第4話「家族」

 ゆっくりと歩いて帰って、ベッドに二人で座った。


「んに、う~ぅ……」


 疲れを実感して、私だけ伸びながら寝転んだ。

 一日でこんなに心が揺れた経験はあまりないし、

 新しい世界から絶え間なく流れ込んでくる情報を処理するのも、

 エネルギーが必要。

 特に、可愛さの咀嚼で形而上の顎が筋肉痛。


 窓からは、傾いた日差しが差し込む。


 遅れて、マリンが私の上に被さって、頬をくっつけてきた。

 爽やかだけど柔らかくて、甘い匂いに包まれる。


「お姉ちゃん、疲れた?」

「まぁね、今日だけで色々あったから」

「大丈夫?」

「うん。マリンの方こそ、本当にいいの?

 あっちに戻りたくないの?」

「本当は、とても、戻りたい。

 でもそしたら、お姉ちゃんやみんなの気持ちを台無しにしちゃう。

 お父さんもお母さんも、自分だけじゃなく誰かの事も考えられるように

 なりなさいって、いつも言ってた」

「家族と会いたいという願いより優先しろって意味じゃないと思うけどなぁ」

「それでも、もうみんなやお姉ちゃんの事も好きだし、信じられる。

 あっちに戻りたいのと同じくらい、ここにもいたい」

「それは、嬉しいけど……」


 この歳で、こんな状況で、客観性を捨てず、ここまで理性的に考えられるなんて。

 不気味なほど思慮深い。生きていたら、きっと大事を成してただろうに。

 なんでこんな子が命を奪われなきゃいけないのか。


「だから……ずずっ……僕は、ここで……ゔぇぅ……」


 私の胸に顔をうずめて、身体の震えを抑えこんでいる。

 その逞しい理性でさえも、心を御すのは難しい。


「……選んでくれて、ありがとう。

 貴女あなたの誠意と愛に、私も全力で応えるから。

 前世に負けないくらい、絶対に、幸せにするから」

「うん……ぐず、うん……」

「戻れないならさ、せめて、何かの形で残すとかどうかな」

「んん?」

「私、ちょっと絵が描けるの。ちょっと待ってて」


 どっかの引き出しに文房具入ってないかなぁ……


 ……鉛筆と消しゴムと紙は見つけた。


 どうせならカラーにしたいよね。

 色鉛筆、店で買ってこようかな。

 ついでに村の土地勘も磨けるし。


「鉛筆と紙はあったけど、色が塗れないから

 色鉛筆買ってくるね」

「うん。いってらっしゃい……」


 家を出て、遠目で人が集まってるところに行ってみる。


「あの~すみません、色鉛筆ってどこで買えますかねぇ」


 数人の可愛い子ちゃん達に話しかける。

 パステルレッドのロング、イエローのポニーテール、

 ライトグリーンのサイドテールの子達が私に応えてくれた。


「あっパールさんだ。こんばんはぁ」

「色鉛筆なら、ローズさんの店がいいんじゃない?」

「そうだね、あそこなら他にも色々な画材があるし。

 あっちに行って、カラフルな看板を探せばいいよ」


「あ、ありがとうございます……!」


 てなわけで、教えてくれた方に走っていく。


「(近くで見ると、もっと可愛いなぁ)」

「(なんて可愛い声……もう少し聞きたかった)」

「(走る後ろ姿も可愛い……み、みえ)」


 あの子達が言ってたカラフルな看板を見つけた。

 「ローズステーショナリー&ドローイング」って書いてる。

 ……あれ、なんで私こんなすらすら読めるの?

 よく見たら全く知らない文字なのに。

 この肉体に、フィグ人としての基礎知識が既に記憶されてる?

 まぁ、勉強の手間が省けるからありがたいけど……


「すみません、色鉛筆ってあります?」

「おや、先の集会ぶりだな、パールさん。

 色鉛筆なら、そこらへん」


 入店すると、名前通りバラみたいに鮮やかで、

 ウェーブのかかった赤髪の子が迎えてくれた。

 なんか、強かなオーラが滲み出てる。

 経験不足により相変わらず性別は分からない。


 わぁ、色々ある。

 三十六色から、三百色まで……

 うーん、マリンにとってすごく大事な思い出の記録になるだろうから、

 やっぱり道具も一番いいのにしようかな。

 ……といっても、そこまで色鉛筆使いこなせるわけじゃないんだけど。

 私、デジタル絵師だったし。アナログは数回やったかなくらい。

 でもまぁ、記念になるだろうから、奮発してバチはあたらんだろ。


 三百色のでかいやつを選んだ。


「じゃあ、これで」

「……八千九百八十マルスだな」

「あっ」


 やばい。私、無一文だったわ。

 てか、通貨あるんだねここ。

 ど、どうしよう。感覚的に日本円と同じくらいっぽいけど、

 こんな額を村人一日目が借りたりツケたりするのは流石に……


「ごめんなさい、来たばかりで、お金、持ってなくて……

 あ、そうだ、この際、私の身体で払うってのはぁ……」


 なぁんて言ってみたり……


「あ、そっちか?分かった、後で都合が出来たら「決済」しよう」

「…………え?」


 え、そんな、笑いも引きもしない?

 そんな業務対応をせざるを得ないほどつまらなかった?

 どうしよう、めちゃめちゃ気まずい……


「ご、ごめんなさい、出直してきます……」

「出直す?身体で払うとさっき言っただろう?」

「や、それは、冗談っていうかぁ……」

「新参だからって遠慮しなくていい。

 ちょうど新しい子と「交流」したかったんだ。

 常連達の「身体」はもうほぼ知り尽くしてたからな」

「……うぇ?」


 え、この人、本気?

 マジでこれが決済として成り立つんだ?

 まさか、物の売買ですらこういうのが絡んでくるなんて。


「あ、えっと、その!きゃ、キャンセルします!

 あ、あなたとあれこれするのが嫌ってわけじゃないですよ!

 そういうのは、もっとここで過ごしてから……」

「そうか、残念だな……

 そうだ、別の案を思いついたんだが、これはどうだ?」

「?」

「……コーラルちゃんの裸の絵を、頼む。

 線画前の下書きまででいい」

「!?!?!?」


 え!?この人こんな堂々とナマモノを私に描けと!?


「こんな本格的な画材を選ぶということは、腕に覚えがあるのだろう?」

「いや、わ、私を最初に助けてくれた子を題材にするなんて」

「……?まるでこれから極悪非道を働くかのような顔だな?

 貴女のいた世界とやらについては知らないが、

 こちらでは皆が皆を少なからずやらしい目で見てるし、そう見られたいんだ。

 ただ、貴女の目に映った彼女を描いてみてほしい。

 本人もきっと喜ぶぞ?

 ほら、この鉛筆セットとスケッチブックもサービスしよう。

 描いてくれるか?」

「う、うぅ……」


 ご、ごめんなさい、コーラルちゃん……

 素寒貧な私を許して……


 罪悪感に苛まれながらも、筆を取った手は恐ろしくスムーズに動いた。

 そして私の想像を基に、コーラルちゃんの全てが丸見えの、

 あられもない姿がしっかりと描かれた線画が完成した。


 きらきらした笑顔で、手を振っている軽やかなポーズ。

 我ながら、可愛さや肉感がよく表現されていると思う。


「……」


 私の絵を舐め回すように見続けている。


「お、お気に召さなかったでしょうか」

「パールさん、本人に見せてもらったのか?」

「え、そんな、まさか!今日あったばかりなのに見れるわけ……」

「常連としてコーラルちゃんの「身体」はよく知っているのだが、

 その知識を踏まえても、本物とほとんど違いがない……

 要するに、とてもよく描けている!

 普段の姿だけでこれほど説得力ある想像をできるとは……

 何年……いや、何十年描いてきた?」


 なんか、すごい気迫で色々称賛された。


「あぁ、私は、とんでもない客と出逢ってしまった!

 なぁ、いくらで線画から着彩までできる?言い値でいい」

「え?うーん、三万?」

「その程度でいいのかぁ!?」

「い、いや、依頼とか受けるの初めてなんで、

 とりあえず、初回価格という事で」

「……わかった。そういう事なら、甘えさせてもらおう。

 納品はいつでもいいから、まずは貴女の用事を済ませるといい」

「あ、ありがとうございます……」


 なんかすごい買い物の仕方しちゃったけど、

 とりあえずこれでマリンの思い出を作れる。

 コーラルちゃんには後で謝ろう。


 家に戻って、買ってきた画材達をテーブルに広げた。


「なんか思ったより多い」

「店主さんにサービスしてもらったんだ。

 じゃあ、描いてこっか。

 貴方とご家族はどんな感じだったか教えて?」


 まずデザインを決めるために、

 私の描いた素体をベースにマリンの記憶を乗せていった。

 女児以外は同人誌のモブくらいでしか描いたことないから、

 クオリティはお世辞にも良いとは言えない。

 まぁどんな人間かくらいは分かるから、いいか。

 マリンも特に不満はなさそうだし。

 私の力ではこれが限界。


「こんな感じかな?」

「うん。お姉ちゃんすごく上手。

 あっ、お母さんはもうちょっと太ってたかな」

「ちょ、容赦無いねぇ……」


 マリンの前世と家族の姿はほぼできあがったので、

 それを元に家族写真らしい構図で描いていった。

 両親がマリンと実姉に後ろから手を回している感じ。


「だいたい終わったかな」

「……わぁ」

「間違えてるとこあったら言ってね」

「う……ううん、大丈夫、すごく、よく、描けてる……」


 両手でそれが描かれた一ページを大事そうに掴んで、

 力の入った声でマリンが呟いた。


「本当?色を塗った後だと直すの難しくなるから、

 よ~く確かめてほしいな」

「……見つけた」

「お、どこ?何がダメだった?」

「お姉ちゃんがいない」


 ……へ?

 いや、あなたの実姉ならちゃんと……


「どういう事?隣にちゃんと描いたよ?」

「そうじゃなくて……パールお姉ちゃんが、いないの」

「え、な、何言ってるの、貴女の前世の形見なんだから、

 私がいちゃいけないよ」

「でも、今日から家族になった。

 家族の絵なんだから、パールお姉ちゃんも入らないと」

「っ……もう、ほんとに、マリンさぁ……」


 感情を抑えながら、震える手でパールわたしの絵を

 空いている隣に書き加え……あ、私の顔まだ知らないわ。

 先に確認しておこう。


「ねぇ、私の顔ってどんな感じ?」

「……鏡ならあっちの洗面台にあるけど」

「あ、そうなんだ?じゃあ見てくる」


 あ、やば、めっっっちゃ可愛い。

 前世で出逢ってたら即ファンアート枕カバーに薄い本数冊は堅いわ。

 キラキラで青みがかったグレーの瞳やもちもちのほっぺに、

 清楚だけど朗らかな顔立ち、まさに子供、猫の比率。

 完全にナルシシストになっちゃうけどこりゃしゃーないよ。

 だって可愛いんだもん、私。


「……んぅ」


 軽く喜怒哀楽を作ってみただけで、昇天しそうになる。

 VRゲームでいつも女児系アバター使ってたのを思い出す。

 ただデジタルと違って頂点数もシェイプキーも

 シェーダー品質もレンダリング解像度もほぼ無限大だから、

 情報量や自由度が圧倒的に違う。

 あーすご、こんな顔に、こんな顔までできるんだ――


 ……いや、こんなことしてる場合じゃなかったわ。

 さっさと戻ろう。


「なんか、結構時間かかったような」

「ご、ごめん、だいたい覚えたからこのまま描くね」


 じゃあ、お邪魔させてもらいます。


 丁寧に、他の人達から浮かないように、

 私をマリンの隣に描いた。


「これでいい?」

「うん」

「じゃあ、色塗るね」


 やべ、夕方でめっちゃ赤くなってきて、色が見にくい。

 魔法あるんだから、家の照明くらいあるよね?

 あ、あったあった。マリンに押してもらお。


「マリンそこのスイッチつけて」

「わかった」


 てくてく歩いて、マリンが照明をつけてくれた。

 明るさと色はLEDにさして劣らない。

 これなら問題なく着彩できる。


 そして、完成した。


「ほら、できたよ」


 塗り終わった絵をマリンに渡すと、とても見入っていた。

 しばらくして、泣きそうになって、私に抱きついてきた。


「ありがと、おねぇちゃぁ……」

「どういたしまして」

「これで、また、一緒にいられる……」

「うん……」


 そのまま、結構な時間抱きしめあった。


 そうしていると、またマリンのお腹が鳴ったので、

 そろそろ抱擁を解いて、ベッドから立ち上がる。


「夕飯は何にする?」

「なんでもいい」

「一番困るやつじゃん」

「お姉ちゃんなら、なんでも作れるでしょ」

「それは買い被りじゃなぁい?」


 とはいえ、悪い気はしない。

 んじゃ、改めて食材の確認をしよう。


 野菜類と肉類があるのは知ってるとして……

 ん?なんだこれ、ブニブニしてる。

 もしかして、こんにゃく的なやつ?

 だとしたら、あれできるかなぁ。


 調理を終えて、マリンが座るテーブルへ皿を持ってきた。


「はい」

「おぅ……」


 じゃがいも、人参、玉ねぎ、牛肉を醤油とかで似たあの料理。


「肉じゃがだね」


 まぁ、食材と調味料全部の後に「っぽい何か」がつくんだけど。


「いただきます……」


 マリンは、熱さに悶えながらも熱心に食べている。


「もっとゆっくり食べなよぉ」

「だって、美味しぃんだもん」

「それは嬉しいけど、マリンのきれいで可愛いお口がやけどしたら

 お姉ちゃん悲しいよ?」


 私もマリンを見守りながら、それを食べた。

 やっぱり、前世のとは微妙に違う。美味しいけど。

 いつか、余裕ができたら日本文化を少しずつ再現していこう。

 稲やら大豆は探してみて無ければそれっぽい野生種見つけて育ててみる。

 あるいは魔法で品種改良みたいなこともできないかなぁ。


 そんなことを考えたり、

 マリンと他愛もないお話をしながら、食事を終えた。


 ベッドでマリンを抱きながら、胃を休める。


「ねぇ、お姉ちゃん」

「なぁに?」

「お風呂」

「お、おふろ?」


 これはまた、重大なイベントを忘れていた。

 そうだ。家族なのだから、これもある。


「一人で入れたり、しない?」

「いつもお父さんと一緒だった」

「あーそっかぁ……」


 よし、覚悟を決めるときだ。


 脱衣所を探して、二人で入った。

 着替えはクローゼットにあったパジャマっぽいのを適当に。

 にしても、この家すごく準備が行き届いている。

 村の人達がマリンのために全部整えてくれたのかな。


「じゃあ、ほら、脱ご」

「うん」


 ま、マリンあなた、下から脱ぐ派なのね?

 ふ、振り返るのが遅くて、はっきりと、きれいな、一条が……

 いや、家族なんだし、そもそも私女なんだから問題ないはずなのに。

 寧ろ恥ずかしがる方が不自然なんだから、その、毅然と、

 マリンをお世話しないと……!


「う、あああぁっ!」

「お姉ちゃん?」


 あ、だめ、可愛い、尊い、エロい。

 これは、非常に、だめです、過激がすぎましてよ。

 散々妄想して描いて、見てきたはずなのに、

 いざ目の前に在ると、こんなにも眩しいのか。


 あっいつの間にか上も脱いでる。


「お姉ちゃん、一人で脱げないの?」

「ちょ、ちょっとまっ!」


 迫ってくるマリンに圧倒されて、尻もちをついた。

 転んだのもお構いなしに私の服までマリンの手でごっそりと持ってかれた。

 まるで、マリンに襲われて全部剥がされてるみたいで……


「お姉ちゃん、きれい」

「~~!!」

「ほら、こっちも」


 続けてそのお手々でパンツを容赦なくずり下げられた。

 頭が煮えてしまいそう。


「お姉ちゃん、顔すごく赤いよ?」

「や、はぁっ……それ、ふうぅっ……」

「あれ、お姉ちゃん、お漏らし?」

「!?」


 下を見てみると、私の下腹からパンツまで、

 細い光が架かってしまっていた。


「こ、これは汗だから!ほら、入ろ、ね?」

「……?う、うん」


 起き上がって、強引にマリンを浴室まで連れて行く。

 でも、マリンの身体に強く触れてしまうのは同じだから、

 この興奮は更に増してしまう。


 まずは髪を洗うということで、蛇口を捻って、シャワーを出した。

 あ、椅子一個しかないじゃん。


 つまり、私の上に座るしか無い。

 マリンのお父さんもそうしてたらしいので、従うしかない。

 マリンの全体重でその柔らかな背中とお尻を押し付けられる。


「洗って」


 心を必死に抑え込みながら、

 シャンプーを取って……多分これかな?

 それでマリンの頭をゴシゴシしていく。

 しっかりマッサージも加えて、汚れを落としていく。

 ベタつきも特に酷くはないから、

 この一週間入ってないわけじゃなさそう。

 ……誰と一緒に入ったんだろう。


「んん~」


 あ、シャンプーにまぎれてとても強いマリン本来らしき匂いが……

 脳に直接来る……あーすご……


「ほら、流すから目閉じて」

「んん……」


 シャワーを再び開いて、流していく。

 んで、コンディショナーは……無い?

 まぁ、別にガサガサはしてないっていうか、

 不自然なくらい状態は最高レベルだから

 要らないといえば要らないけど……

 ……もしかしてフィグ人の髪って超耐久だったりする?


「じゃあ、身体……洗う、ね……」


 頭でもマリンを濃厚に感じることができてしまっていたが、

 一番の難関はそう、身体。

 だって、視覚情報だけで最高なのが分かってしまうから。

 一歩進んだだけで身も心も嵌ってしまう沼に入りにいくようなもの。


「……早くして」

「う、うん!そうだよね!今からやるから!」


 力を振り絞って、マリンの両肩に手を置いた。

 首周りから初めて肩、上腕、前腕、手まで完了した。

 言うまでもなく、すべすべでもちもち。


「ふーーーーーぅ……」

「じゃあ、次、前」

「は、はいっ!」


 私はここで怖気づいてしまって、胸だけは半端に一回撫でただけで

 終わってしまった。そこから逃げるように執拗にお腹を撫で回した。


「ねぇ、ちゃんとやって」

「や、やってる……よ?」

「上のほう全然じゃん。ほら」

「~~!?!?」


 マリンが両手でそれぞれ私の手を掴んで、自らの胸にぎゅっと押し当てた。


「ま、マリンっ放してっ!」

「なんで?」

「そ、その、だめ、だめだからぁ!」

「何がダメなの?」

「ほ、ホントは私みたいなのがこんな、

 貴女の大事なところをベタベタしちゃいけないの!」

「僕は、お姉ちゃんに触られてるほうが安心するんだけどなぁ」


 急にそんな、都合の良い妄想でしか聞かないようなセリフを……


「それはあれだよ!マリンの身体がそうなってるだけで、

 貴女の本当の気持ちじゃないっていうか!」

「触って欲しいと思ってる僕は、偽物なの?」

「そ、そういうわけじゃっ……」


 マリンが放してくれないのも手伝ってか、

 私の手は繋がっているはずの脳の支配から逃れ

 マリンのそこを大事に味わうように揉んでいる。


「あの時、お姉ちゃんの好き、見れなかったから、

 ちゃんと見せてよ。家族なんだから、隠し事はやだ」

「こ、これは、隠さなきゃ、いけないんだから……」

「それはあっちの世界での話でしょ?

 僕たちはもう違う身体で違う世界にいるんだよ?」

「で、でもぉ」


 マリンが身体を回して、私の方を向いた。

 私の膝上に深く跨って、肩に腕を置いて、

 熱い視線を向けてくる。


「やってみなきゃ分からないって、言ったじゃん。

 僕だって、お姉ちゃんの事知りたい。

 お姉ちゃんの全部、見せてよ」

「あ、あぁぁ……」


 我ながら、よくここまで耐えたと思う。

 本当なら、理性の糸が切れてもおかしくないような瞬間が何度もあった。

 マリンは、前世に怯える私を完膚なきまでに叩きのめしてみせた。

 その時の私がマリンに抱いた感情には感謝とか、尊敬とか、畏怖とかがあった。


 次の瞬間には、堰を切った本能達が、心と身体を埋め尽くしていた。

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