第6話 人界に生きる悪魔
「小角さん。今日はどうされたんですか?」
「ああ、ウチの生徒がですね。少し向こうの通りでパパ活してたんですよ。いわゆる立ちんぼです。それ、止めさせようとして注意してたら元締めのお兄さんに囲まれまして……」
つまり、小角は教師らしい。しかし嘘臭い。
そもそも、コイツが学校の先生だとか信じる馬鹿がこの世にいるのか?
「それは災難でしたね、小角さん。ああそうそう、例の件です。来週月曜からとなりましたので、よろしくお願いします」
「おお、それはよかった。彼女が早く学校に馴染めるよう、全力で支援させていただきます」
「頼もしい」
「ええ。僕にお任せください」
自信満々な小角である。そして、話の内容からこの小角が学校教師だと確定した。世には全く信じられない現実というものもあるのだと思い知らされたのだ。
「ああ、マダム・エリーナ。今日はここで失礼します。今夜のお礼はまた後程」
「ええ、お気をつけて」
小角はタクシーを拾って乗り込み、そのまま走り去っていった。
「マダム……あのロン毛ですが、本当に教師なのですか?」
「そうですね。聖アトロポス女学院の教師ですね」
アトロポス……ギリシャ神話の女神だったと記憶しているが、その名を冠した学園が日本にあったとは驚いてしまう。キリスト教とは別系統の宗教だろうが、神に関連する学校なんて私には関係ないに決まっている。
「あらら? リリィさん?」
「何でしょうか」
「まさか、自分は関係ないって、思っていませんか?」
「当然です。私は関係ありません。あのロン毛も聖アトロポス学園もです。そもそも、学校なんて無縁ですから」
「それがね。違うの」
「何が違うんですか?」
「来週からですが、リリィさんも学校に通っていただきます」
「え? 聞いてませんが?」
「あら。話してなかったかしら。
いや、咲苗を支える話は聞いていたが……私が学校に通うだと?!
「マダム。それはちょっと無理なのでは? 私は見ての通り小学生体形ですよ」
「大丈夫。ちゃんと飛び級してるって説明してありますし、彼女には心の支えと実効的なボディーガードが必要です」
何か無理やり捻じ込まれている気がするのだが、咲苗のボディーガードなら仕方がない……と思いたい。
「深く考えない。きっと楽しいわ」
「わかりました」
私とマダムはそのまま夜の街を歩いている。あと一時間くらいは歩く事になるだろう。
「この辺り。特に悪想念が強いわね」
「欲望が渦巻く魔の都ですから」
「そうね。私たちは食べ物に困らないし」
「確かにそうですが、これはやはり、私たちを野放しにしている神の思う壺なのでは?」
「そうかもしれませんわね。でも、両者の利害は一致しているから問題はないと思いますよ」
「利害が一致ですか」
「そうね。今夜はリリィちゃんも私も、結構な悪者をやっつけたじゃない。神様も喜んでいるわよ」
「喜んでる?」
「そうです」
力強く肯定するマダムだった。
歩きながらマダムが話した内容は驚嘆すべき内容だった。マダムが相手をした仁科はコロナウィルスの変異株対応ワクチンを日本政府に売り込む仕事をしていたらしい。しかし、その変異株を自社で製造して都市部に撒いて感染を拡大させ、同時にワクチンも製造していたのだ。自作自演、マッチポンプというやつだ。そもそも、パンデミックの元となったコロナウイルスを改造して強力な伝染力を持たせたのが同社で、その為の研究が米国内では違法だったため、中国国内の研究所で行っていたのだという。それが漏れて世界中に広がったのだ。
「もうね、仁科の会社は全て真っ黒。本当に真っ黒なの。これから先も少しづつ頂きましょうね。リリィさんも一緒に」
「それは美味しそうですね。御一緒させていただきます」
「深い深い闇。真っ黒な奈落の底。そんな人間が沢山いるから」
「神も大変ですか?」
「そうね。困ってるんじゃないかしら」
クスリと笑うマダム・エリーナ。しかし、神の心配など全くしていない。むしろ、この混とんとした状況を歓迎しているのは間違いない。
私たちは悪魔と呼ばれる人外の存在。しかし神は、私たちの存在を許している。それは、神に背く背徳の精神を好んで食するからだという。
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