十九 テレス帝国議会

 グリーゼ歴、二八一五年十一月十六日、夜。

 オリオン渦状腕外縁部、テレス星団、テレス星系、惑星テスロン。

 惑星テスロン、テレス帝国、首都テスログラン、テレス帝国政府、帝国議会議事堂。



「なんたる失態!なんたる醜態ですか!

 やはり、この巨大戦艦は、前皇帝ホイヘウスが気にしていたトムソでしたか。

 緊急議会を召集して対処しなさい」

 皇帝テレスは執務室で、情報収集衛星が捕捉した3D映像を見て、側近のカッツーム・ロドス侍従長に命じた。


「オラール中将。よくぞ知らせてくれました。感謝します。

 もはやオラール元帥と呼びましょう。

 オラール元帥が帝国議会の主導権を握り、この戦艦を処分してください」

 皇帝は3D映像に現れたテレス帝国軍総司令官ウィスカー・オラール中将に指示した。

「了解しました。陛下」

 オラールは慇懃にお辞儀している。


 3D映像でテレス帝国議会に緊急開会された。

 デルフォンヌ・ロドス防衛大臣は、帝国議会場の空間に現れた巨大球体型宇宙戦艦の3D映像に息を呑み言葉を無くした。ロドス防衛大臣は、皇帝の側近のカッツーム・ロドス侍従長の縁者だ。テレス帝国軍総司令官ウィスカー・オラール中将とは公私ともに犬猿の関係だ。


 ロドス防衛大臣は執務室で3D映像回線を一時停止した。

「トムソに計画を読まれるなんて、ありえん!そう思うだろう!」 

 ロドスはヤム・ミム大臣補佐官に怒鳴った。

 怒鳴ったところで状況は変らん。早急に帝国軍を派遣して、トムソの戦艦を破壊せにゃならん。ただの戦艦なんかじゃない。あれは小惑星規模だ。とてつもなく巨大だ・・・。


 ロドスは3D映像回線の一時停止を解除した。

「あれが惑星テスロンに来ているのに、オラール元帥は帝国軍を出動させんのか?」 

 ロドスは帝国議会場へ3D映像で怒りをあらわにした。テレス帝国軍総司令官のウィスカー・オラール中将は、皇女の側近チャカム・オラール侍従と同様に、皇女派と言われている。


「ロドス防衛大臣は、軍事侵攻が可能だと提案し、皇女に惑星ユング政策を担当させた。

 さらに大臣は、皇女がかってに商会を再建したという理由で、皇帝に皇女を幽閉させた。

 おかげで内乱を嗅ぎつけ、訪問者が来た。

 テレス帝国軍情報機関によれば、あれはまちがいなくトムソの戦艦〈オリオン〉だ」

 オラール元帥は議会議場で冷静沈着に発言している。


「攻撃の第一陣は、ロドス防衛大臣に行ってもらおう!

 大臣の私軍を注ぎこみ、〈オリオン〉の火力を判断すべきだ!」

 オラール元帥の提案に議場が賛成に沸いた。皇帝派が多い帝国議会で、皇女派と言われるオラール中将が、完全に議会の主導権を握っている。

「全会一致した。即刻出動してくれ」

 オラールのアップ3D映像が、威圧するようにロドスの3D映像に迫った。


「なんたることだ!

 テレス帝国のために行った政策だぞ!

 なんで私の軍を使うんだ?」

 3D映像のロドスが怒りをこめてわめいている。


「ロドス防衛大臣の政策は、帝国議会が承認した計画ではない。

 大臣は、裏で皇帝失脚をほのめかして皇女をそそのかした。

 私的計画が失策だったと判断すべきだ。責任を取るのは当然だろう」

 オラールの発言に、またまた議場が賛成に沸いている。

 テレス帝国議会議員は好戦的だ。帝国の危機などそっちのけで戦闘を好んでいる。


 ロドスはオラールを不信に思った。

「さては、我がロドス一族の失脚を画策していたな!」

「バカな発言は控えた方がいい。

 お前の一族の失脚のために、帝国を危険にさらす無謀な計画を見過ごしたりはせぬ!

 ロドス防衛大臣。私軍の艦隊でトムソの戦艦を駆逐しろ。

 情け深い議員たちのことだ。情状酌量の余地もあるはずだ」

「そうだ!駆逐しろ!」

 またまた議場が沸いている。まったくアホな議員たちだとオラールは思った。


 騒然とした議場の3D映像に、ロドスは、もはやこの血に飢えた議員たちから逃れられないと判断した。3D映像で緊急招集された議会だ。ロドスは大臣執務室にいる。

「ミム補佐官!

 儂の艦隊に、出撃を命じろ!

 トムソの戦艦〈オリオン〉を駆逐させるのだ!」

 ロドスは執務室に控えている補佐官に命じた。

「了解しました。

 大臣、外に・・・」

 補佐官が執務室の外部へ警戒をあらわにしている。

「なんだ?」


 室外の通路で音がする。帝国議会は儂を拘束する気だな。ロドスは舌打ちした。

 ドアが開き、憲兵隊が現れた。

「私を我が軍の旗艦に連れてゆけ。

 我がロドス一族の勇軍を知っとるだろう?」

 ロドスは現れた憲兵隊を一喝した。


「大臣を旗艦〈ロドス〉にお連れするよう、帝国議会の指示で参りました」

 アヒム・コドム親衛隊長が丁重にいった。

「了解した・・・。

 ミム補佐官。お前も来るんだ」

「しくじったのはアンタ大臣だぞ。

 なぜ、アンタの尻ぬぐいをせにゃあならんのじゃ?」

 補佐官はあきれている。


「補佐官も攻撃の指揮に加わるようにとの指示です」

 コドム親衛隊長は情け容赦なくいった。

「わかった・・・」

 補佐官はしぶしぶ憲兵隊の指示に従った。


 まもなく、ロドス艦隊が、首都テスログラン近郊の軍事施設から静止衛星軌道へスキップした。旗艦〈ロドス〉に搭乗して指揮するのはデルフォンヌ・ロドス防衛大臣だ。

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