05

「やっぱり気が咎めるんですよね……」

 鷹島さんの家の前に立ったとき、どうしても気が進まなくて、シロさんにそうこぼした。

「そうですか?」

「だって、どうしたって嘘つかなきゃならないじゃないですか。普段ならまだしも、家族が亡くなったばかりの人に、こういう場で……」

「神谷さんにもグイグイ行けないときがあるんですねぇ」

 シロさんは冗談っぽくそう言っておいて、「もしかしたら神谷さんの命がかかっとるんですよ」と私に釘を刺した。それでようやく、インターホンを押すことができたのだ。


 鷹島さんの実家は、周囲の家よりも一回りほど大きな一軒家だった。どっしりとした門の向こうには芝生を植えた庭があり、見るからに「裕福なおうち」という感じだ。建物自体は新しくはないようだが、元々がしっかりしているうえに手入れが行き届いているのだろう。決してボロいなどという印象は受けない。はたから見れば幸福そのものみたいなおうちだったんじゃないか――なんてことを、つい考えてしまった。

 出迎えてくれたお父さんも「普通のきちんとした人だな」という印象の人だった。疲れていそうな印象は受けたものの、挨拶をする声は落ち着いてはっきりとしていたし、服装なんか私の父よりずっとおしゃれだ。紺色のポロシャツにベージュ色のチノパンを穿いて、すらりとして背が高い。そういえば鷹島さんも背が高くておしゃれな人だったなと思い出すと、またモヤモヤと罪悪感が湧いてきた。

 三和土には男性ものの靴しか置かれていない。家族はお父さんしかいらっしゃらないのだろうか――ますます気が重くなってくる。普段の私はもう少し図々しいはずだけど、今回はその辺の自分がまるで出てこない。また姉が亡くなったときのことなんか思い出してしまう。

 一方、シロさんの腹の括り方は凄かった。鷹島さんとは面識すらないのに家の中までついてきてくれた上、私がここまで来るタクシーの中で話した内容をもとに、いつの間にか「鷹島さんとは神谷さん経由での知り合いで、なんやかんやお世話になって、今日は神谷さんの付き添いを兼ねて~」みたいな話を作ってしまっている。そりゃいきなり「お嬢さんのことで色々あったので霊能者がついてきました」なんて、知りもしない相手にいきなり言えやしないのだが、こんなふうに思い切って口八丁で話せるあたり、正直怖い……と思ってしまう。

 でも、シロさんがついてきてくれて本当によかった、とも思う。気のせいかもしれないけれど、家の中に入ってから、誰かに見られているような気がして仕方がない。私一人だけだったら、ろくに話もできずに逃げ出していたかもしれなかった。

「美冬はちゃんと仕事してたんですかね」

 シロさんと話しながらお父さんがぽつんと漏らした言葉が、私をどきりとさせた。ああ、お父さんは鷹島さんのことをちゃんと知ってたんだろうな、と思った。あんまりしてませんでした、なんてこと、事実だったとしても言えないのだが、

「しっかりされてましたよ、ねぇ神谷さん」

 なんて、シロさんみたいに平気で言うのも無理だ。

「そういえば、お父様のこともよく話してらっしゃいました。腰が痛いのが心配でとか、コルセットちゃんと着けてるかなとか」

「そうですか。他所の方にまでお恥ずかしい、私がよく忘れるもんですから……」

 シロさん、なんで私が知らないことまで知ってるんだろう。やっぱり怖い。

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