(三)

 マキが忘れていたことは、アンナがステージ上でトチったことだけではなかった。

 それを思い出したのは、楽屋のドアが勢いよく開いて、その向こう側に、ファンと思われる痩身の男性の姿を見たときだった。

「マキちゃん」

 男性はやや低い声でマキの名を呼んだ。

「今日もステージ良かったよ。でもなんで僕が手を振ったのに、振り返してくれないのさ」

 男性はそう言いながら楽屋に入ってきた。

「僕、ずっとマキちゃん推しだったのに。デビューしたときからずっと応援してきたんだよ。ファンレターも毎回出していたんだよ。読んでくれたでしょ」


(続く)

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