35

 夕食をすませて、早めにお風呂に入って、それから眠くなるまで二人でテレビを観たりして過ごした。

 バラエティを点けていたからだろうけど、ブラウン管に映るタレントが、誰もかれもやたらと陽気そうに見えた。まるで別世界にいるみたいな、わたしたちのことなんかまるで知るはずもないこの人たちは、たとえば降霊術なんかやったことがあるのだろうか? どう見てもありそうには思えなかった。わたしたちはクイズの答えを当てっこしたりして、時間をつぶした。

 CMが流れ始めた。木田ちゃんは眠くなっただろうかとそちらを振り向くと、まだしっかり両目を開いて、画面をじっと見つめている。

「木田ちゃん、どう? 眠い?」

 尋ねながら、わたしは淹れてもらったコーヒーを飲んだ。木田ちゃんが眠っている間に、わたしが寝てしまったのでは困る。

「……ねぇ、なっちゃん」

 木田ちゃんが突然話しかけてきた。

「なに?」

「そのさ、こんなこと聞かれたらイヤな気分だろうけど――もしもだよ、もしもあさみさんが私たちに嘘をついてたとしたら、どうする?」

「えっ」

 わたしは驚いて木田ちゃんの方を見た。そういえばそんなこと、考えたこともなかった。

 だって、必要がなかったから。あさみさんはいつも優しくて、頼もしくて、あさみさんに任せておけばなんでも上手くいって、だから疑う必要なんか感じなかった。

 でも、あえてこんな風に聞かれると、服の隙間から冷たい刃物を肌に当てられたみたいにヒヤッとして、腕にうっすら鳥肌が立つ。

 あさみさんがもしも、わたしたちに嘘をついていたとしたら。

「――もしもだよ! なっちゃん、ほんとにもしもの話だから」

 わたしの顔をじっと見ていた木田ちゃんが、慌てた様子でそう言った。そんなに慌てないといけないような表情になっていたのか――と驚くのと同時に、何かうすら寒いような気もした。

「わかった。もしもの話だよね。もしも――」

 もしも、と繰り返しながら、ふと疑問に思ったことがあったのを思い出した。こういうことは、ちゃんと聞いておいたほうがいい。

「木田ちゃんはどうして、『もしあさみさんが嘘をついていたら』なんてこと、考えるようになったの?」

 木田ちゃんだって、わたしたちみたいにあさみさんのことを信じていたはずだ。疑ったりしている様子はなかったのに、どうして急にあさみさんのことを疑い始めたのだろう? 何かきっかけがあるのながら、どんなきっかけだったのか聞いておきたかった。

「……あの、さっきちょっと話したじゃない?」

 木田ちゃんが話し始める。「あさみさんの家に行って、その後あさみさん家の墓所にも行ってって……」

「うん、言ってた」

「そのときなんだけど、あの――」

 ふいに木田ちゃんの声が途切れた。

「木田ちゃん?」

 わははは、とテレビの向こうから笑い声が聞こえた。木田ちゃんはソファに座ったまま、いつの間にか大きく船を漕いでいた。

「どうしたの、木田ちゃん……」

 木田ちゃんはわたしの声に応えず、リビングのソファーの上に伏したまま、本当に眠ってしまった。すう、すう、と寝息の音まで聞こえる。

 こんな倒れるような寝方、初めて見た。わたしは少し慌てたけれど、一応説明は聞いていたから、すぐに落ち着くことができた。

(とにかく、見張ってなくちゃ)

 そう決めて、もう一口コーヒーを飲んだ。

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