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検索結果の上の方に『英星高校の思い出』という一文があるのが目についた。タップしてみると、個人のブログのようだ。
トップ画像は植物を描いた水彩画だった。イラストレーターとして長年活動している還暦近い女性が管理しているらしい。作品の紹介と日記を兼ねた内容のようだ。
『英星高校の思い出』というタイトルの下には簡単な時候の挨拶、それに続いて、母校である英星高校がなくなることへの驚きと寂しい気持ちが、読みやすい文体で綴られていた。
「シロさん、OGの人のブログっぽいもの見つけたかもです」
私が声をかけると、シロさんは額に当てていたゼリー飲料のフタを捻りながら、「お〜、引きが強いですね。神谷さん、持ってるじゃないですか」とニヤニヤした。
「まぁ役に立つ情報があるかわからないですけど……げっ」
思わずカエルみたいな声を出してしまった。突然見覚えのある画像が出てきたので、驚いたのだ。
何種類かの花を描いた淡いタッチの絵が表示されている。それは私が、さっき目にしたばかりのものだった。
「神谷さん、どうかしました?」
シロさんもさすがに怪訝な顔をしている。そして、いつの間にか二つ目のゼリー飲料を開けようとしている――まぁそれはいいとして。
「シロさん、さっきの手紙見せてもらえませんか? 鷹島さんの家で写真に撮ってきたやつ」
「ちょっと待ってくださいね」
シロさんは理由も聞かず、手早くスマートフォンを操作して、私に画像を見せてくれた。鷹島さんのお母さんが橘真希という人物に当てた手紙、その便箋に印刷されていた花の絵と、ブログに掲載されているイラストは、確かに同じものだ。
ブログには、次のように書かれていた。
『このイラストはまだ駆け出しの頃、英星高校の恩師から頼まれて描かせていただいたものです。
購買で販売する便箋と、対になる封筒に使用していただきました。
ご依頼の際に「卒業生の中には芸術の分野で活躍している人もいるのだということを、現役生の皆さんにも知ってほしいから」と仰っていただき、まだ活躍というほどの実績もなかった私は、嬉しくも大変照れくさい気持ちになったものです。
一年を通していつでもお使いいただけるように、あえて季節感のない、架空の花をいくつか描かせていただきました。この絵は長年にわたって使用されることとなり、多くのお嬢さんがたの手に渡ったのではないかと想像します』
私はブログを小声で読み上げた。シロさんにはそれでもちゃんと聞こえるようだ。
「やっぱり同じ絵ですよ。この便箋、英星高校の購買で売られていたものです」
「やっぱり神谷さん、持ってるじゃないですかぁ」
シロさんは二つ目のパックを握りつぶしながら、明るい声でそう言った。
「便箋の花の絵とか、ボクじゃったら一生気づかないですよ。神谷さんがおってよかったわ」
「照れるじゃないですかぁ。でも鷹島さんのお母さん、本当にOGだったかもしれないですよね。これって学生とか教員とか、とにかく学校の関係者じゃないと手に入れにくいやつじゃないですか?」
そのブログにはそれ以上参考になりそうな記述がなく、英星高校に関する話題が出たのもそれ一度きりのようだ。私はブラウザバックして検索結果のページに戻った。
「ちょっといいですか?」
シロさんがこちらに右腕を伸ばしてきた。
「関係あるって確信が持てたら、ちょっとわかる感じになってきたかも」
「へ?」
「そういうわけなんで、ちょっと失礼します」
そう言うと、シロさんは私のスマホの画面を何度かスワイプさせた。長い人差し指が画面の上をくるくると動いて、一点をぴたりと指さす。
「神谷さん、これどうですかね? それっぽくないですか?」
そこには、
『平成×年に英星高校合唱部に所属していた方へ』
と表示されていた。
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