02

 とにかく眠くならないように、ということで、特にアテがあるわけでもないけど、私たち二人は歩き始めた。疲れてしまうかもしれないが、何もないところで立ち止まっているうちに寝てしまうよりはマシだ。

 スマートフォンで周辺の地図を確認すると、大学のキャンパスに沿った通りを北上していくと大きな通りに出るらしい。少しでもにぎやかな場所に行きたかったので、そちらを目指すことにした。それに、さっき来た道を戻ると守衛室の前を通ることになり、それはなんだか気まずい。

「眠気防止に、なんか話しながら行きましょうか? またしりとりします?」

「さっきストックしておいた『る』、色々あったから全部忘れちゃいました……」

 私がそう言うとシロさんは明るく笑ったが、なんとなく無理をしているような気がした。もっとも爪を何枚も剥がされたりしたのだし、元気がなくてもおかしくはない。

「シロさん、歩きっぱなしで大丈夫ですか? 怪我してますけど」

「ボクは大丈夫です。神谷さんは?」

「私も大丈夫です」

 そんな感じで歩き出した。お互いそれなりに疲れているからかあまり会話が進まず、気がつくと私たちはだまりこくって歩道を歩いていた。

 こんな時だがいい天気で、お散歩日和だ。わたしはコウメのことを考えた。コウメは今、何をしているだろう? 自動給餌機を出してきたけれど、誰もいない家の中で寂しがっているんじゃないだろうか。犬の足取りを思い浮かべながら、うつむいて足元を見た。

 そのとき、踏み出したわたしの右足のすぐ横に、ぴったりと寄り添うようにして、もうひとつ右足が現れた。

「ひっ」

 私は喉に引っ掛かったような悲鳴をあげ、とっさに後ろを振り返った。

 誰もいない。当たり前だ。あんな風に足同士がぴったりくっつくような場所に人がいたとすれば、いくらなんでも気付いただろう。

「何かありました?」

 シロさんがこちらを振り向いた。彼の両目は閉じられたままなのに、なぜか視線を向けられているような感じがした。

「あの、足が見えて。絶対人とかいないところから、スッて出てきて」

 慌てて報告しながら、わたしはさっき見えた足のことを思い出していた。ぱっと見ただけだけど、あれは白い靴下を履いていた気がする。そして――なんというか、違和感があった。足が見えたというだけではなく、なんだか変な感じがしたのだ。

(何だろう。この変な感じ)

 私は首をひねった。さっき一瞬だけ見えた足の、一体何がおかしかったのだろう? そこにピントを合わせていくと、急にその違和感の正体がわかった。

「……上履き!」

 思わず大きな声をあげて、立ち止まってしまった。シロさんが「へぇ?」と声を上げた。

「神谷さん、もしかして何かわかりました?」

「あの、ちょっぴり見えただけで、見間違いかもしれないですけど、上履き履いてた気がするんです。普通は上履きで外歩かないけど……」

 私は見たものの説明を続けた。シロさんはそれを聞きながら、興味深そうにうなずいている。

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