第10話 最初のムービーでしょ?

 まぁ、おおむね予想通り。

 謁見の間で、二人の王女たちの父親である国王が、玉座ぎょくざに座っていて。

 その前にプルプラとヴァイオレットの二人が、並んでカーテシーをしているシーン。


(これ、最初のムービーでしょ?)


 知ってる知ってる。何度も見たもん。

 で、その玉座の置かれている台の下。わきに並んでいる三人が、攻略対象者。

 ありていに言えば、プルプラのお見合い相手だ。


「プルプラ、ヴァイオレット。お前たちもそろそろ結婚適齢期に入る」


 そして唐突に始まる、国王の説明台詞。

 ちなみに騎士の国らしく、我らがお父様も大変いいガタイをしていらっしゃる。

 髪色も瞳の色も、王族特有の紫だけど。視線の鋭さを見るに、明らかにヴァイオレットはこの人の血を濃く受けすぎた気がするんだよね。

 女性にしては高い身長と、すらっと伸びた手足。ツリ目がちなところなんか、本当にそっくり。


(場所が違えば、物凄くモテたはずなのに)


 実際、国王という立場を抜きにしても、お父様は大変おモテになられたらしい。

 本人じゃなく周りがそう言ってるってことは、きっと本当なんだろう。

 というか、そんな話を父の口から聞いたことは、今まで一度としてない。

 まぁ、つまり。この国の男性ならば間違いなくモテる要素を、ヴァイオレットは受け継いでいるわけだ。


「そこで、ここにいる三人の内から先に伴侶を選んだ者を、国内に残そうと考えている」


 どうでもいいことを考えながら聞いている私は、正直説明を右から左へ聞き流していた。

 というか、聞きすぎてそらんじられる。それくらい、何度も聞いて覚えてるから。

 今さら真剣に聞く必要すら、ない。


「見事『銀の騎士』を選び出し、私を安心させてくれ。そして残ったもう片方には、他国の王族に嫁いでもらう予定でいる。そのつもりでいなさい」


 うん、でしょうね。

 だって本当は、プルプラだけに『銀の騎士』を与えたいんでしょ?

 とはいえ決まりだから、そうはいかないんだけどさ。


(いっそのこと、今すぐにでもヴァイオレットを他国に嫁がせたいんだろうし)


 ちなみに『銀の騎士』とは、王女の伴侶になる人物のことを指す。

 エークエス王国においての最上位の騎士は、国王である父を守っている『金の騎士』と呼ばれる人たちで、こちらは複数人存在する。

 今も、この部屋の中で父の警備をしていられるのは、彼らだけに許された特権。

 常に国王の側にはべり、その身を護るのが役目。


「私からは以上だ。あとは別室を用意しているから、そこを使いなさい」


 それだけ言って、お父様は自分の騎士たちを引き連れて出ていってしまった。

 残された私たちは、言われた通り別室へと案内されて。ここで恒例こうれいのキャラ紹介という名の、自己紹介が始まった。


(ムービーはさっきの場所までで、ここからは普通に背景と立ち絵、みたいになってたんだよね。確か)


 正直、彼らの自己紹介とかどうでもよくって。私は今度こそ、聞き流すことにした。

 そもそも今回の本来の目的は、プルプラと彼らを引き合わせることだから。私は本当に、おまけでしかない。

 さっきだって、お父様は姉妹を呼ぶっていうのに、妹の名前を先に呼んでいたんだから。普通逆でしょ。


(隠す気がなさすぎて、逆に|清々(すがすが)しいわ)


 とはいえ、この三人の中から『銀の騎士』になれるのは、たった一人だけ。

 だからもっと、がっついてくるのかと思いきや。


(意外と、最初は普通なんだよね)


 この辺りが、彼らが選ばれた理由なんだろう。

 次期『金の騎士』である、王太子の騎士は選ばれたあとだから。今残っている称号は、この『銀の騎士』だけのはずなんだけど。


(まぁでも、どの乙女ゲームだって、最初はこんなものだし)


 ただ『キシキミ』に関しては、最初の好感度がかなり高い状態からのスタートになる。

 それもそのはず。だってゲームが始まるよりもずっと前から、プルプラは誰からも好かれているんだから。


(ま、おまけはおまけらしく、脇に徹しましょうかね)


 思っていた以上に会話が盛り上がっている彼らを、横目で見ながら。私はただ、最小限の発言だけに留めることにした。

 ここが現実の世界である以上、私にはプルプラから幸せを奪うつもりは、一切ないからね。





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