十四 作戦会議

 グリーゼ歴、二八一五年十一月十五日、夕刻。

 オリオン渦状腕外縁部、テレス星団、フローラ星系、惑星ユング。

 ダルナ大陸、ユング、ダナル州、フォースバレー、テレス帝国軍警察フォースバレーキャンプ。



 時空間スキップで「あたし」は「私」に変った。変化は私だけだ。おそらくPDに考えがあってそうしたのだろう。

 しかし、こんな殺風景な惑星にスキップするなんて、どうかしてる。ヒューマには動植物とそれらの痕跡が必要だ。そうでなければ、マリー・ゴールドのようなカプラムのヒューマの嘆きは、この荒れた地表を亡霊のように彷徨うだけで、分解も吸収もされず、この惑星の礎にはならない。

 Jは空間に投影された惑星ユングの3D映像を見てつくづくそう感じた。


 今回、Jたちは、PDが巨大球体型宇宙戦艦〈オリオン〉に用意した巨大ドームごと、オリオン渦状腕深淵部レッズ星系惑星シンア静止軌道上の戦艦〈オリオン〉から、オリオン渦状腕外縁部テレス星団フローラ星系惑星ユングにスキップし、ダナル州のアシュロンから西へ二十キロメートルほど離れた、アシュロンキャニオンのフォースバレーの砂礫層の地下へ移動した。


 今回の出撃はテレス帝国に対する単なるデモンストレーションと考えていたが、事前にPDがJたちの安否を危惧したように、テレス帝国はこれまでJたちが対戦してきた星系の独裁体制とは体制を異にしている。

 今回投入されたのは、総指揮官JのほかにDとKとPeJ、PeD、PeK、そしてカムト率いるトムソ(ニオブの特殊部隊戦闘員)の精神共棲体コンバット十五名だ。

 投入戦闘機と戦闘爆撃機は、

 円盤型特殊ステルス戦闘爆撃ヴィークル〈V1〉〈V2〉。

 有翼型単葉ステルス戦闘爆撃機スペースファイター〈⊿2〉〈⊿3〉だ。


 Jたちと戦闘爆撃機は、フォースバレーの地下巨大ドームから時空間スキップで、精神共棲と転移、戦闘爆撃機の発進と帰還を行う。

〈V1〉部隊指揮官はアリー・ラビシャン。パイロットバレル・オオスミと三兵士。

〈V2〉部隊指揮官はミラ・ラビシャン。パイロットガル・ヘクトスターと三兵士。

〈⊿3〉部隊指揮官はジョリー・ラビシャン。パイロットレグ・ヘクトスターと三兵士。

 カムト・ヘクトスターはトムソ指揮官として、〈V2〉に搭乗する。

〈⊿2〉の搭乗書はDとKとPeJ、PeD、PeK、総指揮官のJだ。


「ハラ、減ったぞ~」

 作戦会議が開かれているフォースバレーの地下巨大ドームで、空間に浮かぶがPeJがプルプル震えて喚いている。ヒッグス場からいつでもエネルギー補給できるのに、補給時間をJたちの食事時間に合わせて、あいかわらずトルクンのようにおどけている。PeJを見て、PeDとPeKが微妙に色彩変化してあきれている。


「コンバット(テレス帝国軍警察重武装戦闘員)の取締り対象はクラッシュだ。軍の犯罪者じゃない。バカげてる!」

〈V2〉部隊指揮官のミラ・ラビシャンが憤慨している。

 パイロットのガル・ヘクトスターは、それだけじゃないだろう、と首を横にふった。

「テレス帝国軍がアシュロン商会のユンガと通じてるのは確かだ」

 と⊿3部隊指揮官のジョリー・ラビシャン。

 パイロットのレグ・ヘクトスターは、そんなことはわかってる、と考えている。

「アシュロン商会の下部組織がテレス帝国軍内部に存在してるんだ」

 と〈V1〉指揮官アリー・ラビシャン。

 パイロットのバレル・オオスミも、そんなことはわかってる、と考えている。


「指揮官は愚痴を言うな!今後は無駄を省いて発言してくれ!」

 Jは各部隊の指揮官ラビシャン姉妹たちに忠告した。ラビシャン姉妹はトムソのニオブだ。カプラムのマリーに共棲している、ニオブのニューロイドのJに命令され、目を白黒させている。

 やれやれ、指揮官ともあろう者が全体を把握していない。困ったものだ・・・。

 指揮能力はラビシャン姉妹より、ヘクトスター兄弟とバレルのほうが上だ。おそらく、トムソ指揮官カムトは、各部隊の指揮をヘクトスター系列が独占するのを避けているのだろうが、いずれ指揮官を交代しなければならない・・・。

「アシュロン商会に通じている存在が軍内部にあるのは確かだ」

 こともあろうにクラッシュ取引の合言葉は、Jの精神共棲体の名『マリー・ゴールド』だ。マリー・ゴールド太尉はテレス帝国軍警察フォースバレーキャンプの総司令官で総指揮官だ。軍内部でマリーの名を口にしても、誰も怪しまない。ここまではすでにJたちが得ている情報だ。

「新しい情報がある。Cが説明する」

 Jはラビシャン姉妹を睨んだまま話して、ラビシャン姉妹の口を封じた。ラビシャン姉妹は不満そうに頷いた。ヘクトスター兄弟とバレルが笑いをこらえている。


「この監視映像を見てくれ」

 CがPeJに、ニューアシュロンのアカデミアの監視映像を投映させた。

「ジュディーとアマンダの背後にいるのは、クラッシュ売人のドレッド・ジョーだ。

 同時刻、ジョーはアシュロンでJに協力したと判断されて、アシュロン商会本部から狙撃され、銃撃戦になっていた。

 PeJ、銃撃戦の4D映像を映してくれ」

「了解したよ~」

 4D映像が現れた。ドレッド・ジョーがアシュロン商会本部ビルからロドニュウム弾の攻撃を受けている。


「つまり、ジョーはレプリカンだ。

 映像スキャンからはどちらがオリジナルか判断できない。

 どちらもレプリカンかも知れない。

 他にもジョーのレプリカンが存在するだろう。

 ジョーはクラッシュを自己解毒する能力を持っている。

 アシュロン商会は売人にこの能力を持たせたかったと考えられる」

 Cはいったん全員を見た。誰も質問しない。


「ソウチ(レプリカン培養装置)はテレス帝国政府の極秘技術だ。

 カンオケ(レプリカン培養カプセル)が横流しされたか否かは不明だ。

 レプリカンを作ったのは政府関係者と考えられる。

 アシュロン商会にクラッシュを売らせ、テレス帝国軍がここ惑星ユングに駐留したように、周辺星系へ帝国軍を侵攻させようする計画が帝国政府内にあるのは確かだ。

 帝国政府がそのように画策しているとも考えられる」


 JがCの説明を引き継いだ。

「いいか、よく聞け。

 我々はこれまでどおり、クラッシュ販売組織を壊滅し、軍内部のクラッシュ売買に関わる者を消滅させる。

 同時に、帝国政府だろうと、クラッシュ売買を画策している組織を壊滅する。

 すでに我々の精神共棲体であるポールとマリーの、親族がクラッシュで死んだ。

 皆、精神共棲体の親族の安全を確保しろ」

 ドーム内に、了解した、と皆の声が響いた。


 JはPeJに指示した。

「PeJ。ジョーを見つけたら映像を見せてくれ」

「うん・・・」

 PeJが頷くように震えて、ドームの空間に高速度の4D映像が現れた。

「これ、ジョーの身体を再生した直後だよ・・・。

 そして重機が飛んできて、Jが破壊したアシュロン商会を解体して再生して、足らない所には、新しいビルを空輸したんだよ・・・」

 アシュロン商会があった上空に、巨大な飛行重機が出現した。瓦礫の粉砕撤去とビルの再生が3Dプリンターのように行われ、ビルの不足部位に、空輸したビルの一郭が付着した。


 巨大飛行重機を見て、〈V2〉パイロットのガル・ヘクトスター呟く。

「これは、テラフォーミング用の自己スキップ重機だ・・・」 

「コイツを持っているのは帝国軍だけだ!」

〈V1〉パイロットのバレル・オオスミが、精神共棲体(コンバット)の記憶を探ってそう言った。


「PeJ、重機のオペレータを拡大してくれ」とC。

「了解・・・。

 オペのこの男、Jがハリネズミ(超小型多弾頭多方向ミサイル・リトルヘッジホッグ)で始末した、ジョーの手下のマイケルとトムだよ!」

 PeJが驚いたように飛びまわっている。

「PeJ、レプリカンかどうか、4D映像探査してくれ」

 Jは手下がオリジナルか気になった。


「了解・・・。

 オペはレプリカンだよ。

 ハリネズミでヤラれたヤツは死んだよ。

 ヤツがオリジナルかは判断できないよ・・・」

 PeJが小刻みに震えている。悩んでいるみたいだ。

「悩むな、PeJ。PDの波動残渣探査能力でも、4D映像からは情報不足だ」

 Jがそう言うと、

『そんなことはないですよ』

 PDの精神思考が伝わってきた。PDが拠点にしている攻撃用球体型宇宙戦艦〈オリオン〉は、完全ステルス状態で惑星ユングの静止軌道上にいる。


「どこかにいた手下のレプリカンが重機をスキップさせた、と見るべきだな」とC。

 重機が待機していたのは軍内部だろうか?それともアシュロン商会の未だ知られてない拠点か?あるいは政府の裏組織の拠点か?

「アシュロンのアシュロン商会本部は私が破壊したが、ジョーが潰したことになってる。

 軍内部か、政府の裏組織の拠点からスキップしたんだろう」

 Jは4D映像を見つめた。


「ジョーを見つけたよ~。三階にいるよ~」

 ドームに、アシュロン商会本部の正面全貌4D映像に現れた。ビル全体は防御エネルギーフィールドでシールドされている。天井の高い一階外部から二階三階へ映像が移動し、ロドニュウム弾の直撃にも耐える防弾ガラスの窓から、三階内部のソファーに深々と座るジョーが見える。脚を組んだ膝の上で組まれた左右の手は皮膚の色彩に相違があり、明らかにそれら経過時間にも相違があるのを示している。


「ビルのシールドは多重位相反転シールドか?」

 Jは全員に聞こえるようにPeJに訊いた。

「位相反転シールドだよ・・・。

 ボク?あれ、オイラ?ボクだ。

 ボク、シールドに関係なく、ジョーの思考記憶探査できるよ。

 J、どうすんの?」


「クラッシュの売買を誰が指示したか探査してくれ」とJ。

「皇帝の指示としかわからないよ・・・。

 何だこれ。頭の中、カラッポだよ!記憶が無いよ!」

 PeJが振動を止めて固まってあきれ、地団駄踏むようにビュンビュン上下動している。


「騒ぐな!トルクンPeJ!」

 PeJに近づき、PeDがたしなめた。

「ウルサイ!PeDチビル!

 記憶が消されてるんだよ!チビルはまだ、ここまで探査できないだろう?」

 PeJが憤慨して動きがプルプル振動に変った。


「オレはトルクンみたいに、ナンデ?ナンデ?と思わないからな。ちょっとずつなんだ」

 PeDが威圧するように、PeJの周りをゆっくりまわっている。

「ちょいと、ダマルべさ!今は、作戦を考えてるんだべ!

 ジョーの記憶が無いんなら、消したのはテレス帝国政府だベ。

 そんな目で見るな!

 皇帝の指示ってんだから、言いだしっぺは政府に決まってるベ!」

 PeKが二つの視覚センサー部位を赤色に蛍光させて、PeJとPeDの青と紫に点滅する視覚センサー部位に、電子ビームをロックしている。


「ワォッ!わかったよ!騒がないよ。

 カミナリはやめて!ビリビリはヤメテッ!

 オイラじゃなかった、ボク、まじめに考えるよ~」

PeJの動きが止った。まじめに探査結果を伝えた。

「ジョーは意識記憶管理システムで記憶を操作されたと考えられます。

 記憶連合野がフォーマットされてます」


「帝国政府に意識記憶管理システムがあるのか?」とガル・ヘクトスター。

「帝国に、ニオブの円盤型小型偵察艦があるんだ。PDに関係する技術は全てある、と考えるのべきだろう・・・」

 Cはなにやら考えている様子だ。

「ネエ、C。なに考えてんの?」

 そっとPeJがCに近づいた。いたずらしようと考えている。


「PeJ。ジョーは私のことを記憶しているか?」

 JはPeJを呼んだ。ジョーがJを記憶していないなら、ジョーの身体部位を再生した意味が無い。状況は、アシュロン商会本部ビルを破壊する以前と同じだ。

「ちょっと待ってね・・・。

 少しだけあるよ。Jに腕を再生された記憶がちょっとだけ残ってる・・・」


「PeJが記録しているジョーの映像を、全部、ジョーに転移できるか」

 記憶の転写ではない。記憶4D映像を記憶連合野へ時空間スキップする記憶転移だ。初歩の意識記憶管理システムでは防御できない、記憶の時空間スキップだ。


「うん、できるよ~。やってみるね・・・」

 しばらくすると、

「ねえー、J。他の記憶が蘇っちゃった・・・。今までのが・・・」

 PeJが困ったようにゆっくり自転している。

「その方が都合がいい。ジョーに、

『自分の記憶が操作されたから、もう誰にも操作はさせない』

 という記憶を植えつけて、記憶が操作されたままのジョーを演ずるようにさせるんだ」

 JはPeJにそう指示した。


「了解・・・。

 Jが話を聞きに行くよ、と連絡しとくの?」とPeJ。

「いや、事情聴取は明日にする。今までのジョーに戻れば、私とのことを思うだろう。

 さて、これでアシュロン商会のバックにテレス帝国政府か、帝国政府の裏組織が絡んでいるのがわかった。中心人物が誰かを探って抹殺する。

 いいか、表向きは今までどおりに、クラッシュの壊滅だ。

 ユンガから情報を得てアシュロン商会のバックを聞きだせ!

 情報を聞いた相手は、情報内容に関わらず、我々に関する記憶を消去しろ。

 バック組織に我々の動きを知られないためだ・・・」


 Jに続いてCが皆に指示する。

「皆、バトルアーマーを整備しておけ!

 非常の場合、バトロイドに出動を要請する。バトロイドは惑星ナブールのラプトからテクノロジーを奪って、惑星全土を石器時代にした。状況は常に滞りなく進行している。

 その証拠に、Jがこんなに成長した。いやこんなに年を食っちまって、我々の伯母らしくなってきた」

 Jを笑いの種にして、Cがにやけて皆を見ている。


 Jに思いが湧いた。

 明日から、我々も精神共棲体も、皆、危険に身を晒す。今は嵐の前の静けさ、安堵のひとときだ・・・。マリーやポール・カッターは、妹や娘と最後の別れの夜を過ごすだろう・・・。何とかして、ヒューマが家族や仲間を失わぬようにできないものか・・・。

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