04
降車駅のひとつ手前のアナウンスが流れ始めたところで、シロさんは目を覚ましたらしく、ふっと顔をあげた。
「神谷さん、大丈夫でした?」
「なんとかまぁ……」
私は答えた。幸運なことに、シロさんが寝ている間は眠くならなかった。不安でそれどころではなかったのだ。
「シロさん、よくあんなストンと眠れますね」
「なんかこう、頭の中にある瞼を閉じる感じというか……」
「そんなのあるんですか?」
「便利ですよ。よみごは皆できるのと違うかなぁ」
「そういうものなんですか!?」
「あはは、たぶんね」
そういえばシロさん以外のよみごさんって、シロさんのお師匠さんの他にもいるのだろうか? 初めてそんなことを考えた。シロさんは色々あって本拠地を飛び出してきてしまったらしいから、よみごさんの仲間に助けを募るのは難しいのかもしれない。
「神谷さん、危ないことなかったですか? 眠らずに済んだんですよね?」
「済みました。『る』がつく人名、検索してストックしておきました。いつでもリベンジマッチできます」
「手強いなぁ」
私たちは電車を降りた。
鷹島さんは実家から通勤している様子だったからおおよそ察していたけれど、彼女の実家がある市は、私が暮らす町とそう離れていない。電車一本で一時間弱、もちろん同じ県内だ。
駅の近くに県立大学のキャンパスがあり、地方都市の在来線の駅にしては利用者が多い。自動改札が導入されたタイミングも、県内では早かったはずだ。
「若い子の声が多いですねぇ」
シロさんが少し首を傾げて言う。
「この辺学校が多いんですよ。そういえば県立大学がわりと近くて、姉がそこの教育学部に通ってました」
もしかしたら姉の晴香は、鷹島さんと会ったことがあるかもしれない。ふとそんなことを考えた。そういえば鷹島さんって大卒だったっけ? この辺りに実家があることだし、もしかしたら晴香と同じ大学に通っていたかもしれない。
この県内に生まれて一定以上の学力があり、なおかつ実家から通える大学に進学したい文系の高校生は、かなりの確率でこの大学のオープンキャンパスを訪れる。学年は被らなかったかもしれないけれど、晴香は卒業後も何度かサークルに顔を出していた。鷹島さんの実家が近いのなら、学外でたまたますれ違っていた可能性もある。
ちょっとしたことも手がかりになるかもしれない。鷹島さんのことを覚えていないか、晴香本人に直接話を聞けたらいいのに――と考えて、鼻の奥がツンとなった。晴香が亡くなったのは二年前だ。ほんの二年、まだ喪失感は完全に癒えない。
「私、県外に出てたんですよね。そうじゃなかったら鷹島さんと同窓だったかも」
「進学先が限られるの、地方あるあるですね」
「ほんとそれで……あっ!」
突然そのことを思い出して、思わず大きな声を出してしまった。どうしてさっき、最寄り駅を聞いた時点で気付かなかったのだろう?
「なんですか? 神谷さ」
「えりか! えりかが姉の後輩で同窓です!」
ものすごい手がかりを見つけた気がして、私は思わずシロさんの背中をバシンと叩いてしまった。
「いった! 神谷さん落ち着いて!」
「すみません! でもほらシロさん、何か思い出したら言ってっていうから!」
「言いましたけど! もうちょっと落ち着いてお願いします! 要するにえりかさんは、この辺りに実家がある鷹島さんとニアミスしてた可能性があるってことですよね?」
「ニアミス以上かもしれないですよ!」
「だから落ち着いてくださいってば。とにかく鷹島さんのご実家に行きましょう」
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