それから私たちは

01

 黒木さんの車に乗せてもらって道の駅を出た後のことは、ほとんど覚えていない。自宅の住所を教えたあと、すぐに寝落ちしてしまったからだ。

 シロさんのお弟子さんや、加賀美さんの息子さんだという幸二さんと色々お話してみたかったのだけど、二日間まともに眠っていないツケが一気に回ってきて、気がつくと実家の前だった。

 喉が乾いてチクチクした。だからおそらく口は開けっ放しだっただろうし、もしかするといびきをかいていたかもしれない……女子中学生の前で、大人のだらしないところを見せてしまった(もっともシロさんのお弟子さんに視力はないけれど、それでも音や気配で、ある程度察することができるんじゃないかと思う)のが恥ずかしいけれど、それを恥ずかしいと思えること自体、心に余裕が戻ってきた証拠だなとも思った。

 コウメは私が帰宅すると、尻尾を千切れそうなほど振って出迎えてくれた。朝多めに盛ってきた餌はほとんど減っていなかったから、いつもと様子が違う私のことを心配してくれていたのかもしれない。コウメを撫でていると、少しして両親が帰宅した。

 ひさしぶりに自宅で食事をして、家族と話して、思い切り平和を味わっているはずなのに、私は頭のどこかでずっと、えりかのことを考えていた。えりかの家のことは、何も解決していない。お母さんはおそらくまだ、「あさみさん」になったままだろう。

(またいつか来ることになるわよ。いくらでもいらっしゃい)

 あの予言めいた言葉は、まだ実現されていない。なるべく実現させたくないけれど――でも、宙ぶらりんな感じは否めない。

 というか、今回は明らかになっていない謎が多いのだ。

「あさみさん」は一体何ものだったのか。えりかの家は、これからどうなるのか。

 幸二さんに憑いてしまった鷹島さんがどうなったのか。

 そもそも私に取り憑いていたものは、何だったのか。

 英星高校合唱部に関するブログを書いたのは誰で、どんな目的があったのか。

 その辺りがまだ、解かれていないはずだ。

 もっとも鷹島さんに関して言えば、若干の情報は持っている。幸二さんを見守っていたという「加賀美家の神様の胴体の方」は、鷹島さんについてはノータッチらしいのだ。とり憑かれ体質をなんとかしたい幸二さんにとって、鷹島さんは教材みたいなものらしい。幸二さんは鷹島さんをくっつけたまま、実家の神社に帰ったはずだけど、そこで何をしているのやら、やっぱり謎だ。

 シロさんに色々聞いてみたかったけれど、連絡がとれなかった。電話に出ないし、テキストメッセージも返ってこない。たぶん病院に行ったり、リスケしたという仕事をこなすので、すごく忙しいのだろう。

 しかたがないので、シロさんの言いそうなことを勝手に考えてみる。

(別によくないですか? あえて明かさなくても。神谷さんの問題は解決したから、これで話はおしまいってことにできますよ)

 などと、言われてしまいそうな気がする。


 だから数日後にシロさんが電話をくれたとき、私は少なからず驚いたのだ。

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