03

「もしかしてお姉さん、英星の事件について調べてらっしゃるんですか?」

 運転手さんが逆に尋ねてきた。一瞬ぎょっとしたけど、考えてみたらここまで前のめりになっているんだから、当然の反応だった。

 伏せる必要がないし、ここは素直に乗っかってみよう。亡くなった人の遺族というわけでもなさそうだから、かえって質問しやすい。

「実はそうなんです。ちょっとその……知人に関係あることかもしれなくて」

 わけを説明するのに困ったけれど、実際鷹島さんに関係がないとはいえない。すでに存在しない女子高で三十年前に起こったことがすべての元凶だとしたら、それに直接関わったのはおそらく、当時の在校生だった鷹島さんのお母さんだろう。それが鷹島さんへとつながった――そういうことではないだろうか。

「あら、そういうご事情だったんですねぇ」運転手さんは、愛想のいい顔をちょっとしかめてそう言った。「残念です。私なんか、通り一遍のことしか知らなくって」

「そうなんですか? お詳しいと思いましたが……」

「なにしろすごい噂になってましたからねぇ。私と同世代で当時この市に住んでた女の子って、みんな一度は英星の噂聞いたり、喋ったりしてるんじゃないかしら」

 運転手さんはそう言って、あきれたようにふふふと笑った。「英星高って、憧れてる子が多かったので余計にねぇ。学校にこっそり週刊誌持ってきてる子とかいましたっけ……そうそう、当時のことお調べになるなら図書館とかがいいと思いますよ。こんな田舎の図書館ですけど、古い雑誌や新聞を割合手広く集めて、マイクロフィルムで保存しててね」

「図書館ですか……」

「ええ。英星高校だった建物も残ってますけど、それはほんとに建物だけですから、調べものの役にはあんまり立たないと思いますねぇ」

 運転手さんはサラッと言ったが、それは重大な情報だと思った。さっきから感じていた妙にどきどきする感じが、一瞬強く跳ね上がった。

「校舎が残ってるんですか?」

 さっき検索したときには、見当たらなかった情報だ。

「私はよく知らないんですけど、校舎自体が価値のある建物だそうですよ。やっぱりお嬢さま学校だったからかしら、洋風の素敵な外観でね……今は貸しスペースっていうんですか、ギャラリーとか、いろんなイベントに使われてるみたいです。市が管理してるんじゃなかったかしら」

「全然知りませんでした」

「元英星高校って、あんまり言わないようにしてるみたいなんですよ。一応事故物件というか、曰くつきの場所でしょう? 外部から来た人がイヤがって、借りてくれなくなったら困るってことじゃないかしら」

 なるほど。でもここが地元のタクシードライバーなら、当然知っているというわけだ。

 私はチラリとシロさんを見た。三十年前の事件の現場。今は何も残っていないとしても、シロさんだったら何かわかるんじゃないだろうか。

 シロさんはいつのまにか顔を上げていて、こちらにスマホを向けた。

『もと校舎行きましょう。待ち合わせまで時間ある市』

 さっきから「〇〇市」が多いな……だんだんこの誤字にも慣れてきた。

 元高校の方に行きたいと告げると、運転手さんは少し意外そうな顔をした。とはいえ断われることはなく(仕事なんだから当然だけど)、私たちは二十分ほどで目的地に到着した。

 もらったレシートをきっちり仕舞ってから、私たちはタクシーを降りた。

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