十八 内部探査

 グリーゼ歴、二八一五年十一月十六日、午後。

 オリオン渦状腕外縁部、テレス星団、フローラ星系、惑星ユング。

 ダルナ大陸、ユング、ダナル州、フォースバレー。テレス帝国軍警察フォースバレーキャンプ。



 フォースバレーキャンプで、Jはデスクのバーチャルコンソールを操作し、デスク上方に、皇女クリステナ軟禁に関するPeJの4D映像探査を映像化した。


「PeJ、全ての通信回線を遮断して、ドレッド商会へ、私の映像とPeJが探査したこの映像を送って、私とジョーだけが会話できるようにしてくれ。

 今すぐできるか?」


「4D映像探査を3D映像記録したからできるよ。

 ちょっと待ってね~』

 PeJが4D映像探査を使ってジョーに関係する全ての通信回線を遮断した。

「ナイスガイと話すんだね。ボクも話したいな~」

 Jの肩の上でトルクンに変身したPeJがうれしそうに身体を左右に揺らしている。

「PeJが状況説明できるなら、してくれ。できるか?」

 PeJの誕生からの期間は九歳以降の私と同期間だ。私はスキップして以来九歳をひと月ほどと十五歳を五日間と二十歳前を二日間過している。PeJが得た精神の成長と知識は、私の精神変化と会得した知識に大差ないはずだ。


「いいの?ボク、やってみるよ!ルルルン~」

 PeJがJの肩の上で小躍りしている。

 妙なヤツだ。あんな二メートルもあって、ばかでかい、グリーンブラウンのカプラムの、どこを気にいったのか理解に苦しむ・・・。

 メテオPePeや椅子のC1たちやミニ円盤〈V2〉のミニモデルがバトロイドになったとき、皆、喜んでいたな・・・。

 Jは笑いながら訊いた。

「PeJ、もしかしたら、大きな身体に憧れてるんか?」

「エヘヘヘッ、そうで~す。ジョーが回線に出たよ」


「よおっ、マリー・ゴールド。何かわかったか?」

 ジョーの3D映像がフォースバレーキャンプのオフィスフロアに現れた。ジョーはサングラスのメガネ端末をかけてドレッド商会の三階フロアでソファーに座っている。

「内部探査だよ。

 ナイスガイ!サングラスに映す?それとも3D映像でいい?」

「よおっ、ビルバム。ありがとうよ!3D映像でいいぞ!」

「了解!映像を送るよ!」

 ジョーはサングラスかけたまま、空間に現れた3D映像に見た。


「これで政府内の動きが皇帝派一つになった。カプラム侵攻が開始されるな」とJ。

「皇帝と皇女の対立がはっきりした。激化すれば内部分裂して政府勢力が衰退する。我々にとってチャンスだ」

 Jの言葉にそう返答したまま、ジョーは態度を崩さない。

「ねえ、ナイスガイが皇女を救出するの?」

 トルクンのPeJがジョーを見つめている。

「我々カプラムはこのとおり、ユンガと異質だ。皇帝にすぐバレル」

 ジョーがメガネ端末を取った。グリーンブラウンの顔から、金色の虹彩の目がJとPeJを見て笑っている。


「Jが皇女を救出するの?ねえ、Jがするの?」

 PeJが肩の上で騒いでいる。まさに好奇心の強いトルクンだ。

「今朝話したように、コンバットの任務は上からの指示に従い、皇女派としてクラッシュの撲滅と組織の壊滅だ。

 皇女を救出するしかないだろう」

 Jは今朝ジョーに話したように言った。

 我々はニオブの信念に従うだけだ。コンバットはニオブの隠れ蓑だ・・・。


 ジョーは態度を変えずに説明する。

「朝の説明を補足しておく。

 アシュロン商会本部の壊滅は皇帝の政策だ。

 クラッシュ撲滅を提唱した皇女は、皇帝テレスの政策の真意を知らぬまま独自の考えで動いただけだ。

 皇帝は、アシュロン商会を通じて惑星ユングをクラッシュ漬けにした後、テレス帝国軍を派遣してアシュロン商会を壊滅し、惑星ユングを完全支配する気だ。そのためには帝国軍であろうとアシュロン商会のアシュロネーヤであろうと、使える者は使う主義だ。

 あんたらを野放しにしたのは、皇女の機嫌を取るためだ。

 皇帝は、クラッシュに関与した者全員を抹殺する気だったがこの映像でわかるように、方針が変った。今日中に、皇女に関与した上層部が全員逮捕され、形式だけの裁判にかけて処刑される。帝国軍は完全に皇帝に掌握されたとみていい。

 皇女が動かせるのは惑星ユングに駐留している帝国軍警察コンバットとアシュロン商会を再建した帝国軍だけだ」


 Jは、ジョーの説明が事実か否か精神波で意識記憶探査した。

 ジョーは皇帝派から情報を得ている。我々ニオブの存在に気づいて、我々に皇女を救出させ、皇帝と対立させようとしている。目的は、両勢力を衰退させる目的だけか・・・。


「皇女を救出した場合、皇女と皇帝の対立にジョーが巻きこまれるんじゃなのか?」

 Cは、皇女をこの惑星ユングに連れてきて、駐留帝国軍を指揮させない限り、皇帝との対決はあり得ないと思い、ジョーの立場を気にしている。今朝行われたJとジョーの交渉は、全てトムソのコンバットに伝えてある。

「オレの組織が皇女と対立するのまちがいねえな」

 ジョーは皇帝派から、表向きはコンバットに協力してアシュロン商会とクラッシュを撲滅するよう指示されてる。


「ジョー。皇帝の翼の執務室は飛行体〈ウィング〉といってたな?

 どういう飛行体か知ってるか?」とJ。

「五十レルグほどの円盤型小型飛行体らしいが、オレは実物の〈ウィング〉を知らねえ」

 あいかわらずジョーは態度を崩さない。PeJがJの肩の上でジョーに見入っている。


 Cが精神思考で伝えてきた。

『J。ニオブの円盤型小型偵察艦だ。

 オイラー・ホイヘンスは円盤型小型偵察艦を一機だけ入手していた。

 そのレプリカだろう』

『私もそう思う。偵察艦の全ての機能がすでに解読されたとみていいいな』

『戦闘爆撃ヴィークルや戦闘爆撃機で出撃するより、戦艦〈オリオン〉で〈ウィング〉をスキップさせる方が効率的だな』とC。

『検討する・・・』


「ジョー、皇女救出は可能と思うか?」とJ。

「オレにはわからねえ。

 飛行体に幽閉されたんなら、飛行体ごと救出すればいいんじゃねえのか?」

 ジョーがニタニタ笑っている。明らかに、戦艦〈オリオン〉の存在を知っている。

〈オリオン〉は惑星ユングの静止軌道上にいる。


「ねえ~、J。

 皇女が捕まったままなら、どうなるの?

 皇帝は何するの?」

 PeJがJに訊いた。


 ジョーがPeJに答える。

「皇帝はアシュロン商会を壊滅して、帝国軍に惑星ユングを完全支配させる。

 そして、惑星カプラム侵攻を実行するだろう」

 惑星カプラムはフローラ星系の辺境の惑星だ。

「帝国軍の勢力はそのまま維持される・・・」

 とCが呟いた。


「では、皇帝の翼を攻撃しよう。明後日、未明に攻撃する・・・」

 Jは指揮下のコンバットに指示した。


 Jの指示でPDが、Jの指揮下にあるコンバットと、戦闘爆撃ヴィークル〈V1〉と〈V2〉、戦闘爆撃機〈⊿2〉と〈⊿3〉を、フォースバレーキャンプの地下にある巨大ドームごと、オリオンの巨大格納庫へスキップさせた。

〈オリオン〉はフローラ星系惑星ユングの静止軌道上から、テレス星系惑星テスロンの静止軌道上にスキップした。ここはテレス帝国の首都テスログラン上空だ

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