03
「環さんはボクの先輩にあたるんですが、顔が広くて人望が厚いので、聞き込みをしてもらってました」
シロさんは環さんについてそう説明してくれた。環さんは「志朗くんは、わたしを買いかぶりすぎです」と言って少し笑った。言葉の端々に、シロさんと似た訛りがある。
「人望が厚いというほどのことはないんですけど、地元にいるとよみご以外の同業者についても、何かと情報が入ってくるものですから」
環さんは涼しい顔でそう付け加えたけれど、色々教えてもらえるということは、やっぱりそれなりに信用のある人なんだろうと思う。見るからに真面目で、ピシッとした印象を受ける。
シロさんはあの日、コンビニのイートインやタクシーの中で、環さんに何度かメールを送っていたらしい。環さんはそれを受けて、情報収集するだけでなく、あのブログ記事を書いた相手にも接触してくれていたそうで、私は知らないところで相当お世話になっていたのだった。
環さんの隣には、加賀美幸二さんもいる。ぱっと見落ち着いている様子で、養生テープでぐるぐる巻きにされたりもしていない。私が部屋に入るとニコッと笑って「どうも」と会釈してくれたので、こちらも会釈を返した。
「神谷実咲です。皆さんにはお世話になりました」
改めて名乗り、深めのお辞儀をした。盛大に寝落ちしたところを見られた人もいるのでちょっと恥ずかしいが、一度ちゃんと名乗っておいた方がいいだろう。黒木さんが空いている椅子を勧めてくれたので、遠慮なく使わせてもらうことにした。
部屋の中を見渡す。シロさんと黒木さん、環さんにまりあさん、そして幸二さん。これで今日集まる予定なのは全員だろうか。なんだかミステリー小説のクライマックスで、探偵が関係者を集めて謎解きを始めるときみたいだ。
「えーと、今ちょうど時間ぴったりかな。では始めましょうか」
シロさんが腕時計の文字盤を触りながら言った。
「どこから話すのがいいかなぁ。色々ややこしいんですよね。まずは環さんから喋ってもらった方がええかなぁ」
「長下部家と、例のブログのことね。じゃあすみません、わたしから。志朗くん、補足があったら適宜お願いします」
環さんがそう言って話し始めた。シロさんもそうだけど、環さんの声はくっきりとして聞き取りやすい。
「まずは神谷さん、この度は大変な思いをされましたね。ご無事で何よりです」
「あ、はいっ、ありがとうございます」
緊張していたら、話を振られたのでドキッとしてしまった。環さんはわたしの方にちゃんと顔を向け、にこっと笑った。環さんが笑うと、キリッとした雰囲気が緩んで可愛らしくなる。
「いえいえ。さて、さっそくですけど神谷さんにとり憑いていたものについて……名前がないと不便ですね。とりあえず『A子さん』と呼ぶことにします。ええかな? 志朗くん」
ええよ、とシロさんが答えた。環さんははい、と言って話を再び始めた。
「『A子さん』を作ったのは長下部麻沙子という人物で、霊媒師として活躍されていた人です。優秀な人だったようですが、評判はあまり芳しくなかった。理由について平たく言えば、呪殺を請け負うことがあったからです」
じゅさつ、という言葉が頭の中で意味を結ぶまで、何秒か時間がかかった。
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