第6話 やはり俺はチートらしい

俺は地下への階段を降りている。

このエンジーク街のギルド登録の際に実技試験があるとの事で地下の訓練所へ向かっていた。

アギルとかいうあのクソ野郎をぶっ飛ばすために。


俺は珍しく怒っている。俺は人の夢や希望を嘲笑うやつが大嫌いなんだ。

綺麗事と言われても俺はそれでいい。


そういえばステータスウィンドウの攻撃魔力欄に集中したら魔力量とか色々出てきたけど、他のはどうなんだろう。


奴と戦う前に見ておこうか。

ステータスウィンドウを頭の中で開く。

HPに集中する。何も起こらない。

攻撃力に集中する。

すばやさ…600000


すばやさもあるのか。この数字…本気で踏み込んだりしたらやばそうだな。


すばやさの項目があることを知れただけでもよかった。

ステータスを閉じる。


さて。地下の訓練所に着いた。

アギルは訓練所の真ん中で木剣を持ち仁王立ちをしていた。


アギル:「やっと来たか。怖くなって逃げたのかと思ったぞ。」


圭人:「何言ってんだ。あんたが地下におりて5分もせずに俺も降りたんだ。5分も待てないなんてそれだけ気持ちに余裕が無いんだな。」


敢えて煽ってやる。


アギル:「こいつ…逃げたきゃ今のうちだぞ。今ならまだ見逃してやる。このままやるなら…ぶちのめしてやる。」


圭人:「たかが実技試験で何熱くなってんだ?とりあえず戯言はいいから早く始めよう。」


アギル:「後悔しても知らねえぞ。」


階段からもう1人降りてきた。

ミアだ。


ミア:「よっ、ケイト!実技試験の試験官を頼まれてな。」


アギル:「ミアじゃねえか。ほう。こいつと知り合いか。」


ミア:「アギル。油断するなよ。新人とは思えない程こいつはバケモンだ。」


アギル:「ミアにそこまで言わせるたぁ、おそらくまともな試験官なら確実に合格だろうなあ。

だが俺は違うぜ。ミアがそこまで言うくらいだ。俺も本気でやらせてもらう。」


ミア:「おい。お前の本気は人が死ぬ。絶対に本気は出さないでくれ。」


アギル:「チッ、クソが。」


ミア:「ではこれより、実技試験を開始する。

両者見合って。………始め!」


アギル:「おらあ!!」


アギルがいきなり仕掛けてくる。

結構速いな。でもなぜだ。追える。


ガンッッ!!!

木剣同士がぶつかり合う。


アギル:「ほう、この1発を止めるたぁいいねぇ!だがこれなら!……なにっ!!」


急にアギルの剣が重くなる。しかし少し力を入れただけで止められる。


アギル:「なぜだ、なぜ動かねえ!!」


圭人:「さあな。」


アギルの剣を受け流し、左足で腹に蹴りを入れた。


アギル:「ぐああ!!」


アギルが壁まで飛ばされる。


アギル:「おいおい、こいつぁ本当に新人か。マジで本気出さねえと勝てる気がしねえ…」


アギル:「スキル。身体強化3倍重ね。筋力増強。防御力増強。」


ミア:「っおい!本気は出すなって…まずい…ケイトが…」


アギル:「俺を本気にさせたことを後悔するといい。」


そういいアギルは先程よりも速い速度で間合いを詰めてくる。

だがまだ余裕で追える。


アギル:「これならどうだ!」

ガーンッッ!!


圭人:「これで本気か?」


アギル:「……!!なぜだ!なぜ止められる!これを止められたのはミアとSランク冒険者くらいだぞ…!!」


圭人:「そろそろ俺のターンも貰うよ。」

そういって木剣ごとアギルを吹っ飛ばす。


アギル:「……っ!!なんだコイツの馬鹿力は…」


圭人:「なるべく殺さないように制御して…

火属性魔法 ファイアストーム!」


アギルの周りに火柱が立つ。


アギル:「うわああああ!!こいつ、魔法も桁違い…か…」


そういってアギルはその場に倒れた。

気を失ったようだ。


ミア:「ケ、ケイト…お前………っ…勝者!ケイト!」


そういってミアは俺に駆け寄り、抱きしめた。


ミア:「ケイトッ!!よかった。アギルが本気を出した時は私は…お前が死んでしまうかと…」


ミアが泣き出す。


ミア:「よかった…ほんとに良かった…。」


こんな時世の男性はどうするのだろうか。

俺はぎこちない動きでミアを抱きしめ、背中をさすってやる。


5分ほどその状態が続き、ミアは落ち着いたようだ。


ミア:「す、すまんケイト…」


泣いたからだろうか、顔が赤くなっているように見える。


圭人:「気にしないで。俺はあのくらいじゃ死なない…と思う。正直勝てる自信はあったからね。」


ミア:「その自信はどこから来るのか…しかし勝てる自信があったにしろ、私ですらギリギリの戦いになるAランク冒険者のアギルをあそこまで一方的に呆気なくを倒すとは…」


圭人:「アギルは攻撃こそ早かったし、力も強かった。だけど頭に血が上って攻撃が単調になってたからね…初めての対人だったけど難なく対処出来たよ。」


ミア:「確かに単調になってはいたが…まずあれを追えるだけの動体視力…相当実践を積まないと得られないと思うのだが…」


ミア:「あー、もう!考えても無駄だな!とりあえず実技試験でアギルが本気を出してしまったことは上に報告しておく。相手がケイトじゃなければ確実に死んでいたからな。」


ミア:「それと、アギルを倒したこともちゃんと報告しておくぞ。既にSランク相当の力を持っている。ともな。それじゃっ。」


圭人:「は?え?おい!Sランクはまだやめてくれー!!俺はギルドで稼いでのんびり暮らして行ければそれで十分なのに…」


正直Sランクになると色々としがらみも多いだろう。のんびり暮らすなんて夢のまた夢になってしまう…。


もうミアは行ってしまった。

俺のスローライフは儚くも崩れ去ったような気がした。


圭人:「さて、正直嫌だけどアイツをこのまま置いておくのもな…運んでやるか…」


圭人はアギルを担ぎ上げ、受付へと戻った。


受付:「わっ!ほんとにアギルさん倒しちゃったんですね…しかもケイトさん自身は無傷で…」


圭人:「ああ、攻撃が単調になってたからな。」


受付:「アギルさんの処分はギルド長にお任せするとして…ケイトさん、ギルドで1時間ほどお待ちいただくことは可能ですか?」


圭人:「1時間も?どうしてだ?」


受付:「ケイトさんは確実に合格です。しかしAランクでしかも本気のアギルさんを無傷で倒したとなっては、一番下のGランクからのスタートとは

ならないと思います。」


受付:「本来なら冒険者としてやっていけそうな人材はすぐに合格の知らせが来るのですが、今はまだ来ていません。恐らく、上でギルド長が悩んでいらっしゃるのでしょう。」


圭人:「なるほど、事情は分かった。しかし1時間か…宿のことも考えなければいけないし…そうだ、1時間の間に今俺が持っている物や素材を換金したいのだが…できないか。」


受付:「そうですね…本来ならギルドに登録がなされてから素材の買取は受け付けています。しかしケイトさんの腕では確実に合格でしょう。一応、ギルド長に確認を取るので少しお待ちください!」


圭人:「わかった。」


そういって階段を使いダッシュで上へと上がって行った。

ギルド長とやらは上にいるらしい。

5分も経たずに戻ってきた。


受付:「はぁ…はぁ…確認…取れました…はぁ…はぁ…。」


圭人:「焦らなくていいから!呼吸を整えてから喋ってくれ!」


受付は頷き、ゆっくりと深呼吸をして呼吸を整える。


受付:「ギルド長への確認取れました。素材の換金はやはり大丈夫だそうです。」


圭人:「そうか、ありがとう。素材の買取に当たって1つだけ、頼みがある。耳を貸してくれ。」


受付:「なんでしょう。高く買取ってくれとかは無理ですよ?」


といい耳を向けてくる。


圭人:「違う違う。(小声)実は俺はアイテムボックス所持者で、人目につかない所で素材を出したいんだ。」


受付:「えぇ!!!あっ…(小声)わ、分かりました。アイテムボックスを持っているとなると私の一存では決めかねますので、今一度ギルド長に確認を取らせていただきます。」


圭人:「わかった、そうしてくれ。」


受付:「はっはい!では!行ってまいります!」


明らかに興奮している。やはりアイテムボックスは特別なようだ。


今度は10分ほどで戻ってきた。

そして深呼吸をして話し始める。


受付:「少しこちらへ来て頂けますか。」

そう言われ、カウンターの裏へ案内された。

そこには個室があった。ここはおそらく貴族やお偉いさんと話すような場所だろう。


受付:「座って話をしましょう。」


そういって高そうなソファーに腰掛ける。

俺も受付の女性の対面に座る。


受付:「わざわざご足労いただきありがとうございます。あそこでは人の目もあり話しずらいと思い移動して頂きました。

先程、ギルド長に確認を取りましたところ、アイテムボックス所持者となると買取カウンターで受付をすると誰かの目に止まってしまい、噂となってしまう可能性があります。」


受付:「噂が広まってしまうといずれ貴族や王都の目に止まってしまうでしょう。ギルドとしては優秀な人材はギルドに置いておきたい。そう仰っていました。」


圭人:「俺も貴族や国の為になんぞ働きたくはない。できる限り目立たずゆっくりと暮らしたいんだ。」


受付:「ケイトさんの方から先にその言葉を聞けてよかった。単刀直入に言います。本日より、受付こと私。リーズレットがケイトさん。あなた専属の受付兼買取を担当させて頂きます。」


圭人:「専属!?……確かにその方が安全ではあるが…その、リーズレット…は大丈夫なのか?休みたい時とかあるだろ。」


リーズレット:「大丈夫です!私としても新人ながらAランク冒険者を無傷で倒せるような方に専属で付けるなんて幸せなことなので!」


圭人:「そうか、リーズレットがいいならいいんだ。しかし俺もそう毎日は働きたくはない。リーズレットの希望があれば言ってくれ。その日は俺も休む。」


リーズレット:「そ、そんな。気を使って頂けて光栄です。冒険者をやってる方でこんなに優しい方は極わずかですから、私運がとてもいいですねっ!」


とても嬉しそうで、無邪気な笑顔だ。


リーズレット:「では!!私のケイトさんの専属として最初の仕事です!素材を見せてください!」


圭人:「ああ、アイテムボックス。」


ゴブリンの耳×20、ブラックウルフの毛皮×20

ブラッディタイガーの牙×3 キラーツリーの枝×50

毒消し草×230、薬草×315 生命の花×40 マンドラゴラ×150


全て出した。マンドラゴラだけは出した瞬間叫び声をあげないか不安だったが大丈夫なようだ。


リーズレット:「……………」


圭人:「リーズレット…?おーい、リーズレット〜。」


リーズレット:「はっ!!す、すみません!あまりの量に…驚いてしまって…まさか冒険者になる前からこれ程素材を持っているなんて…」


圭人:「今はとにかく金がないからな、ここに来る途中でできる限り金になりそうなものを集めたり狩ったりした!」


リーズレット:「そ、それにしたって多すぎますよ!しかも…Cランクモンスターのキラーツリーの素材に…Bランクモンスターのブラッディタイガーの牙まで…

しかもしかも!滅多に手に入らないエリクサーの素材の生命の花を40個も。そして万能薬の素材のマンドラゴラに至っては………150個!?ど、どうなってるんですかあ……」


俺からしたらその数える早さの方が驚きなんだが…


リーズレット:「ケイトさん!恐らくですがこれを全て買取するのは明日のお昼頃まではかかると思います。一旦キラーツリーの枝50個とブラッディタイガーの牙のみこの場で買い取らせて頂きます。他のアイテムはこのまま預かり、明日買い取りをさせてください。」


圭人:「わかった。それで頼むよ。」


あれ、今更だけど俺この世界の通貨…知らないぞ。


受付:「キラーツリーの枝。これが1個あたりの現在の相場が2万ペト。これが50本で100万ペトです。

ブラッディタイガーの牙。これの現在の相場が…40万ペト。3個で120万ペトですね。」


圭人:「身の上話をするようで申し訳ないが、俺は今記憶喪失らしい。通貨の知識がなくて…教えて貰えると助かる。」


リーズレット:「そうですか…記憶が…分かりました!ではお教えします!」


リーズレット:「まずですね、一般の方が1ヶ月に稼ぐ金額が平均して10万ペトです。

そして10万ペトで銅貨1枚。100万ペトで銀貨1枚。

1000万ペトで金貨1枚。1億ペトで白金貨1枚となっております。」


…うん、1日で220万ペト…凄いな、冒険者。


リーズレット:「ではお金用意してくるので少し待ってくださいねっ!あっそうそう宿屋の金額ですが、ここから1番近い宿屋で1泊5000ペトです!」


圭人:「親切にありがとう。とても助かるよ。」


リーズレット:「なんたって私はケイトさんの専属ですからね!!」


そう言ってリーズレッドは席を外す。

10分ほどでリーズレットが戻ってきた。


リーズレット:「では、こちらが買取金額です。買取手数料が少しかかって銀貨2枚と銅貨1枚です!」


圭人:「助かるよ。そしたらまた明日の昼。よろしく頼む。」


リーズレット:「あっケイトさん!まだギルド登録の結果出てないのでもう少しだけ待って下さい!」


圭人:「あっそうだった。」


今日分かったことは1つ。Aランク冒険者に余裕で勝てたり、いきなり素材をあれだけ持ってきたり。

やはり俺はチートらしいな。

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