02
『こないだの件、答え合わせみたいなことやりません?』
電話の向こうのシロさんにそう言われて、一瞬何のことかわからなかった。ただ電話の向こうの声は合成音声じゃなくてちゃんとシロさん本人の声だったので、ああ喉が治ったんだ、と思って安心はした。
『神谷さん、わからないことが多くて消化不良じゃないかと思って。だからわかってることをある程度お教えしておいた方がいいかなと……あ、でも知らなきゃ知らないで別に支障ないと思いますから、必要なければ別に』
「要ります! 答え合わせお願いします!」
電話越しなのに姿勢が前のめりになってしまった……何しろ気になっていたのだ。何を考えても堂々巡りで、モヤモヤした気持ちばかりが募っていた。シロさん自ら答え合わせを提案してくれるなんて、まさに願ったり叶ったりというやつだ。
話が長くなりそうだからということで、後日シロさんの事務所に出向くことになった。
忙しくなる前でよかったと思った。これまでツイていなかったのが嘘みたいに、この数日間で再就職先が決まりつつある。父の知り合いから紹介された会社での面接がかなり好感触で、油断はできないながらも気持ちは明るい。
「シロさん、こういうアフターフォローしてくれるんですね」
『だってやらないと神谷さん、自分で調べに行きそうじゃないですか』
なるほど、言われてみればその通りだ。
指定されたのは木曜日の午後五時だった。例によって電車でシロさんの事務所に向かい、約束の五分前に到着すると、三和土に置かれた靴が思っていたよりも多かった。
そのうち一足はサイズが小さいスニーカーで、きっとお弟子さんだろうと見当がついた。ヒールの低いパンプスもあって、これは明らかに女性ものだ。加賀美春英さんが来ているのかもしれない。確か神社の例祭で忙しいと聞いたけれど、そちらはもう終わったのだろうか。
応接室ではなく、リビングに続くドアが開いて、そこから黒木さんが顔を出した。
「狭いからこっちにお願いします」
「お邪魔します」
リビングダイニングは広々として明るく、勝手にいじったら叱られそうなくらい、きちんと片付いている。ダイニングテーブルとパソコンデスクがくっついて一つの島のようになっており、その周りをパソコンチェアやダイニングチェアなど、寄せ集めたらしい椅子が囲んでいた。
「神谷さん、いらっしゃい。空いてるとこにかけてください」
シロさんは元気そうだけど、左手の指先は包帯でぐるぐる巻きだ。それでもちゃんと手当てを受けた様子ではあるので、ひとまずは安心した。
ガタンと音を立てて、奥のダイニングチェアに座っていたお弟子さんが立ち上がる。
「こないだほとんど紹介できなかったから改めて。彼女、小早川まりあさんです。中学一年で、一応ボクの弟子ということになってます」
まりあさんは私の方にゆらゆらと顔を向け、「よろしくお願いします」とお辞儀をした。私服だろうか、紺色の薄手のブラウスに同系色のスカートを穿いていて、ふわふわした色素の薄い髪によく似合っていた。
まりあさんの隣に、もう一人女性が立っていた。明らかに加賀美さんではなく、私の知らない人物だった。
背の高い、ショートカットの綺麗な女性だ。年齢はたぶんシロさんと同じくらいだろう。こちらを向いた顔の両目は、シロさんのようにぴったりと閉じている。
「こちら、仕事仲間の
シロさんがそう紹介してくれた。女性は「よみごの環
言って、定規を当ててでもいるような、きっちりしたお辞儀をした。
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