03

「……英星高校、気になりません?」

 ひととおり喋り終えた私がそう言うと、シロさんも、

「ですねぇ。なんか関係ありそうですよね」

 と返してくれた。

 同意が得られてよかった……私は本気で胸をなでおろした。昨日からの私はあまり信用できない。とんちんかんなことを言っていたらどうしよう、という懸念が常にある。とはいえさっきシロさんが、私にくっついていた「何か」を取ってくれたわけだし、少しはまともに頭が動くようになったと信じたい。

「今まで拾ってきた手がかりの中で、上履きと繋がるのって英星女子くらいだと思うんですよね。もちろん全然関係ない可能性もあるとは思いますけど」

 私はいつもより回っていない頭を精一杯回転させた。

「ボクもそこつながってほしいですねぇ」

 シロさんが「しみじみ」という感じで同意した。

「ボク、明後日から普通に仕事ですもん。解決するためのとっかかりが早めに欲しいですよ」

 左手の爪がなくなろうとしているのに、明後日から通常業務に戻ろうというのか……それはさておき、早めに解決したいのは私も同じだ。

「私も思いっきり寝たいです……」

 などと喋りながら、ついあくびが出てしまう。やっぱり、あまり歩いていると疲れて、余計に眠くなってしまうかもしれない。とはいえ、今タクシーなんかに乗ったら確実に寝てしまいそうだ。困ったものである。

 私はもう一度足元を見ながら歩いた。もう一度、さっきの足を見られないだろうか? そう期待したけれど、期待してしまうと駄目らしい。

「神谷さんのお母様って、もしかして英星のOGとかじゃないですよね?」

 シロさんが尋ねる。私は首を横に振った。

「残念ながら、他県から嫁いできたんです」

「そうかぁ~。そしたらしょうがないなぁ、そろそろちゃんと『よむ』かなぁ……」

 と言いつつ、シロさんは相当気が進まない様子だ。

 それはそうだろう。これまでからして、なんのペナルティもなしに「よめる」とは考えにくい。体の横で揺れているシロさんのガーゼだらけの左手が、前にも増して気がかりに思えてきた。


 ぶつぶつ言いながら歩いているうちに、大きめの通りに出た。

 シロさんは「加賀美さんにツケてやりましょう」とか言いながら近くのコンビニに入った。私に棚の商品を読み上げさせながら、エナジードリンクやら栄養ドリンクやらハードグミやら、眠気が覚めそうなものをどんどんカゴに放り込んでいく。

「そういえば神谷さん、今は体調どうです? ボクのこと嫌になったりしてません?」

 イートインスペースでさっそくエナジードリンクの缶を傾けていると、シロさんが話しかけてきた。パッケージに「脳にブドウ糖補給!」と書かれたゼリー飲料を持っている――と思ったらそれで額を冷やし始めた。シロさんこそ大丈夫だろうか。

「私は今のところ平気です。それより英星高校が気になって……」

「それですねぇ。何しろ学校自体がもうないから……」

「現地には何にもないですかね~、やっぱり」

 そう言いながら私はスマートフォンを取り出し、溜まってきた通知は一旦置いておいて、検索窓に「英星高校 ■■県」と打ち込んでみた。このときは「とりあえず、どこにあったかだけでも調べよう」と思っただけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る