第11話 残念だけど
でもそれは同時に、王族としての責務を放棄するということ。
(けど、それは仕方なくない?)
残念だけど。私はもう、この国に見切りをつけているんだから。
むしろ私を切り捨てようとしているのは、国のほう。
だったら別に、私がその後どう生きようと勝手でしょう?
「はぁ~~……」
あの退屈な場所から、ようやく自分の部屋へと戻ってこられたのは。日が沈むよりも、少しだけ早い時間だった。
侍女たちも下がらせて、一人掛けのソファに腰を下ろして。ようやく、自分らしく呼吸ができた気がする。
「つっっっかれたぁ~」
いやもう、本当に。
なにが疲れるって、あの場に居続けなきゃいけないこと。
出しゃばりすぎてもいけないし、かといって気配を消しすぎてもいけないし。
ちょうどいい
「仮にも王女なんだから、一人で放っておくことなんてできないでしょうに」
特に選ばれた三人は、そういう配慮ができるからなおさら。
そのくせ、視線は明らかにプルプラのほうにばかり向けられているわけだから。
出来レースにお邪魔虫を入れる、その神経が信じられない。それとも、私が気づいていないとでも思ってる?
十七年もこの国で生きてきていれば、さすがに理解できるから。プルプラとの差なんて。
「あぁ、それとも。お父様からの、地味な嫌がらせだったのかな?」
そういうことをするような人物ではないと、知っているけれど。正直そう思えてしまうくらいには、あれは精神的に地獄だった。
とはいえ、他国に嫁に出そうとしている娘の
「私、興味ないんだけどな」
この国の、騎士たちに。
確かにそんなことを口にしたことはないけれど、ある程度態度とかで察してくれてないのかな?
それとも、そこまで私に興味ない?
「……ま、建前は必要だからね」
本心がどうであれ。エークエス王国の『銀の騎士』は、王女が自ら選んだ存在であって。誰かが
たとえそこに至るまでに、候補者が絞られていようと。
そして同時に、先に選んだのはあくまでプルプラのほうで。選ばなかったヴァイオレットが、他国の王族に嫁ぐことになった。
そういうシナリオにしたいという、ただそれだけのこと。
「乗ってあげるけどさ」
だったらいっそ、先にこっちにもそれを伝えてくれていれば楽なのに。
こういう理由だから、お前は他国に嫁げ。ただその前に、この茶番に付き合え、ってね。
そうしたら、私は二つ返事で頷いたのに。
だってそれも、王族としての務めでしょ?
「そのあとに国がどうなるかなんて、私は知らない」
無責任だというのであれば、それこそ今まで真実を受け入れようとしてこなかった王族に問題があるわけで。そっちのほうが、よっぽど無責任だ。
しかもそれは、王族だけじゃない。
だって国を運営し存続させていくためには、王族だけじゃ不可能だから。
つまり。この国の歴代の偉い人たちが、全員認めなかったというだけのこと。
「だったらもう、付き合わなくたっていいでしょ」
目に見えないし、実感もないから。きっと魔力持ちを正当化したいがための、出まかせだと。そう思われていた可能性もあるし。
もしくは本当に、プライドの問題なのか。
いずれにせよ、彼らの結論としては魔法の壁なんて必要ない、と。そういうことみたいだし。
「なにより、好かれてないからねー。残る意味、ないよねー」
軽い口調で言ってはいるけれど、よくよく考えてみればこれって結構酷いことなんじゃない?
そもそも誰からも必要とされていない王女様って、かなりキツイ立場だし。
「まぁ、でも」
ゲームは始まってしまったわけだから、もう私にはどうしようもない。
それよりも大切なのは――。
「せっかく『キシキミ』の世界に転生したんだし、推しキャラに会いに行って楽しまなきゃ!」
こんな状況でも、私が絶望していなかったのは。その事実だけが、唯一の救いだったから。
そうじゃなければ、とっくに闇落ちしてるわ! こんな環境!
「さ~って。じゃあ明日から、推しキャラを求めて城内探索開始だ!」
ゲーム内で彼と初めて会う日を考えれば、少なくとも今日の内には王城へと入ってきているはず。
残念ながら、そこに関しては
今の私の格好は、あくまで謁見用。つまり、夕食には相応しくない格好をしているということ。
こういうところ、本当に王族って面倒だなって思うけど。
「とりあえず、それまで少し休もう」
きっとその内、侍女がやってきて。着替えとか化粧直しとか、してくれるはずだから。
それまでの間に、軽く仮眠を取ることにして。
私はそっと、目を閉じたのだった。
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