第5話   初めての話し相手

 いくら注意してもココが走るので、けっきょく門番が少し体を傾けて、ココと手をつなぐことになった。


「ボクはここで何をしてるの?」


「あの、ボクが僕の名前だと勘違いしてるようだけど、僕の名前は別にあるからね。アレキサンダーっていうんだ」


「アジェキシャンダー」


「……レックスでいいよ」


「レックスでいいのー? 名前いーっぱいあるんだね。あとは、どんな名前があるの?」


「もうないよ」


「ココはねー、ココだけなんだよ。あ、でも、おじょうちゃんって名前もあるかも。さっきレックスがおじょうちゃんって言ってた」


「はいはい。ハァ、子供ってこんなにしゃべるのか……。こんな毎日じゃ、精神が持たないよ」


 門番レックスは、家庭に子供がいる仕事仲間を探して、ココを押し付けようと試みるも、その姿が良く似合うだの、将来のための予行演習だの、からかわれるだけに終わった。


 レックスの元気がどんどんなくなってゆく様子に、今までずっとはしゃいでいたココが気が付いた。


「ねえレックス、大丈夫?」


「うん……お嬢ちゃんも疲れたよね。もうすぐ、預かってくれる場所があるから、そこで何か飲んで休もうか」


「ここは、どういうところなの?」


「ここは駐屯場でね、柵の外から来た人間を、いろいろ調べる場所だよ。本当は誰も入れちゃダメなんだけど、櫓で見張ってる仲間が、お嬢ちゃんがたった一人で走ってくるところを見かねて、中で保護しないかって話になったんだ」


 一気に難しいことを言われて、ココは混乱したけれど、レックスが怖い人でないことだけはわかった。だから、何も問題ない。


「レックスとおんなじギラギラ着てる人、いっぱいいるねー」


「うん」


「ココのもあるの?」


「え? ないよ」


「ココも着てみたいな~」


「えー? ……どうしよう」


 レックスは少し悩んだ後、被っていた兜を脱いで、ココにかぶせてあげた。前を見るための穴に、目玉の位置が合わないココだったが、奇声を響かせるほど喜んだ。


「子供って、元気だなぁ。兵役の意味も知らないでさ」


 素顔のレックスは、高い鼻先を櫓へ向けた。二人の様子を双眼鏡で観察していた同胞が、片手を振っているのが見えた。


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ココはここにいる 小花ソルト(一話四千字内を標準に執筆中) @kohana-sugar

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