02

「ニュースになるようなことって、何ですか?」

「学校の中で自殺した生徒さんがいたんですって」

 運転手さんは少しだけ声を潜めてそう言った。「確か友達が二年生の頃で、亡くなった生徒さんが三年生だったかな……大変だったみたいですよ。なにせトイレで首切って亡くなったそうだから」

「それは……ショッキングだったでしょうね」

 確かにそれは「ニュースになるようなこと」だ。シロさんも聞いてるかな、と横を見たが、当の本人は目を閉じてじっと座っているだけだった。シロさんはほとんどいつも目を閉じているから、こうやって見ただけでは、起きているのか寝ているのかよくわからない。

「そうそう。それだけでもショッキングなんですけど、不審死が続いてね……」運転手さんは、何か溜まっているものを吐き出すような勢いで話を続けた。

「それからちょっと経って、また同じ学年の生徒さんが亡くなったんですって。今度は学校の中じゃないけど、無理心中だって。むごい死に方をした人が続いたから、怖がる生徒さんとかもいて大変だったそうですよ。確かに友達は学年が違うけど、学校は部活動があるでしょう? 縦のつながりがあるから、そういう情報がよく入ってきたんですって」

「へぇ……」

 相槌を打ちながら、私はある直感を覚えていた。

(これは、私に憑いているものに関係のある話だ)

 そう思えて仕方がないのは、私が取り憑かれているからだろうか。奇妙な感覚だった。

「ほかに亡くなった方って、いたんですか?」

 思わず前のめりで尋ねてから、「しまった」と思った。不謹慎だとか、あるいは不審に思われたかもしれない。でも、幸い運転手さんは気にしなかったようで、「実はね」と言いながら話を続けてくれた。

「その前の年も踏切事故で亡くなった生徒さんがいて、二人も自殺や他殺が出たのは、その子の呪いじゃないかなんて噂があったそうなんですよ。自殺した子と無理心中した子、踏切で亡くなった子と同じ部活だったそうなんですよ」

 部活と聞いて、さっき見つけたブログを思い出した。『平成×年に英星高校合唱部に所属していた方へ』というタイトル。それから本文にあった「合唱部の呪い」という言葉。年代も合いそうだ。

「それ、何部だったかご存じですか?」

「いえ、そこまでは」

 そのとき、タクシーがなめらかに交差点を曲がった。道の駅までは確か一時間もかからないはずだ。渋滞もないし、このままいけばスムーズにたどり着けるだろう。

「報道とかされたんですか?」

「そうですねぇ、結構騒がれたんじゃないかと思いますよ。今から三十年くらい前のことだし……今みたいにプライバシーとかコンプライアンスとか厳しくない頃だから、あれこれ面白おかしく書かれていそうで嫌でしょう? 私、それでなるべく週刊誌とか見ないようにしていた記憶があるもの――学校側は大変だったんじゃないですかねぇ。そこからなんとなく、学校全体の運営もおかしくなってきちゃったというか」

 つまり不祥事――この場合は生徒の不審死だ――が続いたせいで、学校全体にも悪影響があったのだ。やけに胸がどきどきした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る