06
「うーん、やっぱり読めないなぁ……」
私はため息をついた。ブログのURLの下半分、おそらくユーザーが決められるであろう部分には、アルファベットと数字がランダム生成のような不規則さで並んでいる。この部分、普通はブログに関係のある内容にすると思うんだけどな――などと、親戚の犬ブログのことなどを思い出しつつ、とりあえずはコピー&ペーストしてシロさんに送った。
「ランダムっぽいですか?」
「少なくとも私にはそう見えます。ユーザー名も49poSみたいな……」
「はー。確かに名前っぽくはないですね」
シロさんは三つ目のゼリー飲料の空き容器を握りつぶし、レジ袋から栄養ドリンクを一本取り出した。
「シロさん、さっきからなんか、摂取してるものが偏ってるというか……」
「ボク、よみごの仕事しとると頭が疲れるんですよねぇ。今日はちょっと、トリッキーな方法でコンタクトとってくるおばさんもおったし」
そう言いながら、シロさんはあくびをかみ殺した。どんな方法でコンタクトを取られたのかがちょっと気になるが、お疲れ気味に見えたので聞かなかった。
「とにかくこの人、早いめにコンタクトとれたらいいですねぇ」
「そうですねぇ……」
その人が存命ならいいけど……などと考えながらふと、突然うとうとしそうになった。
私は慌てて顔を上げた。窓から入ってくる光があったかいし、何かしら手がかりらしきものは見つけたし、隣にシロさんがいるしで、つい気が緩んでしまったのかもしれない。慌てて立て直したけれど、今のは結構危なかった気がする。
「シロさん、エナドリもらいます」
エナジードリンクの蓋を開けながら、私は周囲を見渡した。さっき上履きの足が見えたみたいに、ないはずのものが見えないだろうかとも思ったのだが、残念ながら無駄足だった。
(そういえばさっきの上履きの足、やっぱり英星の子だったのかなぁ)
英星の子ってことは、たぶん女子高生だ。そんな若い――というよりはまだ幼いくらいの年頃だと、自分のことを振り返ってそう思う――子が巻き込まれて、私みたいな目に遭っていたのかもしれない。そう思うと、心が痛んだ。
「合唱部の呪いねぇ。こういうふうに書くってことは、騒がれるようなことがあったんですかね」
シロさんは、私が送ったURLを使って、同じブログにたどり着いたらしい。「結構前に書かれれたんじゃなぁ」などと言いながら、スマホをスクロールしている。
「呪いって、今はどうなってるんですかねぇ。わからん事がまだまだ多いなぁ」
そう言って、シロさんが溜息をつく。「やっぱりこのブログ書いた人と連絡がとれるのが一番はや……あっ」
急に「あっ」と言われたので、ついギョッとしてしまった。
「な、何ですかシロさん。何かあったんですか?」
「いや、ブログに載ってたアドレスにメール送ったでしょ? 返事がきました」
「うそ! 早!」
思わず大声を出してしまい、私は慌てて口を閉じた。イートインコーナーの、私たちの近くに座っていた大学生らしき男女二人が、怪訝な顔でこちらを見ている。
彼らに向かって頭を下げる私を後目に、シロさんはまたメールを送り始めた。
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