついさきほどね。あの人も急に決めちゃうんだから困っちゃうわよね」
「はい、、正直混乱しております。先日目覚めたばかりで急に祝言の話をされたので、、、」
「そうよね。でもすぐにあげるわけではないんでしょ?」
「少しずつ知っていきなさいとは言われました」
「そうよねぇ。。あ、では母の昔話でもしましょうか」
「昔話ですか、、?」
急に母上が昔話をすると言ってきた。
「私が14の頃かしら。おじじ様から学舎に来ないか?って言われてね」
この世界で目覚めてから色んなことを教えてもらった。
そして今母上が言ったおじじ様というのは母上の父上にある人で、今で言う日新館のような学舎の先生をやっていたとのこと。
「学舎に行ったはいいものの、周りはみんな男の人だし外では女性と話してはいけないからただただつまらなくてね。そしたら急に本を無言でくれた人がいたのよ。おじじ様に聞いたらわたしより2つ上の16の方だと聞いてね。」
「もしかしてそれが、、」
「そう、あなたの父上よ笑」
「なるほど笑」
「後から聞いたんだけどね、女性と話してはいけないけど、あまりにもつまらなそうにしてた私からなんとなく目が離せなかったんだって笑」
「そんなつまらなそうにしてたんですか?笑」
「だって周りに女の子いないのよ?しかも話できないしおじじ様は仕事してるし。。」
まぁ確かに、ただ座ってろって言われてたらつまんないよなぁ
「でもその後本を貸してくれたあの方から今度は私が目が離せなくなっちゃってね。稽古とかも父上ばっかり観てたわ。そして帰りに本を返したんだけど、そしたらおじじ様がいつの間にか裏で祝言をあげる準備をしていてね」
「おじじ様、、、笑」
「それから2人でお花見したり散歩をしたり詩を詠みあったり。そんなことしていてわたしが16になった時に祝言をあげたの」
「そうなんですね、、」
「だからね、紀子。儀三郎殿とこれから少しずつ会って、性格が合うかどうか、みてみるのはどう?初めから拒絶しないで、一度友人になってみて、覚悟が決まったら祝言をあげればいい。もし友人にもなれなかったらわたしから父上にも反対するわ」
「つまり、まずは許嫁として仲を深めてみろ、、ってことですね」
「そうなるわね。でも伴侶がいることっていいことよ?あそこでわたしが祝言をあげることを拒否していたら、あなたたちのような宝物達に会えなかったもの^^」
「そう、、ですね、、、」
思うことは沢山ある。
あんな無口な人とどう接すればいいのか。
篠田儀三郎は本当はわたしを嫌ってるのではないか。
いや違う。わたしが一番恐れているのは、篠田儀三郎が大切な存在になってしまった後、旦那が自害するということ。
今のわたしにそれを受け入れる覚悟がないだけだ。
どうにか運命を変えられないのか。
変えてしまったら現代での白虎隊はどう語り継がれるのだろう。
「母上、ありがとうございます。ただ急に頂いた話なので前向きですが一度考えさせてください」
「そうね、一度ゆっくり考えてみなさい」
そう言いながら母上はニッコリ笑って部屋を出ていった。
篠田儀三郎、、、
日本の歴史が生んだ悲劇と言われている白虎士中二番対が集団自刃をした。そしてその副隊長が篠田儀三郎。
それ以外はあまり現代で勉強していなかった。
「お城が燃えている」
飯盛山で若松城を見て負けを悟り自刃したと語り継がれていたが、実はお城が燃えていなかったとわかっていたと飯盛山の資料でみたことがある。
きっと会津が負ける運命は変えられない。
でも白虎隊を守ることならできる?
わたしが篠田儀三郎を守れる?
そう考えている時点で儀三郎に惹かれていたことにこの時はまだ気付いていなかった。
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