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 何日か怖くて仕方がなかった。玄関のチャイムが鳴るたびに飛び上がった。木田ちゃんが来たんじゃないか――そう思うと体が震えた。

 でも、木田ちゃんは来なかったのだ。

 木田ちゃんの家に泊まりに行ってから三日後の朝のことだった。ホームルームの時間に少し遅れて教室に入ってきた先生は、見るからに暗い顔をしていた。

「お休みしている木田なつみさんですが、昨夜、自宅で亡くなっているのが発見されたそうです」

 教室内がどよめいた。たぶんわたしだけが黙りこくっていた。木田ちゃんがどうして死んでしまったのか、先生は教えてくれなかった。

 もちろん、大騒ぎになった。生徒が亡くなったというだけで大変なことなのに、トイレではーこが自殺してからまだ一か月も経っていないのだ。また色んなうわさが飛び交った。

「やっぱり合唱部って、呪われてるんじゃないの」

 なんて言葉が何度も耳に入った。わたしを避ける子もいた。はーこも木田ちゃんも、同じクラスで同じ合唱部で、わたしたちは端から見ても仲良しだったはずだ。だから「次は藤巻奈津美の番じゃないか」なんて思われるのは、むしろ自然なことだった。


 その日の放課後、思い切って木田ちゃんの家に向かった。

 チャイムを押して訪ねる勇気はなかったけれど、せめて外から家の様子を見たかった。怖かったけれど、その反面、気になって仕方がなかった。どうしてもじっとしていられなかったのだ。

 木田ちゃんの家の前にはパトカーが何台も停まっていて、立ち入り禁止の黄色いロープが何本も張られていた。

 警察が呼ばれるような死に方をしたんだ。はーこみたいに――

 そこで限界になって、わたしは来た道を引き返した。足が震えて自転車に乗れず、しばらく自転車にすがって歩いた。


 どうして警察が来ていたのか、木田ちゃんのお葬式がどうなるのか、まるで情報が入ってこなかった。でも「どうやって死んだのか」は大体わかった。その情報源が正しいのだとすれば、だけど。

「これに載ってるの、木田ちゃんのことだよね?」

 そう言いながら、教室に週刊誌をこっそり持ち込んだ子がいた。見開きのモノクロのページに、見たことのある家の写真が載っていた。「無理心中」という言葉が、黒々と印刷されていた。

 その記事によれば、木田ちゃんは自宅で、お母さんに包丁で刺されたらしい。木田ちゃんのお母さんは、なぜか二日間を娘の遺体と共に家で過ごし、家の電話から警察に通報した後、自分も刃物で自殺したという。

「こんなことになってたなんて……道理で担任、何も教えてくれないわけだよ……」

 クラスメイトの一人がつぶやいた。みんなしきりにうなずいたり、「怖いね」とか「かわいそう」とか、色んなことを言い合ってざわざわした。わたしだけが固まって、別のことを考えていた。

 木田ちゃんは死んだとき、わたしのところに来なかった。

 クミさんやはーこがそうしたんだから、木田ちゃんもそうするだろうと思っていたのに、そうしなかった。わたしに死ぬところを見せなかったのだ。

 どうしてだろう。わざとなのか、それともたまたまなのか。

 わたしは「たまたま」だと思う。

 週刊誌の記事には「無理心中」とあった。それが本当だとして、木田ちゃんは自分の死ぬ場所をコントロールできなかったのだ。わたしのそばで死のうとしたのに、わたしから離れたところで、突然お母さんに刺されて死んでしまった。だから木田ちゃんが死んだとき、近くにいたのは木田ちゃんのお母さんだけだった。

 わたしの予想が正しいとしたら、木田ちゃんに憑いていたものは、木田ちゃんのお母さんに取り憑いたはずだ。だからお母さんも自殺した。そして。


 そいつは今、どこにいるのだろう。

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