13
シロさんはスマホの読み上げ機能の音声を最大速度で聞いているらしく、すぐに便箋の中身を頭に入れてしまった。
えりかの家であったことも、シロさんにはすでに伝えてある。なにか参考になるような情報があればいいけど……くらいの気持ちだったけれど、もしかしたらこれがドンピシャかもしれないと思うと、心臓が痛いくらいどきどきした。
私にくっついている、このよくわからないけれど怖いものを、無事に取り去ることができるかもしれない――でもその考えと同時に、これまで考えないようにしていたことも頭の中に押し寄せてきて、どうにかなりそうだった。
手がかりを探して、情報をいくつか得られて、それでもこいつを追い払うことができなかったら。
もしもそうなってしまったら、どうしよう。
「あさみさんねぇ……普通の人ではないですよねぇ」
シロさんは口元に手を当て、眉をひそめてぶつぶつ呟いている。人の声にはっとして、私は我に返った。
恐怖で手のひらが冷たくなっている。慌てて擦ってみると、そこから体温が戻ってくるような気がした。
大丈夫だ。私はまだ生きているし、シロさんだってここにいる。きっと何とかなる。
「同業者かなぁ。ボクは聞いたことがないけど――ていうか、少なくともあさみさんの件って」
と言いながら、シロさんがこちらを振り向いた。
「たとえばこれ、神谷さんのお友達のお宅に霊能者が出入りしている――みたいな、普通の話じゃないですよねぇ。お話聞く限りは」
「そうです」私にはそれが普通の話かどうかはわからなかったけれど、とりあえず肯定することにした。
「あさみさんって何者なのか、私にもわからないんですけど、でも普通ではなかったです。ていうか、見た目はほんとにえりかのお母さんなんですよ。喋り方とかは全然違う人みたいだったけど」
夜のことを思い出すと、思わず背筋が寒くなる。私はもう一度手を擦ってみた。気のせいか、あまり温かくなった気がしない。
「そうですか。厭じゃなぁ。その人も何かにとり憑かれてるって感じがしますよね」
「私が話したりしたのは、えりかのお母さんじゃなくて、お母さんにとり憑いたあさみさんだったってことですか?」
「そんな感じじゃないかと思うんです。あさみさんかぁ……」
シロさんは私の話に相槌を打ちながらも「『あさみ』は苗字でも名前でもアリですよね」などと言って、考え事を続けている。
「少なくともボクは知らない人じゃなぁ。加賀美さんならどうかわからないですけど、今は絶対電話とってくれない時期だから……うーん」
などと唸りつつも「ちょっとほかの人に連絡入れてみます」と言って、スマホを触りだした。なにか文章を打ち込みながら、
「そもそも神谷さんが出会った『あさみさん』と、例の手紙に書いてあった『あさみさん』、たまたま名前が同じだけの、全然違うものである可能性もなきにしもあらず……」
などと呟く。
「ちょっ、やめてくださいよ……あーっ、同じひとだったらいいなぁ」
伸びをしながらそう言うと、シロさんも「ですよねぇ」と言って笑った。
「とにかく、当初の予定通り大学に行ってみますか。鷹島さんの出身大学は聞きそびれちゃったけど、もしかしたらそこかもしれないし、そしたら誰か、鷹島さんのことを何かしら知ってるかもしれない。何にせよ、もうちょっと調べてみたいでしょ。いきなり本丸に攻め込むのはキツいですよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます