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 木田ちゃんはげっそりして、目の下に濃いクマができていたし、すごく弱っているように見えた。でも「簡単なものしか作れないけどいい?」と言って、わたしとおしゃべりしながら、慣れた手つきで夕食を作ってくれた。

 家の近所で急いで買った、ほんとに普通のお惣菜とチョコレートケーキしか持ってこなかったことがちょっと申し訳なくなった。でも、木田ちゃんは「来てくれただけで嬉しい」という。

「一人でいるとさ、ほんと気が滅入るから」

 卵焼きを上手にひっくり返しながら、でもそんなふうにこぼした木田ちゃんの言葉は、たぶん本当なんだろうな、という気がした。

 木田ちゃんはしばらく、はーこのことも、あさみさんのことも話さなかった。だからわたしもできなかった。そういう話をしたくない気持ちもわかるから、本当は相談すべきだと思いつつ、自分から切り出せなかった。木田ちゃんは読んだ本の話を延々として、わたしはそれをうなずきながら聞いた。

 夕食後、使い終わったお皿を木田ちゃんが洗い、わたしが拭いてシンクの横に積んだ。そのとき木田ちゃんが「私、あさみさんの家に行ってみた」と突然口を開いた。

「そうなんだ」

 突然だったのでそんな返事しかできなかった。

「でも誰にも会えなかった。家の近所にお寺があって、探したら長下部家のお墓がちゃんとあってさ。墓誌にあさみさんの名前も載ってたからここで間違いないなと思って、一応お参りしてきた。お経とか知らないから、とりあえず謝ってみたけど」

「そっか……」

 それで許してもらえたらいいのに、と思ったけれど、口に出すとむなしくなりそうで言わなかった。木田ちゃんはカチャカチャと陶器のふれあう音を立てながら、

「でも、なんか無意味だった気がする」

 と呟いた。

「……なんで?」

「あさみさん、お墓になんかいないんじゃないかなって気がして」

 木田ちゃんの言葉が、不思議な説得力をもって聞こえた。


 寝るのが怖い、と木田ちゃんは言う。

「なんか、すごく怖い夢を見てる気がするの。目を覚ますとどきどきして、汗もすごくかいてて、とにかく悪夢を見てたって記憶だけはあるのね。でもどんな夢だったのかは全然覚えてなくって――はーこが死んだ後から、たぶん同じ夢ばっかり見てるんだ。夜だけじゃなくて、昼間も同じ。とにかく怖い夢を見て、でも起きると何も覚えてない。眠れないから体がしんどくって、最近学校行けてないんだ……心配かけてごめんね」

「ううん、それは全然……もしかして、わたしに見ててほしいってそれ?」

 木田ちゃんはうなずいた。

「どんな夢なのか気になるの。もしかしたら寝言とか、夢遊病みたいな動きとかするかもしれないでしょ? 私が寝てる間どうなってるか、教えてほしいの。家族とかに頼めたらいいんだけど、うちの母、今職場が大変らしくてさ。離婚したばっかりだし、あんまり変なこと頼めなくって。ていうかこんなこと、なっちゃんにしか相談できない。他の友だちにも、お医者さんとかにも、わかってもらえないと思う」

 木田ちゃんは手を止めて、わたしの顔をじっと見つめた。わたしはうなずいた。

「わかった。ちゃんと見てる」

 

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