14
三十分後、私はすっかり意気消沈していた。
早い話が、大学のセキュリティを舐めていた――というか、私が通っていた大学はキャンパスの一部が公園のようになっており、学内の売店や食堂も部外者の利用が可能だった。だから周辺住民が自由に出入りしていたのだ。
てっきりそれが普通だと思っていたから、正門前の守衛室にいたガードマンに「敷地内に入るには学生証を提示、もしくは氏名、住所、電話番号と入構の目的を書いて守衛室に提出」という説明を受けて、うっかり驚いてしまった。
「昔は緩かったんですが色々ありましてね。お手数ですがご協力をお願いします」
ガードマンのおじさんは、丁寧な態度ながら厳しい目つきをしていた。
この際個人情報を提供することについては致し方ないとして、入構目的はどうしよう? シロさんをちらっと見ると、音を聞いているのだろうか、顔をあちこちに向けて周囲の様子をみているようだった。
「あの、ボクちょっと思い出したことがあるので、ここお願いします」
突然そう言い残すと、さっさとどこかに歩いて行ってしまう。私は一人で守衛室の前に残されてしまった。
困った。ボールペンを持った手が完全に止まってしまった。シロさんなら適当な目的を思いついてくれたかもしれないけれど、私はそういうことが苦手だ。
とはいえここで二人で引っ掛かっているのは時間の無駄だし、若白髪でロン毛で白杖を持ってるシロさんは結構目立つ。一度不審者としてマークされると面倒だから、さっさと離れたのだろう。
「OGの方ですか?」
と、ガードマンが尋ねてきた。
「あ、いえ。私ではなくて姉が」
「申し訳ありません。ご本人か、ご本人が一緒の方でないと」
というわけで、あっさり詰んでしまった。
せめて誰かOBOGと一緒に来ていれば……とはいえ、姉は亡くなっているから無理だ。この大学出身の友人は何人かいるけれど、呼び出したとして、ここまで来るのに時間がかかるだろう。えりかもOGだが、連絡をとることすら怖い。
さすがにガードマンを物理的に倒すのは無理だ。裏門とかあるのかな、うっかりそっちから入れたりはしないかな……と一縷の望みをかけて歩き始めた。キャンパスは広い。出入口はこの正門だけではないはずだ。
フェンス越しに見るキャンパスは緑豊かで、こんな場合でなければ散歩を楽しめたかもしれない。シロさんはどこに行ったんだろう? 何しろ目が見えないとは思えないほど足が速いのだ。
歩きながら、大学に来る途中、シロさんと話していたことを思い出した。
(神谷さん、そろそろ起きてるときも気をつけた方がいいかもしれません。そういうやつは、だんだん現実にも侵食してくるのが定石ですよ。ボクがいるときはいいけど、一人になったときに変なことが起きたら、すぐ連絡ください)
「だったら一人にしないでほしいな……」
思わずひとり言が出てしまう。そのとき、
「神谷さん」
と、突然後ろから声をかけられた。
「ひゃっ」
「すみません、ボクです」
シロさんだった。本気で驚いてしまった。
「神谷さん、この辺を歩いてるってことは、あの後ガードマンをのしたりしてないですね。よかった〜」
「してませんよ! 私を何だと思ってるんですか……ていうかそれより、シロさんの方が大丈夫ですか?」
シロさんの後ろから、在校生らしい女の子が二人、顔をのぞかせていた。
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