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 教室に行っても、合唱部に行っても、はーことは顔をあわせることになる。でもわたしは正直もう、はーこのことが怖かった。自分がこんな薄情だったなんて知らなかったし、すごくいやなことに気づいてしまったと思った。でも、本当にはーこのことが怖くなってしまったのだ。すりガラスごしに笑っていた、ぼんやりした顔や高い声を思い出すと首すじがぞわぞわして、部室に入るのもいやなくらいだった。

 でも、はーこはわたしや木田ちゃんに寄ってくる。元々顔が広くて、あっちこっちのグループの子と遊んでるような子だったのに、その子たちとはあんまり話さなくなって、わたしや木田ちゃんとばかりつるむようになった。わたしはどうしても一歩引いてしまって、たぶんはーこからしてみれば、「冷たい」とか「そっけない」って感じるような態度をとっていたはずだ。でもはーこは全然いやがったりしなかった。すっかり様子の変わってしまったはーこのことを、わたしだけじゃなく、みんながなんとなく持て余していた。

「よっぽどクミさんのことがショックだったんだね」

 いつのまにかそれが定説、みたいになっていた。特にはーこがパートリーダーをしていたメゾソプラノパートは大変みたいだった。はーこは前みたいに真面目に歌わないし、ピアノで音をとることもしなくなった。

「あたしぃ、ピアノ全然弾けないしぃ」

 そう言っていたらしいけれど、それが嘘だってことはみんな知っている。でも、はーこはかたくなに弾かない。副パートリーダーだった子が練習を仕切るようになって、はーこはあまり部活に来なくなった。でも部活が終わると、わたしや木田ちゃんが来るのを、玄関の前で待っているのだ。

「なーっちゃ~ん」

 夕方、日が落ちかけて暗くなった玄関で、にたにた笑いながら声をかけられると、わたしは悲鳴をあげたくなった。悲鳴をあげて、どこまでもどこまでも走って逃げ去ってしまいたくなった。けれどそんなことをしたら、本当にもう戻れないところまで振り切ってしまう。そう思うともっと怖かった。なんとか前みたいに戻らないかと思って、私は結局、ひきつった笑顔を返すのだった。


「なっちゃんの気持ちはわかる。でも私は、なるべく元通りでいたいと思う」

 木田ちゃんはそう言って、はーこのマシンガントークにいちいち相槌をうったり、一緒に下校したりしていた。

 木田ちゃんが本当は何をどう感じているのか、はーこが怖いのかそうでもないのか、わたしにはわからなかった。でもわたしみたいにガチガチの笑顔じゃない。もっと自然に見えた。

 委員会で遅くなった日、二階の窓からなんとなく下を見下ろすと、はーこと木田ちゃんが正門の方に向かって歩いていくのが見えた。はーこは木田ちゃんの手を掴んで、小さな子供みたいに嬉しそうに振っていた。

(こういうドアを開けてさぁ、入ってもいいよって示すのはさぁ、それだけ仲よしだってことなんだよねぇ)

 はーこの言葉を思い出すと、思わずひざが震えた。


 そうやっているうちに秋が過ぎて、はーこが元通りにならないまま、冬がやってきた。

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