(三)-10
そして男は、アンナの方へと歩みだし、そのまままっすぐに包丁を突き出した。
背の低いアンナには、自分の目線よりもやや上に位置している包丁を交わすのはそう難しくなさそうに見えた。実際に包丁は空を切り、男のうなり声だけが部屋にこだました。
すると男は今度は自分のへその位置で、順手で包丁の柄を握った。そして壁沿いに逃げるアンナを追って歩いてゆく。数歩歩いた所で、男はアンナに追いついていた。
このとき、立ち上がったつぐみが「止めなさい」と言って男の右肩を掴んでいた。
(続く)
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