十六 市街戦

 グリーゼ歴、二八一五年十一月十六、日昼。

 オリオン渦状腕外縁部、テレス星団、フローラ星系、惑星ユング。

 ダルナ大陸、ユング、ダナル州、アシュロン、アシュロン商会支部。



 テレス帝国軍警察フォースバレーキャンプの総司令官として、マリーはコンバットに、アシュロン商会支部の攻撃を精神波で指示した。

『なんだって真っ昼間から戦闘なんだ?麻薬組織を攻撃するなら、夜中か未明だろう?』

 南北二十五番街東西七十五番街のアシュロン商会支部を臨む廃墟ビルの屋上部隊〈V1〉指揮官アリー・ラビシャンが精神波でぼやいている。

 ロケット弾が飛びかい炸裂し、破壊したビルの破片が球状多重位相反転シールドに降りそそいでいる。


『ミサイルがくるぞ。文句を言ってないでフライを放て!』

 Jは、屋上にいるコンバットと地上のコンバットに指示した。

 コンバットはMA24改多機能KB銃から閃光弾を放った。閃光弾は三百メートル上空で炸裂し、小さな飛行する発熱フライを大量に飛散させた。

 アシュロン商会支部ビルのミサイル発射サイトから、コンバットに向って熱感知小型ミサイルが放たれた。しかし、ミサイルは初期の飛行軌道をそれて、空中を漂うフライへ飛翔し炸裂している。破片が飛びちったが多重位相反転シールドに守られ、屋上のコンバットに被害はない。


『BBを放つか?それでボン!いっきに壊滅さ!』

 地上で〈⊿3〉部隊の指揮官ジョリー・ラビシャンが叫ぶ。全て精神波による会話だ。精神波は電磁波探査や思念探査には傍受されない。

 アリー・ラビシャンやジョリー・ラビシャンだけでなく、〈V2〉の指揮官ミラ・ラビシャンも短絡的に考える性格だ。これはラビシャン家の家系特有だが、父親のアレクセイ・ラビシャン博士は複雑な思考の持ち主だ。子孫がどうしてこうなったかは母系によるのだろう。


『J!どうする?』

 地上のジョリー・ラビシャンから苛立ちが伝わってきた。

 PDにターゲット設定させたBB巡航弾は小さなファルコンのように飛翔してビル一つを破壊する威力がある。このアシュロン商会支部のユンガは、アシュロン商会本部でユンガが殺戮されたのを確認しているはずだが、BB巡航弾がヒューマノイドを壊滅する兵器でビルを破壊する代物とは思っていないらしい。コンバットが携行する武器などたかが知れていると思っているのは確かだ。いっきにアシュロン商会支部をビルごと破壊すれば事はかんたんかも知れない。


『帝国政府のディノスとアシュロン商会へのデモンストレーションだ!

 ジワジワとのんびり戦え!

 こっちの手の内を見せるな!

 見せるのは最後でいい!』

 JはコンバットにMA24改多機能KB銃で攻撃するよう指示した。

『フン!』

 鼻を鳴らすラビシャン姉妹の不満が伝わってきた。

『みんな!Jの指示に従うんだよ~』

 トルクンのPeJがプルプル震えてJの肩の上で息巻いている。

『いいんだ、PeJ・・・』

 JはPeJをなだめ、コンバットに指示した。

『擲弾で攻撃しろ!』

『了解!』

 コンバットのMA24改多機能KB銃からターゲットロックした擲弾が放たれ、アシュロン商会ビルのミサイル発射サイトが破壊された。サイトは六基ある。まだ五基は健在だ。


『くそっ!フレアを放ちやがった!』

 廃墟ビルの屋上でアリー・ラビシャンが喚いた。放たれた多数の擲弾がフレアに接触して誘爆している。

『粒子ビームで破壊しろ!』

 Cの指示で、〈⊿3〉と〈⊿2〉の地上部隊がMA24改多機能KB銃から粒子ビームを放ちミサイルサイトの防護壁を粉砕した。その間も、ロドニュウム弾がビルの間にいる〈⊿3〉と〈⊿2〉の地上部隊を襲っている。


 さらに攻撃しようとビルとビルの間から、MA24改多機能KB銃を構えたDとKが身を乗りだした瞬間、

「うあっ!」

 Dが二発のロドニュウム弾の直撃をくらって、歩道へ数メートル吹き飛んだ。

 MA24改多機能KB銃が手から離れ、DはMI6粒子ビーム拳銃を構えた。と同時に、Dにロドニュウム弾が直撃した。一瞬、Dに注意を向けたKにもロドニュウム弾が直撃した。

『アンカーを打て!』

 Cが、球状シールドをアンカービームで歩道に固定するようDとKに伝えた。CはJに代って⊿2部隊のDとKとPeD、PeKを指揮している。


『PeJ!狙撃手を探査してくれ!』

 Jはビルの間から、狙撃手がいる商会ビルの四階窓をトルクンのPeJに探査させた。PeJはJのバトルアーマーの内ポケットにいる。

『了解!』

 瞬時に、Jの精神思考域に4D映像が現れた。狙撃手は三名。四階と五階と六階の窓辺に一人ずついて、窓の壁に身を潜めている。


『壁ごと破壊するの?』とPeJ。

『いや、消滅する。レーザーで充分だ。

 ラビシャン!4D映像を確認しろ!四、五、六階にレーザーを放て!』

 Jはラビシャン姉妹に指示した。

『まかせろ!』

 廃墟ビルの屋上と、地上のビルとビルの間から、三姉妹は瞬時に誰がどのターゲットを攻撃するか割りあて、MA24改多機能KB銃のレーザービームエネルギーを最大に充填し、いっきにターゲットへ放った。


 一瞬に四階と五階と六階の窓辺の壁が消失して大穴が開いた。

『ヘッジホッグを放て!

〈V1〉と〈V2〉は四、五、六階だ。

〈⊿2〉と〈⊿3〉はそれより下だ!』

 Jは屋上の〈V1〉と〈V2〉部隊と、地上の〈⊿2〉と〈⊿3〉部隊に指示した。


『Jから指示が出た!抜かるんじゃないよ!』

 アリー・ラビシャンが部隊に緊張を喚起している。コンバットは、MA24改多機能KB銃に装備されている、P型迫撃弾(超小型ミサイル)用擲弾筒にリトルヘッジホッグを装填した。

『撃てっ!』

 リトルヘッジホッグがフレアを避けて蛇行飛翔して、破壊された窓や壁の間隙から商会支部の内部へ浸入した。同時に商会支部の破壊された壁の間隙や窓から閃光が輝いた。

 コンバットのヘルメットは、リトルヘッジホッグが発射されると同時に閃光感知モードで待機し、閃光が放たれる前にバイザーを遮光モードにしていた。



『PeJ、生存者は?』

 JはPeJに訊いた。

『誰もいないよ。でも、これ、何だろう?』

 PeJが伝える4D映像に現れたのは、リトルヘッジホッグでミンチにされたユンガの組織を回収している奇妙な機械だった。


『レプリカン培養装置の一部だ!

 カンオケ(レプリカン培養装置)があるはずだ。

 PeJ!全てのカンオケを探査しろ。

 ひとつ残らず破壊する!』

『了解したよ~』とPeJ。


『〈V1〉と〈V2〉部隊はBB巡航弾をロックしろ。

 ターゲットはアシュロン商会内部にあるカンオケすべてだ!』

『了解。PeJ、4D映像をくれ!』

 Jの指示に、アリーがうれしそうに伝える。

『J!全部見つけたよ!各階に四機にずつあるよ!』

 PeJから送られた4D映像のレプリカン培養装置に、コンバットのバトルアーマーに内蔵されているAIPDがBB巡航弾をターゲットロックした。


『ロック完了!発射!』

 PDの声とともに、BB巡航弾が飛翔した。

 瞬時に、アシュロン商会の各階が轟音をたてて跡形もなく吹き飛んだ。ここはアシュロン旧市街だ。廃墟ビルをいくつ巻き添えにしてもかまわないが、ニューアシュロンの市街地でこんな真似はできない。


 CとDとKは歩道にあるテクタイト鋼製のトイレの横から身を乗りだした。

 ジョリーがビルの間から歩道へ移動して伝える。

『最初からこうすりゃあいいんだぜ。

 とはいうものの、カンオケの所在がわからなかった・・・。

 PeJ!カンオケは破壊したか?』

『完璧だよ。コナゴナさ!』

 PeJがJの肩にでてきた。

 ジョリーがからかうようにPeJに伝える。 

『AIの機械生命体は、有機体ヒューマノイドの生死を気にしない。

 我々にとっても、ヒューマノイドはエイリアンにすぎない・・・』


『飛行重機が来たぞ!護衛機がいる!』

 ビルの屋上にいるミラが喚いた。

 上空に、護衛機に囲まれた十機の飛行重機が現れた。護衛機はその倍以上だ。全てロータージェットステルス戦闘ヴィークルだ。


 時空間スキップしたな。時空間スキップはPDの技術だ。やはり、PDに相当するAIがテレス帝国に存在している・・・。

  そう思いながら、Jが指示する。

『撤退する!スキップするな!

 機能強化でヴィークルへ移動しろ!』


 バトルスーツに内蔵されている運動機能強化装置はスーツ着用者の運動機能を十倍にアップする。各部隊は廃墟ビルの谷間に係留したロータージェットステルス戦闘搬送ヴィークル〈イグシオン〉へ高速度移動した。このヴィークルはテレス帝国軍警察が所有する無音のステルス機だ。


『J!あの護衛機は帝国軍の兵員輸送機だ。

 飛行重機も帝国軍のテラフォーミング重機だ』

〈イグシオン〉の中で、アリー・ラビシャンが興奮した様子で伝えた。兵員輸送機は主翼に可変ロータージェットを装備した、巨大な戦闘搬送ヴィークル、〈マストドン〉だ。

『スキップするな。このままビルの間を抜けて、静かにフォースバレーへ帰れ』

 Jは〈イグシオン〉のコクピットにいる〈V2〉部隊の副官ガル・ヘクトスターと〈⊿3〉部隊のの副官レグ・ヘクトスターに伝えた。

『了解』

〈イグシオン〉が発進した。



 テレス帝国軍の兵器がアシュロン商会の復興に動員された。帝国軍の上層部がアシュロン商会維持を画策している。ジョーが説明したように、惑星ユングの政策は皇女クリステナが担当している。アシュロン商会のクラッシュ売買に皇女派が関与しているのだろうかか・・・。

 そう考えるJの精神思考に、Cが疑問を伝えてきた。

『J。経費と時間のむだだ。我々にアシュロン商会を破壊させて、アーマーがアシュロン商会を復興させる意味がどこにある?

 PeJ!あのアシュロン商会を仕切っていたのは誰だ?』


『ジョーだよ。ジョーのレプリカンみたいだよ』

 PeJの4D探査で〈イグシオン〉内にいる全員の精神思考域に4D映像が現れた。

 ジョーが、あのドレッド商会で食事した部屋と同じ部屋で戦闘を指揮をしてる。アシュロン商会の建物は、全て同じ造りのようだ・・・。

 Jに疑問が湧いた。 

『PeJ、以前のアシュロン商会本部のボスは誰だった?』

『ジョーだよ』

 4D映像がドレッド商会に変る以前のアシュロン商会本部に変った。

『本部と支部に、二人のジョーが存在したのか?』

『本部も支部も、ボスはジョーだよ。

 ボクも、あとで探査してわかったんだ・・・』


 4D映像が昨日に変った。荒れ果てたビルの一郭でJとクラッシュの交渉をするジョーの4D映像のあと、異なる4D映像が現れた。アシュロン商会本部の三階にある会議室のような部屋の空間からジョーが出現した。


『ジョーが手首を無くした時、新しいジョーがアシュロン商会本部に現れたんだ。

 本部に亜空間転移ターミナルがあるから、そうなるのをジョーは知ってたみたい。

 ジョーの発進点は・・・ここだよ』


 出現したジョーに4D映像が集中した。そして4D映像が引いて、培養装置に繋がれた大量のレプリカン培養カプセルが並ぶ一郭が出現した。

『ここは・・・』

 Cが苦虫を噛みつぶしたような感情を伝えた。

 ここはテレス帝国軍の組織培養室だ。アーマーやコンバットの負傷部位の組織再生培養と、レプリカン培養が行われている。

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