02

 あさみさんは、わたしよりも二学年上、まきさんよりも一学年上の先輩で、わたしが入部したときは合唱部の副部長だった。全体を引っ張っていかなきゃならない部長のそばで、部員ひとりひとりを見ているっていう感じで、きっとすごく頭がいいんだろうな、と思ったことを覚えている。

 あさみさんは、彼女が知らないはずのことをよく当てる。

「お父さんかお母さん、体調崩してない?」「いなくなってたワンちゃん、見つかったの? よかったね」「定期券、駅前の交番に届いてるかもよ」――そんなこと話してないのにってことを、ちゃんと言い当てるのだ。

 ひとつひとつ聞いてみれば、「昨日スーパーでお惣菜とスポーツドリンクを買っているところを見かけたから」とか「掲示板に貼ってたポスターがなくなってたから」とか、「なーんだ」と思うような理由があるのだけど、でも、そういうことにちゃんと気づくっていうのがすごい。わたしだったらそんなこと、すぐに見落としてしまう。

 だから、誰かに悩みごとやなんか相談したいとき、合唱部の子たちはあさみさんのところに行くことが多い。あさみさんは何でも聞いてくれて、大抵ちゃんと答えをくれて、困っているときは助けてくれる。無理でも、助けようとしてくれる。

 だから慕われて、頼りにされていた。親や先生よりもっとあてになることもけっこうあって、わたしたち後輩はみんな、あさみさんのことが好きだった。そのはずだ。

 でもあさみさんは、突然わたしたちの前からいなくなってしまった。

 学校の近くの踏切で、電車に轢かれたのだ。事故か自殺か、よくわからないらしい。

 わたしたちが通っている英星高校は女子高で、いちおう世間的なイメージは「お嬢様学校」だ。そんな高校の生徒が鉄道自殺(かもしれないと思える死に方をした)なんて、学校側からしてみればスキャンダルなのかもしれない。とにかくいつの間にか「あの生徒が亡くなったことについては触れないように」という空気が出来上がってしまっていた。

 あさみさんがどうして死んでしまったのかはわからない。でもそれは一旦置いておいて、まきさんの話に戻ろう。

「あさみさん、もう死んじゃってる人じゃないですかぁ。頼むってどうするんですか?」

「実は、やり方があるんだよね」

 まきさんはそう言って、ひっそりとほほ笑んだ。「部長と副部長と、各パーリーだけ知ってるの。でも、今日はもう遅いからまた今度にしよう。私、暗くなってからあんまりやりたくないんだ。一応やり方だけ教えておくとさ……」

 こっくりさんだよ、とまきさんは言った。

「こっくりさんですかぁ?」

 ピンとこない。

 こっくりさんといえば、何年か前、英星の中でもすごく流行ったことがあるらしい。でも集団ヒステリーっていうのだろうか? 様子がおかしくなる生徒がいたから、学校の中では禁止ということになってしまったそうだ。やっているのに気づかれると、生活指導の先生がすっ飛んでくる。

「でも、こっくりさんってキツネですよね? それってあさみさんと関係あるんですか?」

 そう聞いてみると、まきさんは「あるよ」と答えた。

「こっくりさんって、本当はあれ、降霊術なんだって。だからやってるときに来るのはキツネじゃなくて、人間の幽霊なんだってさ」

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