04

 旧英星高校校舎は、確かにお洒落な佇まいだった。左右対称のつくりで、赤レンガの壁に整然と並んだ白い窓枠が、東京駅の駅舎を思い出させる。入口前のモザイクタイルや女性のブロンズ像なども、おそらく昔からあったものなのだろう。

 高校というより、なんだか美術館みたいだ。私は建築にまったく詳しくないが、確かに取り壊すにはもったいない気がする。

 運転手さんが(たぶん私よりも目の見えないシロさんに配慮して)「駐車場で待っていましょうか」と言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。時間がかかったら申し訳ないけれど、急いでここから逃げる羽目になるかもしれない……と思うと、足は確保しておきたい。一応「結構時間がかかるかも」と断ってはおいた。

『噛みやさん悪いけど、外まわっててくれま戦果』

 タクシーを降りると、シロさんが例によってスマホを見せてきた。

「噛みやさんって、私かぁ……中、駄目ですか?」

『噛みやさんについてるやつが近くにいる戸、色々邪魔されそう難で』

「なるほど……わかりました。何かあったら呼んでください」

 正直私個人としては、中に入ってみたい気分がかなり強い――でもこの気持ちはたぶん、私に憑いているもののせいだろうという感覚もある。ここはこいつに従うよりも、我慢してシロさんの言うことを聞いた方がいいはずだ。たとえばシロさんが中で「よもう」としたら、絶対に邪魔するはずだし。

「体調とか、大丈夫ですか?」

 そうシロさんに尋ねると、『OKです』と言いながらサイドチェストをキメるムキムキの猫のスタンプを見せてきた。だから、たぶん大丈夫だと思いたい。やせ我慢の可能性はかなり高いけれど、それも私と憑き物には見せるべきではない部分だ。

『噛みやさんも気をつけて』

「了解です。寝ないようにしますね」

『あとお化け見るかもです市』

「うっ、そうか……耐えます」

 シロさんはニコニコしながら建物の中に入っていった。それを確認してから、私は庭の方に回った。足元のモザイクタイルは、よく見ると季節の花々を象っていて、桜やチューリップなどの春の花から、アジサイや朝顔などの夏の花へと続いていく。何ていうか、乙女の学舎って感じだな……と思う。晴天と綺麗な建物と、なぜか感じる懐かしさと嬉しさのおかげで恐怖は薄れていたけれど、油断してはいけないな、とも思う。

 前庭にはいくつかベンチが備えられている。比較的新しく見えるので、学校があった当時のものではなく、後から付け足されたものなのかもしれないなどと考えていると、ぽつんと自分の口から、

「これ、前は白いイスだったよ」

 と、ふいに言葉がこぼれた。

 私はぎょっとして立ち止まった。今のは自分の意志ではない。ここに来たのは初めてなんだから、ベンチの色なんか知るはずもない。

(来たな……)

 そう思った。そのとき、脇に垂らした左手に何かが触れた。

 柔らかい、小さな手だ。

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