23
生まれて初めて友達と学校をさぼった。それがこんな時だなんて思いもしなかった。とにかく木田ちゃんがいてくれてよかった。自分よりも十センチくらい背の高い彼女の横を歩きながら、そんなことを思った。
もう残暑だというのに、真夏の気配が残る暑い日だった。わたしたちはバスに乗ってはーこの家に向かった。最寄りのバス停でバスを降りた木田ちゃんが、すぐ近くに公衆電話を見つけた。 「電話していった方がいいかも。はーこの家、どんな状態かわからないもの。まだ警察とか出入りしてるかも」
「そっか。いきなり行っても、入れてもらえないかもね」
はーこはすぐ電話に出た。家の中があわただしいから、外で会いたいという。もう一度声が聞けたことに、わたしは少しだけ安心した。
近所の公園の東屋で待っていると、五分ほどしてはーこが走ってきた。
ぎょっとしてしまった。部屋着っぽいへろへろのTシャツに、古いジャージのズボン。髪はぼさぼさで、おしゃれが好きないつものはーことは、まるで別人みたいだった。心配で胸が痛んだ。
「なっちゃん、木田ちゃん」
はーこが泣きそうな声で言った。「どうしよう。どうしようどうしよう」
「大丈夫? とにかく座って」
木田ちゃんが声をかけて、はーこを東屋のベンチに座らせた。わたしは近くの自販機まで走って、三人分のジュースを買ってきた。はーこは半泣きで「ありがと」と言うと、缶のプルトップを開けて勢いよくジュースを飲んだ。
「はーこ、大変だったね……」
わたしが話しかけると、はーこは大きくうなずいた。
はーこがクミさんの死にどれだけショックを受けたか、何も聞かなくてもわかる気がした。よく知っているはずの人が、突然自分の部屋で、動機がわからない自殺を遂げたのだ。そんなことがあったら、身だしなみなんかに構っている場合じゃない――でも、はーこが悩んでいたのは、そういうことじゃなかった。
「……夢を見たの」
はーこが、ぽつりとそう言った。
「なんかね、よく覚えてないの。でもすごく怖い夢だったの。昨日の夜に見て、それからさっき、疲れて眠ってたらもう一回同じような夢を見た――と思う。変なんだ、あたし。どんな夢だったか覚えてないくせに、同じ夢を見たような気がして……」
一呼吸おいて、ごめんなさい、とはーこが呟いた。今にも消えそうな声だった。
「あたしがあさみさんを呼んだから、呼んだらだめって言われたのに、言われたのに守らなかったから、こんなことになっちゃった。どうしよう、あたしも死ぬかもしれない。どうしよう。怖い夢を見るんだよ。覚えてないのに、すごく怖かったってことだけはわかるの。どうしよう」
「大丈夫だから、落ち着いて」
わたしは慌ててはーこの隣に座り、寄り添った。木田ちゃんは立ったまま、心配そうにわたしたちを見つめている。
「ねぇ、はーこ。あさみさんは来てくれたの?」
木田ちゃんが突然そう言った。「あさみさんを呼んだんでしょ? あさみさんは何か言ってた?」
はーこは首を横に振って「来なかった」と答えた。
「全然来てくれなかったの。あさみさん、いつも呼んだら絶対来てくれたのに。でも、あたしが『呼んだ』ってこと自体は、誰かに知られちゃったんだと思う。だからクミさん、あたしの家に来たんだよ。きっとそう。ねぇ、どうしよう? あたし、クミさんに会っちゃったんだよ。お願いごとどうしよう」
はーこが何を言っているのか、わたしにはよくわからなかった。はーこは一気に喋り終えると、またしくしく泣き始めた。
強い風がざぁっと吹いて、周りの木々をざわざわと揺らした。
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