第12話 私の愛しい推しキャラ様!

「さて、と」


 翌日。朝食を済ませてから一人で部屋にこもるのは、実はいつものこと。

 でも、今日からは違う!


「初日は、攻略対象キャラの自己紹介で終わった。ここまでは、ゲーム通り」


 こっからは、プルプラの選択次第で色々変わっていくから。注意深く観察しておかないといけないところもあるけれど。

 でも、その前に。


「二日目の朝食後に、庭園での散歩に向かった主人公が、新キャラに遭遇そうぐうする」


 自分が過去に書いたメモに目を通しながら、きっと今頃そのシーンだろうと思えば。当然のように流れてくる、あの素敵ボイス。

 そう。何を隠そう。

 その、新キャラこそが! 私の愛しいしキャラ様! なのですよ!

 なので、脳内再生余裕です。


「はぁ~……。早く会いたいなぁ」


 攻略キャラクターたちは、基本的に派手な色をしているけれど。私の推しキャラは、茶色い髪と瞳という地味仕様。

 でもでも! 顔はめっっっちゃくちゃいいの!!

 これで攻略対象じゃないとか、冗談でしょ!? っていうくらいに!

 そして唯一のメガネキャラ!


「声も優しい感じで、本当に素敵なのに」


 それでどうして、攻略対象にしてくれなかったの……!

 正直、最初は彼も攻略対象キャラなんだと思ってた。それくらい、最初の出会いのインパクトは半端はんぱなかったのに。

 結局は、隠しキャラでもなんでもなく。

 ただの、お助けキャラでした。


「――って、納得できるかぁ!」


 そう叫んだのも、今はいい思い出。

 でも今の私は、大好きな『キシキミ』の世界に転生していて。しかも通称悪役王女様。

 これがプルプラだったら、ちょっと考えものだったかもしれないけど。私は三人の内の誰かを選ぶ必要は、全くないわけで。

 って、なったら、さぁ?


「会いに行くに決まってるじゃーん♪」


 むしろ、こっからはずーっと自由時間なんだよ?

 そしたら時間が許す限り、何度でも会いに行きたくなるのは当然じゃん?

 って、ことは。

 どうにかして、仲良くなって。


「毎日会いに行くのが不自然じゃなくなれば、推し活もはかどるってものでしょ!」


 そもそも、この世界に生まれておいて会いに行かない、ってこと自体があり得ない。

 ゲームでは話しかけたところで、別のキャラクターの情報しか聞けなかったけど。今の私なら、彼自身のことを色々と聞ける!

 この環境、今使わずしていつ使うの!


「知ってることなんて、名前と職業ぐらいだし」


 年齢も、実は知らない。様々な国の文化を研究している学者で、十八歳の時から世界を旅しているってことだけが、彼について語られることの全て。

 しかもこれ、出会った最初の日の、軽い自己紹介的なものだし。

 この国の王女に対して、自分はよそ者だけど怪しい者じゃないっていう証明をするためだけの会話。

 以後彼について語られることは、一切なく。どのエンディングにたどり着いたとしても、そのあとは名前すら出てこないまま終わった。


 そういう、人物だから。


「普段どこにいるのかも、分からないんだよね」


 だってゲームって、決められた選択肢以外の行動ってできないじゃん?

 で。

 彼に会いに行くためのコマンドは、たった一つだけ。


「なんなのよ、その日の予定の選択画面の『アドバイス』って」


 名前すら出てこない。

 いや、会いに行けばそりゃあ、会話のウィンドウのところに名前は出てくるよ?

 でも、そういうことじゃないじゃん?


「しかもその間だけは時間が進まないって、どういうこと? 時空でも歪(ゆが)んでるの?」


 もしくは、時を止められる能力者なのか。

 現実は、アドバイスなんてちょろっとしてもらって終わりにできるから、なんだろうけど。


「あぁ……。早く会いたいよぉ、ジェンティー」


 私はクッションを抱きしめながら、さてどこから探し始めようかと思案しあんした。





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