06

 通されたのは八畳ほどの洋間だった。驚くほどものがなく、今風のコンパクトな仏壇が置かれているだけだ。祭壇は作られていない。葬儀どころか、遺体がまだ警察から戻ってきていないのだろう。

 仏壇の前には座布団がひとつ、フローリングの上に直接置かれている。お父さんがさっと部屋の奥に入ると、こちらは来客用なのだろう、隅に三つ重ねてあった座布団の山からひとつをとって、仏壇の前にある座布団のすぐそばに置いた。

 お悔やみを言うにはあまりにも早すぎるタイミングだったろうか。今更のように心配になったけれど、とはいえちゃんとお父さんの了解は取ったわけだし、帰るわけにはいかない。

 仏壇の前には、すでに鷹島さんの写真が飾られている――確かに鷹島さんだ、と思う。でも。

 妙に若い。バストショットだけど、紺色のブレザーと赤いネクタイがいかにも制服っぽい。メイクもしていないようだ。どう上に見積もってもせいぜい高校生、むしろ中学生と言われてもおかしくはない。

(これしか写真がなかったの?)

 私はちらりと後ろを――鷹島さんのお父さんを見た。さっき「普通のきちんとした人」と感じたばかりの男性が、今は違った側面を見せている風に思えた。

 遺影にするなら、普通はもっと最近の写真を使うものではないだろうか? 成人式とか、大学の卒業式とか、旅行に出かけたタイミングでとか……そういった撮影の機会が一度もなかったのだろうか?

 もしかしたら鷹島さんではないのかも……と思いかけた瞬間、

「美冬です」

 お父さんが低い声で、でもはっきりとそう言った。

「はっ、はい」

 とっさにそう応えた。お父さんは何も言わなかった。

 胸の奥がざわざわしてきた。普通の裕福そうな家庭と、常識のありそうな親御さんという印象が、この若過ぎる遺影とはどうにも噛み合わないような気がする。

 私はシロさんに視線を移した。シロさんは両目を閉じている。何を考えているのかわからない。そもそも遺影が見えないのだから、私の感じている違和感は彼にはわからないのかもしれない。

 私は仏壇に視線を戻した。

 仏壇には位牌がいくつか、そして女性のカラー写真が飾られている。鷹島さんによく似ているが、もっと年上だ。お母さんだろうかと考えたところで、

「家内です。早くに亡くなりまして」

 私の視線に気づいたのだろう、タイミングを計ったように、鷹島さんのお父さんがそう言った。さっきのこともあってかなり驚いてしまい、その場で飛び上がりそうになりながら、私はなんとか「そうですか」と答えた。声が震えていないかどうか、不安になった。

 写真のことは、私の考えすぎかもしれない。たまたま撮る機会がなかったとか、写真があまり好きじゃないとか、聞いてみれば「なんだ、そんなことか」と思うような理由があるのかもしれない。

「神谷さん、ボクの代わりにお線香立ててもらえませんか?」

 シロさんが普段通りの、まったく動揺の読み取れない声で、私に話しかけてきた。いつのまにか、お父さんが新しく敷いた座布団を探し当てている。きっと音でわかったのだろう。

「わ、わかりました」

「ありがとうございます」

 落ち着け私。考えすぎだ。

 二本の線香に火を点け、シロさんと一緒に手を合わせた。

 真面目な顔をしているシロさんを横目に見ながら、よくこんなに神妙にできるものだと改めて感じた。あまりいい感情ではない。

 わかってはいる。シロさんが悪いわけじゃない。嘘はついているけど、それは手っ取り早く手がかりを探すために必要なことだ。亡くなった鷹島さんや、鷹島さんのお父さんに対して、なにか失礼な行動をとったわけでもない。

 それなのに「なんか嫌だな」と感じてしまうのは、私の心の問題なのだ。

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