第13話 お助けキャラは攻略できないからね!

 学者が行きそうなところといえば、やっぱり図書室?

 でもエークエス王国の王城の図書室は、あんまり広くない。置いてあるのも、戦いに関する書籍ばかり。

 そんなところに学者が通うとは、考えにくい。


「……とはいえ、初日なら考えられなくもないのか」


 主人公との出会いの場面で、確かジェンティーは「昨日こちらの城に到着したばかりなんです」って言ってた。

 となれば、だ。


「まだ図書室の蔵書ぞうしょかたよりは、知らないかもしれない」


 それに今日じゃなくても、図書室には必ず一度は足を運ぶはず。

 だったら、先回りして待ち伏せしてもいいかもしれない。普段はほとんど誰にも使われない場所だし、司書に確認すれば利用者はすぐに分かる。


「私は割と、本をよく読んでるほうだし」


 それに、返す予定の歴史書もある。

 それを図書室に返しにいくついでに、他に面白そうな本がないのか探してみたいって言えば。きっと誰にも怪しまれないし、文句も言われないはず。


「よし、これでいこう」


 分かってる。私がプレイヤーキャラのプルプラじゃないからって、ジェンティーと仲良くなれるとも限らないんだって。

 でも万が一プルプラに生まれていたら、それこそ絶望的だったから。

 だって、お助けキャラは攻略できないからね!


「攻略どころか、仲良くなることすら許されなかっただろうけど」


 選ばれた三人の騎士は、プルプラのお相手候補。私たち二人のというのは、あくまで建前上。

 仕方ないよね! そういう国なんだし!

 でも今は、プルプラに生まれなかったことを本当に感謝してる。


「だってここは、現実の世界」


 決められた選択肢しか存在していないような、ゲームの中じゃなく。自分で自由に、行動を選択できる。

 つまり、ライバルキャラだった私が、お助けキャラと仲良くなることも。不可能じゃ、ない!


「まずは、ちゃんと知り合いになるところから」


 最悪、本当の最初は顔見知り程度でも構わない。よく見かける王女だな、くらいで。

 そこからタイミングを見計らって、こっちから声をかけて。少しずつ仲良くなっていって、いろんな話をして。

 本当に、それだけでいいから。


「そのために私ができることは、なんだってやってみせる……!」


 一人、そう宣言してから。出してきていたメモ帳を、机の引き出しの中にしまい込んで。

 私はそっと、机の上に置いてあるベルに手を伸ばした。

 決して大きな音ではないけれど、よく響くその音を聞きつけて扉から顔を出したのは、今日の担当侍女。


「お呼びでしょうか、ヴァイオレット様」

「もうこれは読み終わってしまったから、図書室に新しい本を探しに行きたいの」

「かしこまりました」


 最低限の用件さえ伝えれば、私の意図を完全に理解した彼女は、歴史書を手に持って。部屋の扉を開けたまま、その場で待機してくれる。

 当然のことだけれど、わざわざ王女本人が本を持ち運びするはずがないから。こうして毎回、私の荷物は誰かが持ってくれる。

 好かれていないとはいえ、さすがに彼女たちはプロフェッショナル。顔にも態度にも出さないし、仕事も完璧にこなしてくれる。

 ただし、それ以上もないけれど。


(ま、別に嫌われてるわけじゃないし。仕事をボイコットとかされるわけでもなければ、別段べつだんいじめられてるわけでもないしね)


 というか、むしろそれをやるとしたら私の側なんだろうけどさ。

 掲示板のノリで悪役って言ってただけで、別にヴァイオレットって意地悪な人じゃないから。そういうことは一切しないけど。


(どっちかっていうと、そういうことを嫌いそうな人物な気がする)


 むやみやたらにコミュニケーションを取ろうともしないけど、仲間外れや意地悪もしない。そういう、イメージ。

 自分がこの国に残らなきゃっていう使命感を抱いていたことを考えれば、結構真面目で責任感も強かったのかも。


(ま、私は降りるんですけどね)


 その役目も、ゲームのライバルキャラも。

 プルプラは好きに選べばいいよ。『銀の騎士』に、私は興味ないし。


(そんなことよりも)


 この扉の先に、果たしてお目当ての人はいるのかどうか。

 考えごとをしながら歩いていれば、いつの間にか図書室の前までたどり着いていた私は。

 どうか、ジェンティーがいますようにと。祈るように、扉が開くのを待った。





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