第4話 食事の時間

 獣のような唸り声を上げて腰を振っていた海乱鬼は、ブルブルと痙攣しつつ私の上で果てた。はあはあと荒い息を吐きながら、私に覆いかぶさった。こいつ……重い……。


 やっと終わったと一息つく。海乱鬼との性行為は二度と御免だと思っていたのだが、奴は私の首筋をべろべろと舐めまわし始めた。そして私の唇に吸い付き口腔内に舌を突っ込んできた。そのまましばらく乱暴なキスを続けた後、海乱鬼はニヤリと笑いながら私に囁いた。


「リリィちゃん。凄く良かったよ。もう一回、いい?」


 あれだけ乱暴なセックスを強要し更にヤルのか。あきれてものが言えない。もう、いい加減にしてほしい。痛いだけのセックスにはウンザリするだけだ。


 もういいだろう。このクソ男の悪行三昧は十二分に把握した。二度と出会えないであろう上物の味わいを存分に堪能してやる。


 私の心は期待に震え、かすかに笑みがこぼれているのを隠せない。


「貴様は自由に私を貪った。今度は私が美味しく頂く」

「え?」


 海乱鬼は私の態度が一変した事に驚いている。ただし、股間の一物は隆々と猛ったままだ。


 私は大きく息を吸い込んでからニヤリと笑う。唇の隙間からにょきっと犬歯が伸びてきた。


「リリィちゃん……何の趣向かな? 僕はマゾ役が苦手なんだけど」

「別に演じなくてもいい。私が一方的にヤルから」

「え? 何を言ってるの?」

「お前を喰うんだよ」


 驚嘆して悲鳴をあげそうになっている海乱鬼の鼻を踵で蹴り飛ばした。海乱鬼は鼻を押さえて床に転がり、その激痛にうめき声を上げていた。


 私は奴の両手を掴み、鼻血が噴き出している顔をべろべろと舐めた。ツンとくる血の味が口腔内に広がる。私の舌は、先が二つに割れていて20センチほどの長さがあるのだが、その舌を見つめる奴はの表情は引きつっていた。


 私は海乱鬼を突き飛ばして仰向けに寝かせ、まだ猛り狂っている奴の一物を咥え思い切り噛んだ。自慢の犬歯を三度突き立てた。


「止めてくれ。痛い。痛い……」


 自慢のアレが激しくい痛むのだろう。目に涙をためた海乱鬼は呻きながら呟いたのだが知った事か。こいつはか弱い未成年者を何度も犯して泣かせてきたのだ。


 私は真の姿を見せることにした。体中から白銀の剛毛が生え始める。筋肉は膨れ上がり骨格もまた拡大する。その時、かろうじて体にまとっていた衣類は千切れ飛んだ。私の、小学生程度の身長は2メートル近くになり、額からは一本の角が血と肉を絡めながらグリグリと伸びた。


「化け物……だ……」


 海乱鬼は力なく呟きながら這って逃げようとする。しかし、逃がしはしない。海乱鬼の脚を掴んで引き寄せ、奴の頭髪を掴んで立たせてやる。それでも頭一つ私の方が高い。


「あ……悪魔なのか?」

「ああ、悪魔だ」

「僕を……食べるのか?」

「そう。食べるんだよ。私はお前のような、極悪非道で真っ黒な心が大好きなんだ」

「止めて……食べないで……」


 奴は涙を流して嘆願してくるのだが、もちろん無視する。

 私は口を大きく開き、奴の頭を丸ごと咥え込んだ。そして、奴の真っ黒な心、神に背く背徳の精神をじゅるじゅるとすする。


 ああ、おいしい。

 この甘美で濃厚な味わいは他の何物にも勝るだろう。他のどんな高級食材とも比較になるまい。


 私は奴の黒い心を吸いつくし、その腐った頭をぷいっと吐き出した。


 床に倒れた海乱鬼は痙攣しならが泡を吹いていた。その時、奴は赤ん坊のような無垢な笑みを浮かべていた。


 さて、マダムの方はどうなっているのか。人の姿へと戻った私は、裸のまま奥の寝室を覗いてみた。


 人の姿ままのマダムは仰向けに寝かせている仁科の上に跨り、激しく腰を振っていた。


「マダム……最高だ。また、また……ああああ」


 マダムと両手を繋いだままの仁科が果てたようだ。細かく体を震わせながら、荒い息を吐いていた。


「ああ……マダム……凄く良かったよ」

「もう一回、出来るでしょ?」


 マダムが怪しい笑みを浮かべるが、仁科は首を横に振る。


「無理です。さっきので5回目……本当に無理です」


 あの時間で5回も……マダムの性的な魅力に溺れた者はそうなると聞いていたが、それこそ凄まじい性搾取に違いない。仁科は疲労困憊しており、すでに青黒い顔色となっていた。


「そう……残念ね。じゃあ私も、貴方を頂こうかしら」

「まだ……ヤルんですか?」

「違うわ。仁科さんを美味しく頂くんですよ」


 仁科は意味が分からないようでしきりに瞬きをしていた。しかし、マダムの体に起きた変化を目の当たりにして大きく口を開いた。


 マダムもまた、私と同じように悪魔の体へと変化し始めていた。


「マダム……それは……」

「黙ってなさい」


 マダムは身長が2メートル半の悪魔へと変化した。頭には二本の角、そして茶色の剛毛に覆われた逞しい体と、背に開いた四枚の黒い羽根が特徴だ。


「うぐご……あが……」


 言葉にならないうめき声を上げている仁科を捕まえたマダムは、大口をあけて彼の頭にかぶりついた。そして恍惚とした表情で奴の精神を啜っていた。


 仁科の頭を吐き出したマダムは元の姿へと戻っていく。そして寝室の入り口に立っていた私を見つけ話しかけて来た。


「済んだの? 乱暴にされたようだけど、大丈夫?」

「大丈夫です。かなりの上物だったので、大変美味しく頂きました。これで一ヶ月は何も食べなくても大丈夫です」

「よかった。私の方もたっぷりと頂きました。これ、若返るわね」


 私は人の姿へと戻っていたマダムを見つめるのだが、特に若くなった印象はない。40代熟女のままだ。


「服、破かれちゃったね。着替えはカバンに入れてあるから」

「はい」

 

 私はリビングへと戻り、学生カバンの中をまさぐった。中には下着一式と靴下、Tシャツ、短パンとグレーのパーカーが入っていた。マダムは海乱鬼が服を破くとあらかじめ予想していたようだ。


 地味なカジュアルだが、おしゃれ嫌いな私にはぴったりな服装かもしれない。

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